魔界からの使者だニャン!!
好奇心旺盛なランとレンは、人間界の学校とやらが、どんな場所でどんな物なのか、知りたくて夜も眠れずにいた。
そして、正樹より一足早く家を出て、通学路を歩いていた。
「いやぁ、たまにする早起きは、いいもんですね」
「ふぁー…ねみぃ…」
ボーイッシュな赤毛の美少女はラン。
お嬢様的な雰囲気を醸し出す青毛の美少女はレンだ。
夜勤上がりの疲れ切ったオッサン達は、二人の美少女を見て(顔と生脚)仏でも拝むような表情を浮かべていた。
というか膝をついて拝んでいた。
「目の保養をさせていただいてありがとうございます」とか呟いていた。
「人間界の早朝には、汚物共が蠢いているんだな…地獄と同じか」
「家族の為に働く英雄に失礼ですよ」
「奴らに飴を使わせたらどうだ?」
「使わせたら、僕らが酷い目に遭いますよ」
二人は道草せずに歩き、学校に到着した。早朝の校門はピシャリと閉まっていた。
「さて…人目も無いし、化ける必要もないな」
「そうですね」
ランとレンは悪魔っ子状態に戻り、門を飛び越えた。
飛び越えた途端、ランは大きな歓声を上げた。
「おー?!広い運動場があるぜ!」
キャッキャと飛び跳ねるラン。レンは目を細めて、肩をすくめた。
「走り回ってきたらいいんじゃないですか?」
「おう!いてくるー!!」
ランは走り出した。運動場に転がっていたボールを見つけ、興奮したお猿のように、キャッキャキャッキャと遊びだした。
「遊んでるアイツを…見てる分には…正直…可愛いと…思えますね」
レンは腕を組んで、ポツリと呟いた。
「何か言ったか?」
ボールを蹴り上げ、リフティングを始めたランの耳に微かに聴こえていた様子。
「げふん!げふんげふん!ごっふごふ!」
止めどなく咳き込んだレンは、スタコラサッサと学校正面玄関に近づいた。
ガラス扉をスルリと通り抜け、校内に侵入した。
「学び舎を汚してはいけませんね」
レンは律儀にも、廊下に出る前に足の裏の埃を払った。
教師も生徒もまだいない校内は、物音一つしない。
「いざ図書室へ!」
レンは目をカッ開いて、一階を探索した。
教室を覗き、キョロキョロと屋内を見回した。
「んん…図書室はどこでしょうか…」
巻角をポリポリと指で掻きながら、悩ましげに目を細めた。
ガタン!
廊下に物音が響いた。レンはヒョイと廊下に顔を出した。
「ラン?」
返事はない。静まり返っている。
「気のせい…ではないな…」
「しかし人間のニオイはしない…何でしょうか」
レンは首を傾げながら、その場で屈んだ。
ポケットからチョークを取り出して、床に魔法陣を書いた。
陣の中心に琥珀色の宝石を置き、低く唸るように呪文を唱えた。
魔法陣が光を放ち、ソナーのように波紋状に広がっていった。
物音がした方角、音源の存在が光で可視化された。
とんがった耳の小動物だ。
「探索…人間、いや…動物…猫?」
レンは懐からハンカチを取り出し、魔法陣を拭き取るように消した。
「普通の猫は……学校に迷い込むなんて、滅多に無いです…よね?」
レンは顎を撫でながら、廊下を歩きだした。
猫の居場所まで歩いた。
レンはヒョイと廊下の曲がり角から顔を出して、様子を伺った。
黒猫がまんまるい目で、レンを見つめている。現状、レンは姿を消している。
…にも関わらず、猫はレンをジイッと見つめている。
「…猫には僕ら(魔物)の小細工は全てお見通しでしたね…」
レンはヒョコヒョコ歩き、猫に近づいた。
「お前、迷ったんですか?」
レンはしゃがんで、猫の鼻先を指で突いた。
「「やぁ、レン…元気そうだね」」
「ん?…ん??んんんんっ?」
レンは周囲を見回して、汗をだらだら流した。
「何?猫が喋った?!」
猫は小さく頷いた。
「「僕は魔界との連絡役、ラグロといいます、よろしくね?」」