春の出会った運命の人
三匹の悪魔に犯された春休みが終わった。
そして新しい学期が始まった。
正樹は桜並木の歩道を、ノロノロと一人で歩いていた。
「休暇の名残惜しさ…感じねぇぜ…というか、俺に春休みなんて無かった」
正樹は、ポケットに手を突っ込んでため息を吐いた。
鬱々とした気分の正樹。鮮やかな桜の花弁は、正樹を慰めるように舞い散った。
「ふぅ…小学生も始業式か」
目前を歩く並列繋ぎの小学生女子群を眺めた。
ミニスカートから伸びた、若く艶やかな脚に視線が定まった。
新米のように白く美しい肌。
それらを、食い入るように、食い付くように、貪るように…ガツガツと…見つめた。
正樹の足先はブレだし、やがて通学路から外れた。
小学生の尻を追いかける正樹。
「……デュフフフフ……美味しそう」
ほくそ笑む正樹。お巡りさんに見られたら職質確実である。
「お兄さん、ちょっといいかな?」
「ぶひっ?!」
正樹は巡回中の警察官に、声をかけられた。体育会系のイケメン警察官だ。
正樹は、豚のような叫び声を上げた後、背筋をピンッと正した。
弛んだ顔を引き締めて、頭を軽く下げた。
「お巡りさん?な、何でしょうか?」
「君は四野川高校の生徒だよね?方向が違うんじゃないかな?」
「あ…さーせん…実は」
公僕、国の番犬に嗅ぎ取られるようでは…ロリコンとしてまだまだ未熟っ!!正樹は深く反省しながら、通学路から外れた理由を考えた。
高性能スパコンより早く、0.0001秒で、考え、口から嘘を吐いた。
「こっちに友達がいるンスよ、迎えに来たンス」
「ほぅ…友達…」
国の番犬は目を細めた。
「じゃ、友達のお宅まで着いていってもいいかな?」
「ブヒィ!?」
正樹は、疑り深い警察漢に驚いた。動揺をなんとか隠し、平静を装った。
が、色々と不浄な感情がダダ漏れているので、事情を汲み取られた。
「君、ちょっと様子がおかしいね…まさかあの子たちを」
「ちがいまひゅ!僕はロリコンじゃないでひゅ!」
ゴッ!!
正樹の目が回遊魚のように泳ぎ出した瞬間、目の前のお巡りさんが吹き飛んだ。
地面をゴロゴロ転がる警察漢。所持していた物品が散らばった。
「あいたたたぁ…」
正樹の目の前に、女の子座りをした金髪美少女がいた。女の子に化けたユイである。
四野川高校の制服を着て、食パンを咥えている。
「ゆ、ユイ?!」
「あんちゃん探したよぉ…」
涙目で立ち上がったユイは、正樹に縋り付いた。
「ユイ、お前何してんだ?」
「曲がり角で食パン咥えて打つかろうと思ったの」
涙を拭いながら正樹を見つめるユイ。正樹はユイの頭を撫でた。
「何世代前の漫画的展開をやろうとしてるんだ、お前は…」
「それが高校生の通過儀礼って聞いたよ?」
「運命の人との出会い!キャピ!…そんな素敵な通過儀礼ねぇよ…誰から聞いた?」
「ランちゃん!」
「……まあいい…逃げ……学校行くぞ」
正樹は落ち着いて混乱に便乗し、警察官を放っておいて、その場を去ろうとした。
「ん?」
コツン、と爪先に警察官の所持品が当たった。数多のグッズ(オモチャ)が散らばっている。
その中のひとつに、正樹の視線は奪われた。
それは小型カメラであった。
正樹は立ち上がろうとする警察官と、小型カメラを交互に何度も見た。
ワンコそばのように、変わりばんこに見た後に、ワンコ(公僕の犬)の肩を叩いた。
「貴様!公務執行…」
「お巡りさん、コレ…なに?」
正樹は地面に落ちた小型カメラを指差した。
「これなぁーに?」
ユイが小型カメラを指先で突いている。
警察官の表情は一瞬にして青ざめた。
「お、おお、押収物だ!?」
正樹はニンマリと笑った。
「私物でしょ?」
「盗撮は公務なの?」
「お巡りさんロリコンなの?ねぇ?」
「盗撮してたの?ねぇねぇ?」
マウントが取れると感じた正樹、警察官の耳元でささやいた。
仏のような穏やかな表情で、ゴッツゴツと殴るように強烈な問いかけを投げた。
警察官の男は、白目を向き、白い息を吐き、来世へ逃げようとした。
「…はい…小さい女の子好き…です」
しかし、転生できるわけもなく罪を認めた。
正樹は警察官に手を差し伸べた。
「同士よ…黙っておいてやるよ」
警察官は、目尻から涙を流しながら、正樹の手をしっかりと握った。
「…ああ…貴方は命の恩人だ」
「ひとつ、貸しだぞ、同士」
「ああ!」
側から見れば、警察官が学生に手錠をかけようとしている…ように見える。
「やははぁ、桜餅がたくさん生えてるね」
ユイは(*´ω`*)のほほんと桜の木を見上げている。金色の髪が風で靡いている。
ユイの足元には、壊れた赤べこ人形が転がっていた……。