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“詰めろ”逃れの“詰めろ”

 帝国海軍との海戦から三日。

 艦隊はついに、帝都沖へと到達しました。


「すでに帝都の包囲は完了しているはずだ。なぜ攻撃を開始しない?」


 ルキアは“パラベラム”館内に構築した魔法陣による通信で、帝都を包囲中の第三師団との会談に臨んでいます。

 ルキアの問いに、師団長は苦い顔で答えました。


「上空からの偵察で、帝都要衝に自律制御式のゴーレムが大量に配備されていることがわかった。第三師団のみの戦力でこれを撃退することは不可能だ。後続の第一師団、第二師団の到着を待たねば、帝都占領は困難な状況だ」


「ゴーレムだと? リューベックは籠城戦をやるつもりか?」


「リューベックの意図はわからん。いずれにせよ、第三師団は帝都を包囲しつつ、第一師団と第二師団の到着を待つ。3日後には集結の予定だ」


「状況は了解した。が、リューベックの意図が気にかかる。また午後に通信したい」


 そうして会談は終了したものの、ルキアは険しい表情で何事かを考えているようでした。

 エテルナ様が、ルキアに問います。


「帝都が防御を固めていることが、それほど不可解か? 単に王族の脱出のために、転移魔法陣稼働の時間を稼いでいるだけでは?」


 ルキアはこれを即座に否定します。


「いや、帝都ではいつでも主要な王族の避難に十分な転移魔法陣の稼働備蓄がある。逃げるつもりならとうに逃げている。というか、私もリューベックはじめ保守派の面々はすでに逃げているだろうと思っていた」


「それでいいのか?」


「すでに民衆の輿望は我々の側にある。仮に皇帝が逃げても、風向きは変わらん。帝都を押さえれば我々の勝ちだ」


 ルキアの答えに、エテルナ様も首を傾げます。


「そうした状況で、リューベックは逃げるためでもなく、かといって包囲を解くためでもなく、ひたすら守りを固めているわけか」


「ああ。その意図がわからん。守るといっても、状況が打開できるまで守りおおせるとはリューベックも考えてはいないだろう。第二師団長の言う通り、せいぜい数日、戦力の集結まで帝都占領を遅らせることができる程度だ」


「追い込まれて、打開策を練る時間を稼いでいるということは?」


「リューベックは窮地にあって時間稼ぎの手を打つような男ではない。必ず何か意図があるはずだ」


 その会話を聞いているうちに、僕の脳裏に、怖ろしい仮説が浮かびました。


「もしかして……リューベックは、戦力が集結するのを待っているのでは?」


「……どういうことだ?」


 ルキアがいぶかしげに聞き返します。

 僕は、自分の腕を出して見せました。


「これです。決闘の夜にも見せましたが、この爆弾が、帝都の地下にもあると父が言っていました」


 ルキアは、黒い魔力の輝きを放つ僕の腕を見て、声を上げました。


「まさか! その爆弾、魔法陣の形であれば、百倍の威力があると言っていたな?」


「はい。帝都どころか、この艦隊ごと巻き込んで、周辺が灰燼に帰すほどの威力です。リューベックは、あえて帝都周辺に反乱軍を集結させ、帝都ごと一気に葬り去ろうというつもりなのでは」


 僕の言葉に、ルキアはしばし考えこんでいましたが、やがて苦々しげにつぶやきました。


「……あり得る。リューベックならば、帝国存続のため、どれほど苛烈な手段でもとるだろう」


「とすれば、帝都に戦力を集めるわけにはいかず、かといって現状戦力だけで帝都を占領することもできず、このまま時間が経過すれば、エルフの大同盟の撤退とともに陸軍戦力も逆転してしまいます。むしろこちらに“詰めろ”がかかっている状況です」


「くそっ、なんてことだ……ここまで来て、手詰まりだというのか!?」


 ルキアがめずらしく苛立ちを露わに、机を叩きました。

 それをなだめるように、エテルナ様が言います。


「苛立つ必要はない。そこまで読めたなら、打開策はある。やはりルキア、天命はあなたの上にあるのかもしれない」


「どういうことだ?」


「敵は、私がここにいることを知らないのだろう。私とエルが帝都に潜入し、“黒の涙”を解除する。大規模魔法陣による妨害がなければ、ゴーレムごとき私の敵ではない。エルは爆弾の解除法を知っている。状況を打開するには、この手しかない」


 エテルナ様の言葉に、僕もうなずきます。

 ルキアは驚いたように、エテルナ様に問います。


「しかしそれでは……万一リューベックが爆弾を起動すれば、あなたたちは死ぬことになるぞ!?」


「もしもの時のために、兵は退かせておけ。首都を見殺しにするような皇帝は、もはや国民の支持を得られないだろう。万一帝都が消滅したら、軍を反転させ、敵を迎撃し、勝利を掴め。そうして新国家樹立の暁には、魔物の国との友誼を違えないでほしい」


 ルキアは、しばし逡巡したのち、もはやそれしか策がないことを悟ったのか、地に膝を突き、エテルナ様の手を取って言いました。


「……魔王エテルナ、あなたとの約束を違えないことを、最大の敬意をもって誓おう。帝都の脅威をあなたの手で排除してほしい」


 そうして直ちに陸軍との通信が再び行われ、僕たちはついに、大陸へと降り立ったのでした。

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