春休みは終わりますが養い続けていただきます!
春休みの終日。
正樹は溜め込んだ宿題を半日で終えて、まったりしていた。
ネットサーフィンを楽しみおえ、雑音を入れない為に付けていたヘッドホンを外した。
耳の穴に飛び込んできたのは、悪魔達の不満の声であった。
「ふざけんな正樹!」
「正樹、ひどいです!」
「あんちゃん……痛いよ!」
正樹は回転椅子を半回転させ、声のする方向を向いた。
ベッドの上に、三色ボンレスハムのような物体があった。
それは荷締め用ビニル紐でグルグル巻きにされた、三匹の悪魔だ。
「春休み後、お前らの処理に困っている」
正樹は腕を組んで、目の前にいる野生児達を睨んだ。
レンが唇を尖らせた。
「家電ゴミを出すみたいに言わないでください、悪魔ですか貴方は」
「お前ら地獄に帰れ!春休みが終わんだよ」
正樹の眉が曲がっていった。
目で訴えた。
おしくらまんじゅう状態の三匹。
レンは、背中にくっ付いている"食いしん坊"と"暴れん坊"を見た。
「……言いたい事は分かりますけど……"多少"は馴れ合ったでしょう?仲良く暮らして行きましょう!」
「ああ、俺とて離れたい訳ではない……だがお前は二人の手綱を握れるのか?」
「……がんばります」
「頑張る?言葉だけじゃダメなんだよ?分かるか?」
「分かりますけど、どうすれば…ふぇぇ……」
正樹の返しにお手上げ状態のレンは泣き出した。
「あんちゃん!レン君泣かしちゃダメ!」
ユイが怒鳴ると、硬い表情の正樹は怯んだ。
「ユイ、養われたいなら、いい子にできるか?」
「なる!」
「いい子は毎日ご飯一升も食べない、なれるか?」
「……なれるかも」
「いい子は唐揚げが毎日食べれなくてもウジウジしない……なれるか?」
「なれにゃぃよぉ…ふぇぇ……」
ユイが泣き出した。
正樹の不安要素の一つに、食費の増加の件があった。
家計簿の管理はしていないが、調理担当である正樹は、その事が気になって仕方がなかった。
「ラン、何か言いたい事は?」
「ねーよ……」
「ん?無いんだな?お前にしては珍しいな」
「正樹なんて大っ嫌いだ!死ね!」
ランの言葉は、正樹の心に大ダメージを与えた。
吐血しながら、ベッドにユラリユラリと近づいた。
「お前らを学校には連れていけないんだ……分かるか?」
「っせぇ……わかんねぇよ」
「一緒にいて、お前らの面倒を見てやれない……俺も辛い……」
「辛さで死ね!この(自主規制)っ!!」
ランは正樹に背中を向けている。
口から吐かれた言葉は部屋に反響し、正樹の全身を貫いた。
正樹は膝から崩れ落ちた。
「お前らに留守番任せるなんて不安しかねぇよ!」
「不安なら学校連れてけよ?バカかテメェ!」
「いや、無理だろ!?」
その時、部屋の扉が蹴破られた。
澄まし顔の凛子が入室した。
「ただいま」
「母さん、大人しく入室してください」
「話は聞かせてもらった」
「盗聴器でも仕掛けてるんですか?」
凛子は正樹の胸倉を掴みあげた。
そして、いつものように明るく微笑んだ。
「正樹、君は私に養われている、そうだね?」
「は?はい……」
「つまり私は家庭内最高権力者である、悪魔チャン達をどうするか、決定権は私にあるわけだ、違うかね?」
「いえ……違いません」
「そういう事だ」
凛子は掴み上げていた手を離した。
三色悪魔を縛る紐を解いた。
ラン、レン、ユイは、ベッドの縁に並んで座った。
「さて、悪魔チャンズ……」
レンが手を挙げて、凛子の発言を遮った。
「正樹と一緒に、学校に行けば問題ないかと」
「でも人間に変身できると言っても君らは……まさか」
「ええ……そのまさかです!」
三匹の悪魔は懐からスルスルと布を取り出した。
身を包み混んで、モニョモニョと呪文を唱えた。
赤青黄の光を放ち、部屋が光に満たされた。
光が弱まると、三人の美少女が立っていた。
幼女変身時の姿を、そのまま成長させたようだ。
「クソ……可愛い」
地方最高レベル美少女胡桃よりも、遥かに上の美少女に、正樹は息を飲んだ。
「なぁに見惚れてんだ童貞」
ランはニヤニヤして中指を立てた。
正樹は絶句した。
凛子は小さく拍手をした。