悪魔的に真面目な青い子
ネット掲示板、ヤジウマ。
現代社会の鬱憤を抱える者達が集い、時に
罵倒し合い、時に笑い合う。
玉石混交のスレッドの中に、正樹のスレッドがある。
正樹が立てたスレッド。
[可愛い悪魔と同居する事になったんだが、何か質問ある?]
の書き込みは罵詈雑言ばかりで、ゴウゴウと炎上していた。
正樹の発言が原因だった。
[168] ID スレ主君
報告します
赤い悪魔君、ツンデレでした
考えを改めます
性根の腐った豚のてめぇらには、差し上げません
スレ主君が独り占めします
今からたっぷり愛でてきます(・∀・)ノシ
コレである。
閲覧者達が怒った順序は、こうだった。
性根の腐った豚、は許容された。
独り占めします、が許容されなかった。
今からたっぷり愛でてきます、が怒りの種火を付けた。
(・∀・)ノシ が種火を爆発させた。
168の書き込み後、正樹への殺意のこもった発言と、毎日悪魔ちゃん達の画像を上げろ、の発言ばかりになってしまった。
正樹はそんなスレッドを見るのが嫌になり、放置していた。
正樹はモニターを見つめ、キーボードを叩いていた。
カタカタとリズミカルに叩き、指先が時々止まったり、悩ましく唸ったりした。
ランとユイは昼飯(正樹の手作り炒飯)をたらふく食べて、ベッドで眠っていた。
レンだけが起きていて、足の指先をユラユラと動かしながら、のんびりと本を読んでいる。
「んー……どうするかなぁ」
キーボードから手を離し、腕を組んで眉をひそめた。
正樹は小説の下書きを書いていた。
物語の展開と描写で悩んでいるのだ。
レンは、悩ましい声を聞いて、正樹を見た。
その後、勉強机の上に放置された、国語の問題集を見た。
「正樹、宿題はやらなくて良いのですか?」
「ああ?後でやるよ……勉強なんて意味が無い」
「んん……」
レンは本をパタンと閉じた。
正樹の横から、ヒョイと画面を覗きこんだ。
正樹は、冒険小説を書いている。
主人公が森林に迷い込んだ時の描写で、悩み指が止まっている。
「物語を紡いでいるのですね」
「ああ、そうだよ」
正樹はキーボードの上に指を置いた。
指先は、動く事は無かった。
レンは文面を読み、頷いた。
「身の程知らずな発言になりますが……正樹、勉強をしなさい」
「お前は俺のオカンか?いいよ、勉強なんて……」
正樹は鬱陶しそうに、手をフラフラと振った。
彼は勉強をしなくても、成績は平均以上を取っていた。
頭は人並み以上に良いし、落第する事は無い。
学生的に、常識的に、正樹は焦る必要は無い。
「正樹!」
レンはその手を掴み、引っ張った。
椅子が回転し、レンと正樹は向き合った。
「正樹、僕を見てください」
「何だ?」
「勉強には意味があります」
「無いよ、将来仕事で数学を頻繁に使うか?使わないだろ?」
悪魔が真面目に何を言ってるんだ、正樹は心の中でレンを嘲笑った。
「貴方が学校で習っている事は、役に立たないと?」
「ああ、思うね」
レンは首を横に振った。
「役に立ちます、必ず」
「立たないってば……」
「僕も学校に通っています、学校は学問への理解を深める場所です、それは同じでしょう?」
「お?あるのか?!そうだよ」
「貴方は気付いていない、学校で本質的に習っているのは"物事を学ぶ姿勢"です」
正樹は固く口を閉じた。
「貴方が仕事をする時!小説を書く時!スポーツをする時!学校で身に付けた学ぶ姿勢は!貴方を裏切らない!」
レンはそれを強く信じている。
正樹は、強く掴まれた腕の痛みで、そう感じた。
レンは力強くそう言って、パソコンの画面を指差した。
「勉強すれば道が開けます、森を書けます……駆け抜けられるはずです」
「レン……ありがとう」
「いえ、口が過ぎました……失礼しました…ひぃ!?」
正樹はレンを抱き上げた。
抱き上げて膝の上に乗せた。
レンは少し恥ずかしそうに、もじもじと身を捩った。
「森の知識を深めればいいんだな」
「そうすれば状況をイメージしやすくなります、舞台ができれば、後は貴方の自由です」
正樹はため息を吐いた。
先程、悪魔を嘲笑った自分を恥じている。
「俺は……お前より卑しい人間だよ……さっき心の中でお前を嘲笑っちまった」
「お気になさらず、反省は学びの為に必要です」
レンは上機嫌になり、足をパタパタ動かした。
「今は本がありませんから、僕の知識をお貸ししますね」
「頼むぜ!」
「一つ一つ、悩みを解いていきましょう」
正樹の指先は軽やかに踊った。
一時間程、執筆は続いた。
レンは要所要所で知識を貸した。
正樹は森の場面を書き終えた。
レンは一仕事終えたように、気持ちのいいため息を吐いた。
「レン、お前はきっと母さんに気に入られるだろうな」
「母さん?ああ……そう言えば、正樹のお母さんはどこです?」
「出張中でな、明日帰ってくるんだ」
「左様ですか、あの……正樹」
「何だ?」
レンは、俯いて恥ずかしそうに、モニョモニョと声を詰まらせた。
「手伝ったご褒美に……正樹の膝に座りながら読書がしたいです」
「それぐらい、いいよ」
「やったぁ!!」
レンは、はしゃぎながら本を開いた。
正樹は、レンの子供っぽい所を見て、頬を緩ませた。
液晶画面上部のウェブカメラを起動し、膝の上で読書をしているレンを撮影した。
正樹の顔は、フレーム外で写っていない。
それから、ヤジウマに立てたスレッドを開いた。
[288] ID スレ主君
賢い青い悪魔君は、控えめで真面目な性格、甘えてくる時は激キャワワでした。
子供を持つなら、こういう子供が欲しいです
画像を添付し書き込むと、すぐに反響があった。
[289] ID 壊れたあかべこ
>>288
激カワだし、何かエロい
入ってるだろコレ
[290] ID K3
>>288
悩殺的に可愛いです(`・ω・´)
(((o(*゜▽゜*)o)))愛でたい愛でたい!!
>>289
卑猥な解釈やめてくだしぇい!!
正樹は続々と書き込まれる反響を全て見た。
見終わってから、パソコンの電源を消した。
レンを膝の上に乗せたまま。
フッとため息を吐いた。
「母さん、明日帰ってくるんだよなぁ」
正樹は、ハッとして膝の上に座るレンを見た。
「帰ってくる……」
ベッドでグースカ寝るユイとレンも見た。
「帰って……きちゃう」
正樹は、額から一筋、汗を流した。