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母帰宅す!!!


午後8時、玄関ドアが開いた。

グレーのパンツスーツを着た美女が入ってきた。

彼女は桑野凜子

正樹の義母だ。

年齢は27歳。

歳不相応に成熟した大人っぽい雰囲気を放っている

ビシッと着た細身のスーツを着こなている。

女騎士のように、キリッとした大人の女だ。


「正樹君、帰りました」


凜子は靴を脱いだ。

正樹から返事は無い。


「また小説を書いているのですか……」


リビングルームに向かい、カバンを椅子の上に置いた。

屈んで、冷蔵庫から缶ビールとタッパーを取り出そうとした。

階段を駆け下りる音が鳴った。


凜子は、冷蔵庫の扉越しにヒョイと顔を上げた。


正樹がニコニコしながら、階段を下りてきた。


「お帰り母さん!」


「おや、5歳児のような笑顔ですね、母親冥利に尽きます」


「何かメシ作る?」


「いえ結構です、おつまみがありますから、それと君の笑顔を酒の肴にしますよ」


凜子は缶ビールをつまみ上げて、小さく左右に振った。

凜子と正樹は向かい合うように、席に着いた。

凜子は上着を脱いで、ワイシャツのボタンを一つ外した。

カバンから黒いケースを取り出した。


「母さん、酒飲む時はやめときなよ」


「大丈夫、見るだけです」


凜子がケースのボタンを押した。

ガチャリとケースが開いた。

ケースは変形し、三つのスマートフォンを保持しているスタンドになった。

全体のフォルムは犬のようだ。


「ほんっとに、変態ガジェットだよなぁ」


「私のケルベロス君を、変態呼ばわりしないでください」


これは凜子の友人が作った物だった。

スマートフォンを三つ保持でき、大容量バッテリーを内蔵している。

保持するアーム部からワイヤレス充電が可能だ。

三つのスマートフォンを保持したまま、変形させてコンパクトに収納できる。

凜子は、三つのスマートフォンを起動させた。

缶ビールをグビリと飲んだ。


「飲みながらFXすんなよ」


「これのおかげで、家のローンは完済できたんです」


「……俺も将来、副業OKの会社に入ろうかな」


「そうしなさい」


凜子は、スマートフォンの画面と正樹の呆れ顔を交互に眺めた。

眺めながら、タッパーを開けた。

丸いスモークチーズが入っている。

一つつまみ、口に運んだ。

正樹は階段の方を、チラリチラリと見ている。

まるで、悪魔がやって来るのを恐れているかのような表情だ。

凜子はスマートフォンの画面を見る比率が高くなり、二人の会話は途絶えた。

流し台の蛇口から落ちる、水滴の音くらいしかしない。

それくらい静まり返っている。


「……正樹、私に紹介してくれないんですか?」


凜子が沈黙を破って質問した。


「え?何を?」


正樹は驚いて、声が裏返った。

凜子は、恨めしそうな目で正樹を見た。


「可愛い悪魔ちゃん達をです」


「え……何言って」


「私は、ID K3 です……私も愛でたいんですが」


「あ……」


正樹はすぐに思い出した。

やたらと顔文字を使い、最初に悪魔ちゃん達の画像を求めてきた人物。

それが凜子であった。


「あれはネタだよ!ネタ!」


正樹は平然を装って、嘘をついた。


「正樹、認めましょう」


声がして、凜子は周囲を見回した。


「ん?どこですか?......背中、触られた?」


背中を触られ、背後を向いた。

ラン、レン、ユイが立っていた。


「こんばんは、初めまして」


「わぁー、あんちゃんのお母さん綺麗な人だねぇー」


「ちっす!」


凜子はワナワナと手を震わせながら、三体の悪魔に近づいた。

上着から名刺を三枚取り出して、これから商談でも行うかのように、それぞれに手渡した。


「桑野凜子と申します」


「私はレンです」


「僕はユイだよぉ」


「俺様はラン!!」


凜子は三体と握手を交わした。

席に着くように促し、三体はそれぞれ椅子に座った。


「母さん、普通に受け入れてんじゃねーよ、悪魔だぞ?」


「ええ、悪魔ですね……」


「怖がりもしねぇのかよ?」


凜子は無意識に、正樹の質問を、表情を使って答えた。

目を細め、大切な思い出を懐かしむような、優しい表情だ。


「私はかつて……人からは悪魔と呼ばれた、優しい男と恋をして結婚したので、平気です」


「……」


正樹は、口を固く閉じた。

レンが挙手した。

場の空気が重要な商談をしているかのように、なってしまっている。


「掲示板で、我々の詳細は聞いたかと思います……率直に聞きたいです」


「ええ、どうぞ」


「僕らを養ってくれますか?」


「喜んで養いますよ」


凜子は営業スマイルではなく、自然な笑顔を見せた。

正樹は机を叩いて立ち上がった。


「おかしいだろ!」


「一体何が?」


「何で即決するんだよ」


「途轍もなく可愛いからです」


「そうか……好きにしてくだしゃあ」


正樹はフラフラとしながら椅子に座った。

ユイは、呆れて抜け殻のようになった正樹に擦り寄った。

凜子は再び、話を戻した。


「共同生活は認めます……ただし家事、お掃除やお皿洗いはしてくださいね?お買い物は頼めないでしょうから……」


「ご心配なく、お使いもできます」


「え?」


レンは、両手を顔で覆った。

パッと手を離すと、キラキラと輝くような美少女の顔に変化した。


「女の子、男の子、どっちでも化ける事ができます」


「素晴らしい……素晴らしい!!」


「服装も変えられますよ?ラン、ユイ」


ランとユイは、ポケットから薄い布を取り出して広げた。

布でレンを包み込むように覆い、布を剥ぎ取った。

レインコートは、学生服に変わった。


「スンバラッシィイイイイイイ!」


正樹は息を吹き返して、レンを抱き上げた。

我を忘れてレンに頬ずりしだした。


「ま、正樹!?」


レンは恥じらって、ジタバタと暴れた。


「母さん、俺、レンと二階に行ってくるわ!」


「何故?」


「身体検査受けても大丈夫かチェックする!!」


「座れ阿呆」


こうして、悪魔三体は難なく桑野家で養われる事になったのだった。



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