エコロジカルでもエシカルでもない魔法
「そうか、気付いたか。」
体内魔力の消費を減少できる事と、相手の体内魔力での魔法行使ができることへの報告した際の反応は淡々としたものだった。
聞いてみると、この事自体は公開されていない真実だとのこと。真実ならなぜ広めることをしないのだろう。そう聞いてみた。
「魔法源の魔力は限りある資源なのだ。無制限に使うと枯渇してしまう。だから、発動の際に魔法源へ魔力を還元しているのだ。」
還元?って抽出した魔力を戻している。
「気付いていなかったのか、実際に使っている魔力の殆どは体内魔力からだということを。」
溜息を付いた師匠から、呪文の構築について細かく説明してくれた。昔の魔法は魔法源の魔力をそのまま使っていたらしい。だが、使っている内に世界の魔力が段々低下している事が解ってきた。低下が進むと魔法的な生物の生存が脅かされる可能性があることも解ってきたそうだ。
魔法的生物~ドラゴンとかエルフとか~から自己の生存を脅かす魔法を禁呪とする強い要請が行われ、魔法体系を根本的に見直すこととなり、今の魔法が作られたという。
「魔法の根幹は、魔力の行使だ。体内魔力を用いても、魔法源の魔力を用いても同一の効果を得ることが出来ることは既知の事実だ。まぁ、魔法源の魔力をトリガーとして、体内魔力を練り上げて発動させる故、当代の魔法のほうが発動が遅いという事実も否定できないが、魔法的生物の生存権を守るためには止むを得ないことだろう」
呪文対象の体内魔力を行使する魔法はどうなんだろうと聞いてみた。
「今ひとつ考察が足りないようだな。体内魔力はありとあらゆる生物が持っている。取り出そうと思えば、相手を問わず抜き取ることが可能なのだ。だが、植物や羽虫からの体内魔力の抽出は、それらの死に直結している。周囲の生命体から直接体内魔力を奪って、魔法を発動させることは出来るし、当代の魔法よりも速く発動させることも出来る。だが、対価は、周囲の生物の生命もしくは苦痛となる。そのような魔法、倫理的に正しいものだと思うかな?」
いや、倫理的どうこうより効率よく使えれば・・・と、思いかけて先程クレームをつけてきた魔法的生物の中にエルフがいるのを思い出した。植物を根絶やしにして魔法を使うなんて、許してもらえるはずがないじゃないか。この手の呪文を広めるって、エルフに対する宣戦布告になりかねない。うん、禁呪だよね。これ。
「それはそうと、この事について誰かに話していないだろうな。」
師匠の問いかけに頷こうとした瞬間に、友人に口走ったことを思い出した。
「禁呪の件、しっかり了解させるのだぞ。」
引きつった表情から察したのか、師匠からしっかり釘をさされた。まぁ、アイツも話したら解ってくれるだろう。世紀の大発見と思ったのに、実は禁呪だったとは思わなかった。