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天使と悪魔と変態


屋上に吹き付ける風が、急に鋭くなった。

天使の翼を広げた言葉は、柔和な表情を変えない。余裕たっぷりな表情で、レンとユイを見つめている。

「貴様はやはり天使…ですか」


「えっ?天使ちゃん…!?」

レンとユイは身構えた。天使と悪魔の対峙である。

正樹は、血飛沫が飛ぶような、激しい戦闘が始まる予感を感じた。


「まっ!ままっ!まてーい!」


正樹は両者の間に、割って入った。

両手を広げて、プロレスのレフェリーのように両者に掌を見せつけた。

「喧嘩はやめてけろ!」




「喧嘩なんかしないよ、正樹」

言葉は笑顔で返す。が、怖い。


「天使と悪魔が争い合っていたのは…随分前の話です…」

と言いつつ拳を固く握るレン。


「あっは!」

この場で笑顔なのは、ユイだけだ。好奇の目線を言葉に送っている。

ユイは空を切り裂く勢いでダッと走り出し、ガッと言葉に抱きついた。

「不意打ちっ!?」

言葉は舌打ちをして、懐から白銀のペンを取り出した。

白銀(シルバー)才剣(ジーニアス)!」

それを天にかざすと、短剣に変形した。

剣のグリップでユイを叩こうとした。柔和な表情が一瞬にして崩れた。


「天使ちゃん初めましてっ!仲良くしよー!」

フレンドリーなユイは、グニュグニュとすり寄った。まるで、磁石にまとわりつく砂鉄のようだ。


「お、お……」

ユイの無邪気な笑顔に、言葉は一瞬でノックアウトされた。

万物に効力を持つ、ユイの笑顔はリーサルウエポンである。

言葉は、ゆるゆると剣を下ろした。

白銀の剣は、白銀のペンに戻った。

「ユイ…たん…でしたか?分かりました…仲良くしましょう」


「お昼ごはん一緒に食べよ!」


「うん、いいよユイ」

言葉はユイと抱き合った。ユイの可愛さに完全敗北した様子。


「ユイ!バッチィ菌が着きます!こっちに来なさい!」

レンは両手で手招きをしたが、ユイは首を横に振った。

おもちゃに夢中な幼児のように、ユイは言葉にベッタリだ。


「僕は天使ちゃん好きだよぉ」


「私もユイみたいな悪魔は好きです」


ベッタリとべっとり、バチバチの三角関係。

その蚊帳の外に置かれた正樹。

手をワキワキさせながら、天空に向かって口を開いた。


「俺にテメェらの関係性を説明しろやぁ!!」


正樹の叫び声が轟き渡り、三人は口を閉じた。


「分かった正樹、説明しよう」

言葉は人差し指をピンッと立てて、得意げな表情で口を開いた。


「天使と悪魔の起源は知っているか?」


「神が天使を作り、そこから堕ちた天使が悪魔となった……くらいなら」


言葉は頷きながら、サムズアップした。

レンは腕を組みながら、何か言いたそうな顔をしている。

人差し指を忙しなく動かしてはいるが、固く口を閉じて会話が終わるのを待っている。


言葉は、爽やかに笑って頷いた。

「そう…そして両者は戦争をした…何度も…何度もな…陰陽のように馴れ合う事も混ざり合う事も無かった…昔はね」


「昔は…つまり今は?」


「カフェラテのように境界が無くなったよ」

言葉はそう言いながら、ユイのつむじを人差し指でクニュクニュとかき回した。


「私はね、悪魔と喧嘩しに来た訳ではない」


「むぅふぅ」

レンは我慢しきれずに、一歩前に出て、口を開いた。


「つまり願いが叶う飴の件ですか?」


「ん?あの飴か…あんなバカな物を人に使わせるな…そう言わせてもらう」


「人を知り学ぶ為の道具です!願いの代償に問題があると?ならば貴方達の…」


言葉は人差し指を立てて、口元に当てた。レンは口を閉じた。

「ま、落ち着きなさい…君らの"お勉強"についてはアレコレ言ったりしないよ」


「では何を?」


言葉は咳払いをして、顎をしゅりしゅりと撫でた。

「正体を明かしたのは、仲良くしようと思ったからだよ」


「まだ…何か言いたそうな顔をしていますね?」


「ああ…一言、言いたい」

言葉は、置いてけぼりにされた正樹を見た。

口を窄めて、ユイを優しく突き放した。

「あーれれぇ…」

ユイはヨタヨタとよろめきながら、吸い寄せられるように正樹にくっ付いた。


「正樹君と同居は…ズルイ」


「は?」

正樹は唐突な台詞を聞いて、目を丸くした。

言葉はスカートの裾を握りしめた。冷静沈着(クール)な委員長は顔を赤らめた。


「ズルイ……うん…羨ましいね」


レンは何かに勘付き、ニヤリと笑い、正樹に抱きついた。


「正樹との生活は、それはそれは楽しいものです!ね?正樹?」


言葉は、嫉妬の目をレンに向けた。どうやら言葉は、正樹の事が好きらしい。

正樹はポケットに手を突っ込み、口をねじ曲げた。

ハーレム状態なのに、この少年は全く嬉しそうではない。

何なのだろうか、何が気に入らないのだろうか。

読者諸君にはすぐに分かるだろう。


「幼女姿だったらな!〇〇を〇〇○して(自主規制)して(自主規制)したい!(自主規制)を舐めて起こされたい!」

正樹は天に向かって、汚物を吐いた。言葉の純な感情は拒絶された。


「こうなら…振り向いてくれる?」

言葉は大きな白い翼で身を隠した。再び開くと…白いワンピース姿の幼女がそこにいた。

黒髪の天使だ。まごう事なき無垢な天使だ。

「正樹好み…かな?」

おちょくるように微笑んで、小首を傾げる(ロリ)言葉。


正樹の目がビガーンと光った。

「フォオオオオオオ!!」

お気に召した(ドストライク)様子。

四つん這いになり、言葉に這い寄った。

言葉は目を閉じて、全てを受け入れるポーズをした。


「危ないっ!」

食われる直前にユイは動いた。言葉を抱き抱えて、給水塔の上飛び乗った。


「言葉ちゃん、あんちゃん暴走させちゃダメだよ?」


「やっぱり…こ、怖い…」


「言葉ちゃんは純真なんだねぇ」

ユイはニヨニヨ笑い、言葉の頭を撫でた。言葉は目を潤ませながら、壁を這い登ろうとする正樹を見下ろした。


取り残されたレンは、膨れっ面で壁に付いた時計を見つめた。


「結局お昼ごはん食べれませんでした…」



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