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6/13

ウォールナットは砕けないっ!!


春休み中盤。

桜の花弁が満開になっていた。

桑野家は、桜並木のある遊歩道沿いに建っている。

正樹は窓から、桜並木を眺めながらパソコンデスクに座っていた。

可愛い悪魔と同居し始めたんだが、何か質問ある?のスレッドはノロノロと成長を続けていた。

正樹はキーボードを指先で叩き、スレッドに栄養(ネタ)を送っていた。


「最近アンチが一つも湧かないなぁ……」


スレッド内の人々は、悪魔ちゃん達の事をネタ扱いし、誰も信じていない。

少なくとも ID K3以外は。


[870] ID K3


主主!悪魔ちゃん達の画像クレ!(*´꒳`*)シ

早くクレ!クレ!クレ!ψ(`∇´)ψ


[871] ID 壊れたあかべこ

>>870

君、落ち着けよwww


[872] ID jpg魔王

主は、画像の加工編集する時にどんなソフトを使ってるのかな?

一応、その手の業界で働いてるんだが、悪魔ちゃん達の合成が自然過ぎて、かなり驚いている


[873] ID ウォールナットは砕けない


スレ主、悪魔チャン達のキーホルダー作れよ!!


[874] ID スレ主君

>>870

課金アイテムです、口座番号教えるんで振込オナシャス


>>872

フォトショプー、などを駆使いるんじゃあないですかねぇえ……ノーコメントです


>>873

このフォルムは確かにキーホルダーにぴったりですね

ちまっこくて可愛い悪魔ちゃん達です

ちなみに悪魔ちゃん達は変身できて、美少女化、美少年化できるそうです。


[875] ID ウォールナットは砕けない

>>874

スレ主マジデ!?まじでぇええ!?マッジィデェエエエエエエッ!?

美少年化の写真クレェええぃ!



凜子からの書き込みがあった。

書き込みされた時間を確認し、ため息を吐いた。

ランチタイムには早過ぎる時間だ。

仕事中の書き込みだ。


「母さん……デスクで何やってんだ……仕事しろよ」



パソコンの画面を見ながら落とし、肩を落とした。

再びため息を吐いて、再び窓の外の桜並木を見つめた。

遊歩道に散らばる薄紅色の花弁。

河原でレジャーシートを広げ、花見をしている人々。

桜の花弁が風に舞い、川の流れに乗っていった。

春らしい景色である。


ヒュウっと風が吹いて、窓から花弁が入り込んだ。

桜の木が「貴方も来てね」と伝えたがっているように、テーブルの上に落ちた。

正樹はそれをつまみ上げた。


「花見……かぁ」


[875] ID スレ主君


て、な、わ、け、で、美少年化させた

悪魔と花見に行ってくる!(`・ω・´)ノシ


[876] ID ウォールナットは砕けない

>>875

フザケンナ羨ましい!シねよ!!

いてらー(`°皿°´)ノシ

羨ましい……


書き込みをしてから、パソコンの電源を落とした。

正樹は座ったまま、回転椅子を反時計回りに回した。

三体は座布団の上で胡座をかいて、テレビ画面を食い入るように見つめている。


「レン死ね!」


「仲間を撃つなボケチン!」


「ふぇええ……なんか僕だけ狙い打ちされてるぅ」

正樹を、オンライン型シューティングゲームに、せっせと勤しむ悪魔達を眺めた。

人間を学ぶと言っておきながら、この有様である。


「おいお前ら、花見に行くぞ」


それから数分後、正樹は玄関ドアを開けた。

三体を幼い男の子に化けさせた。

ユイは金髪の麗しい少年になった。

正樹の袖を掴み、首を傾げている。


「あんちゃん、何で男の子なの?」


「んー?……お巡りさんに質問されるのが怖いからだよ」


「お巡りさんに???」


正樹とユイの後方では、レンとランがイチャイチャ(口論)していた。


男の子に化けたランは、女の子に化けた時とあまり違いは無かった。

鮮やかな赤髪の美少年だ。

レンは黒髪で、賢そうな雰囲気の美少年に。


三体それぞれの容姿は、その手の嗜好がある人ならば、必ず目を奪われる美しさだ。

我を忘れて、涎を撒き散らしながら飛び付きたくなる。

悪魔的に可愛らしいのだから、間違いない。

外に出てから、正樹の視線カウンターが発動していた。

ラン、レン、ユイを見る視線を、カウントしている。

口喧嘩をしているラン、レンよりも、のほほんとしているユイに視線が集まっている。

正樹は、顎をさすった。


「今のところ、ユイが一番だな」


「えっ??……僕もあんちゃんが一番好きだよ!」


ユイは勘違いをした。

天使のように笑って(※ユイは悪魔です)正樹に抱きついた。

破壊力は抜群だ。


「くっふひ!!……早くアルケィ」


川沿いの遊歩道は、花見をする人々で賑わっていた。


「あそこにするか」


正樹は河原に降りて、芝生の上にレジャーシートを広げた。

ちょうど、桜の木の下だった。

正樹は、絶景ポイントが空いていた事を不思議に思った。


レンとユイは、レジャーシートを広げるのを手伝った。

広げたシートの上に、ランがダイブした。


「俺様がいっちばーん!!」


「ラン!お行儀が悪いです!」


「うるせぇ悪魔が行儀とかほざくな」


正樹はシートの上に、胡座をかいて座った。

ユイは、正樹の腕の中に収まるように座った。


「僕も、いっちばーん」


ユイは正樹を見上げて、ニッコリ笑った。

風が吹いて、木の枝が擦れてザワザワと音が立った。

誰かさんの胸の中は、もっとザワザワした。


「ユイ、お前は天使だろ?」


「??悪魔だよぅ?」


ランは寝転がりながら、2人の様子をみつめた。

ふくれっ面で羨ましそうな顔だ。

レンは、それを見逃さなかった。


「何物欲しそうな顔してるんです?」


「してねぇし!……レン、遊ぶぞ」


「まぁ、ランが寂しそうだから、付き合ってあげますよ」


「別に……寂しくねぇし、勘違いすんな」


ランは顔をそらした。

レンはニンマリと笑った。


その時、レジャーシートに近づく人がいた。

正樹と同じ年頃の女の子だ。

地味な服を着ているが、誰もが振り向くような美少女だ。

艶々した黒髪を揺らしながら、正樹に近づいていく。

獄門屋のお好み焼き、と印字されたビニール袋を持っている。

その中には、五人前のお好み焼きが収まっていた


「正樹君、こんにちわ」


「お?胡桃??おいっす」


彼女は正樹のクラスメイトだ。

沢村胡桃といい、学校のアイドル的存在で、他校でも噂が広まる程の美少女だ。

桑野家と沢村家はご近所さんだ。

つまり、二人は幼馴染というやつだ。


「可愛いあく……男の子達と一緒に花見?私も混ぜて欲しいな」


「あ?いいぞ、座んな」


「お好み焼き、たくさん買っておいて良かった」


「ちょうど、人数分だな……」


胡桃は正樹の隣に座り、ユイを見つめた。

ほんの一瞬、美しい顔が、ケダモノのように綻んだ。


「お名前は?」


「ユイ!」



胡桃はユイの頭を撫でた。

瞳が異様にギラギラしている。

キラキラではく、ギラギラだ。

正樹はその点にすぐ気付いて、訝しむように目を細めた。

胡桃は金色の髪に触れながら、首を傾げた。


「ユイ君かぁ……あれ?正樹君、親戚に外国の方が?」


「おっふ……」


迂闊だった……正樹はすぐにそう思った。

人間に化けた時の三体の設定を、これっぽっちも考えていなかったからだ。


「母さんの仕事仲間の子供だよ、しばらく預かる事になってね」


基礎妄想力の高い正樹は、すぐにピンチを乗り越えた。

胡桃はそっかそっか、と納得して頷いた。


「凜子さんの仕事、ワールドワイドだからね、納得」


一方、レンとランは河原を探索していた。

レジャーシートを広げ、その上に集う人々。

レンとランは、それらを眺めながら歩いた。


「人がいっぱい……飴……使わせてみたいです」


レンは滾った好奇心と連動させるかのように、ワキワキと指先を躍らせた。

まるで鉄板の上で踊る鰹節のように。


「お!いい匂いがする!」

ランは鼻歌を歌いながら、スキップして歩いた。

とあるレジャーシートの中に入り込んだ。

そこには、若い男女達が座っていた。

シートの上には、缶ビールとコンビニの惣菜が並んでいる。

その中に、ホカホカ作りたてのお好み焼きがあった。

花見をしながらの合コンという事は、誰が見ても分かる。


「俺様も混ぜろやい!」


ほろ酔いの女性陣は、黄色い悲鳴を上げた。

「えっ?何この子!可愛い!」


「どうしたの?迷子?」

電磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、ランの周りに女の子が集まった。

大学生くらいの男の子達は、全員つまらなさそうな顔になった。


「お前ら、何やってんの?」


「合コンだよぉー」


「合コン……なんだそれ?」


人間の文化に詳しいレンなら理解できたが、ランは理解できなかった。

女性陣が分かりやすく説明すると、ランはある程度理解した。


「成る程、恋人を探す為の集まりね」


「そそ、彼氏探しの場所だよ」


ランは腕を組んで唸った。

女性陣の中で、気の弱そうな女の子を指差した。


「オネーサンよぅ、欲しい男は決まってんの?」


「ん……ええ……えっと」


「恋人を探しに来てんだろ?見つけたんなら、しゃんと背筋張って言わねぇと手に入らないぞ?」


気の弱そうな女の子は、一人の男の子を指差した。

男の子は目を丸くして、口をモゴモゴさせた。


「わぁ、君は恋のキューピッドだね」


ランは頭を撫で回された。

うざったそうに顔をしかめたが、女性陣には伝わっていない。


「天使っぽい表現は嫌だ、俺は悪魔だぞ」


「そっかぁ、悪戯な悪魔チャンかぁ」


「ご褒美にお好み焼きクレ!」


「はいはい、一つあげるよ」


ランは、お好み焼きの乗った皿を受け取ると早々に逃げ出した。

「うっは!いい匂い!」

歩きながら、お好み焼きを食べた。

ランは、木の陰に隠れているレンの背中を見つけた。


「ん?レン、何してんだ?」


ランは、レンの背後でお好み焼きを、綺麗に完食した。

そよ風を浴びながら、皿の上に箸を置いた。

完食してから、レンの背中を引っ叩いた。


「イッ!!……たぃ」


「何してんだよ?」


レンは目を潤ませながら、背中をさすった。


「……人間観察です」


「あ?」


ランも同じように木の陰に隠れた。

レンの指差す方向に、大学生くらいの男の子がいた。

先程ランがいたレジャーシートの若者達を見ている。


「俗に言う、ボッチか?」


「ええ、何か曰くがありそうですね」


「で?」


「鬱憤を溜め込んでいる顔です、願いの叶う飴を使わせてみようかと」


レンとランは姿勢を低くして、男の子に近づいていった。

ランが背中を叩いて、話しかけた。


「おにーさん、何してるの?」


「おわっふ!?」


男の子は、飛び上がって驚いた。

ランとレンを交互に見て、ため息を吐いた。


「本当に、何をやってるんだろうな、俺は」


「あの中に気になる女がいるのか?」


「気になると言えば、気になるな」


男の子は、一人の女の子を指差した。

それは、先程ランが告白の背中を押した、気弱そうな女の子だった。

レンが食い気味に近寄った。


「好きなんですか?」


「ああ、まだ……」


「なら良い物があります!!……まだ?」


男の子は、魂が口から出そうな程深いため息を吐いた。

レンは、フラれて気持ちを引きずっているのだろうな、と予測した。

男の子は、錆びたシャッターのように、ゆっくりと口を開いた。


「あそこに座ってる男達、一人を除いて……彼女の浮気相手だった」


男の子は、スマートフォンを取り出した。

画像ライブラリーを開いた。

"彼女"と違う男の子が、恋人のように手を繋ぎ歩いている画像が保存されていた。


「友達に協力してもらった結果、これだよ」


「え……え?ええ……五人もいらっしゃいますが!??」


「そう……一人なら何とかなると思ったんだが……女って、マジ何考えてるのか分んねぇよ」


男の子は、吹っ切れたように笑った。

目が点になっているランとレンの頭を撫でた。


「子供には分かんないな、でも聞いてくれてありがとうな」


男の子は、軽やかな足取りでその場を去っていった。


「「ええ……女って、こえぇ……」」


悪魔っ子の二人は、口から小さく漏らした。


一方、ユイは、胡桃が買ってきたお好み焼きをモグモグと食べていた。

ソースを口の周りにつけながら、がっつくように食べている。


胡桃は幸せそうに、その様子を眺めた。

正樹は桜の木を見上げながら、目を細めた。


「なぁ、胡桃」


「なぁに?」


「今日さ、お前の部屋行っていい?」


「え?ああ、いいけど?何で?」


胡桃は、気心知れた幼馴染の頼みを、快く受け入れた。

正樹は、胡桃を見つめた。

夜雲に隠れた月を探しているかのような表情だ。


「お前のパソコン借りたい」


「女の子のパソコンは秘密がいっぱいだよ?自分のパソコン壊れたの?」


正樹は腕を組んだ。

唸ってから、口を開いた。


「ウォールナットは砕けない……」


「!?ふひっ!?」


正樹の放った言葉に、胡桃の華奢な身体がビクリ動いた。

胡桃は口を真一文字に、固く固く閉じて、目を泳がせた。

額から汗が一筋垂れた。

普段ならば彼女が、そんな不細工な表情をしないのを、正樹は分かっていた。


「悪い、口がノーコントロールだった」


「ウォールナットは砕けるよっ!ハンマーで砕けるよ!ちなみにダイヤモンドってハンマーで砕けちゃうんだってさ!知ってた?」


「知ってる、で、ウォールナットって日本語でなんて言うんだっけ?」


「ンー、ワタシ エイゴ ニガテ ワカラナーイ」


正樹は顔は、月光を浴びたようにパアッと明るくなった。

明らかに挙動不審な様子を見たからだ。


「お前と二人きりになりたい」


「ご、ゴゴゴゴゴゴっ、めん!用事があったの!」


胡桃は、怯えたチワワのように尻尾を巻いて、逃げようとした。

正樹は逃す気は無かった。

胡桃の手首を掴んだ。


側から見れば、少女マンガに出てきそうなシーンである。

本質的には、取調室で刑事が容疑者を追い詰めるシーンである。

互いに、恋愛感情が無い事は分かっている。


「用事?用事って何だ?」


「んと、えと……針金細工で犬の置物を作るお仕事が……フヒッ、フヒヒひひっ!……えいっ!」


胡桃は不意を突いて正樹の手を、振り払い、脱兎のごとく走り出した。

正樹は舌打ちをした。


「図星だろうな、学校始まったら縛って問い詰めよう……しかし世界って狭いな……ん?」


正樹が振り向くと。

いつの間にか、レンとランがレジャーシートに座っていた。

お好み焼きを食べながら、願いの叶う飴玉を差し出していた。


「フラれたなら使います?」


「いや、振り払われたけどフラれてないよ」


それから、四人はのんびりと花見を楽しんだ。


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