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異世界ファレスティア  作者: 鳥杉クイナ
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序章 空間の境目の出来事 一話

タイトアイト王国南の森、生霊館(せいれいかん)にて。正午新たな魂が送られてきた。その魂を受け入れ、身体を共有する者がその生霊館の泉の間に横たわっていた。名をタイトアイト王国第二王子、ヒルグラント・タイトアイトと言う。送り人の名は戸川陸空。今、彼等は夢の中で其々を確認しあっていることであろう。


この世界はファレスティア。自身の故郷から追放されし魂の集う大きくて広く、また争いの耐えない、崩壊を繰り返している世界。新たな魂の到来によりこの世界はどのように変わるのだろうか、我々は静かに見守ろう。





『こんにちは』


唐突に聴こえた幼い男の子の声。幼さがあるがどこか大人びているようなそんな声だった。


『…こんにちは』


もう一度確認するように挨拶をしてきたその声に、俺はようやく目を開く。視界に一番最初に移りこんできたのは白くてぼんやりとした不安定な世界だった。


「ここ、どこだ?」


思わず口にしてから自身の体も不安定な状況にあることに気が付く。失敗したら存在が消えるのではないかと言う恐怖が全身を駆け抜けた。後ろから三度目となる挨拶が飛んできた。


『こんにちは、気が付いた?』


ゆっくりと確認するように振り向くと金持ちらしい服を着た小さな男の子が不安気に、しかし堂々と立っていた。柔らかい金髪がふんわりとした癖毛の髪に日本人と外国人にも居ないような整った顔。その上全体的に小綺麗にしていてよく教育されているような立振る舞い。それは本の中で出てきそうな王族によく似ていて少し理解に時間がかかってしまった。少し言葉を選んで声をかけた。


『…ここは一体どこですか?』


小さな男の子は少し目を瞬かせてふふっと笑った。


『ここはタイトアイト王国。僕はこの国の第二王子ヒルグランド・タイトアイトです』


そして優雅に左胸に右手を添えてお辞儀をした。なるほど、普通の人間離れした言動だったわけだ。俺は割とすんなり受け入れた。何故かと言うと王国名を聞いた瞬間自身の立場を思い出したからである。それについては後々記憶整理しようかな。…とそんなことを考えているうちに気付けば半透明の女の人がヒルグランドの隣に立っていた。女神のような微笑みにコクリと唾を飲み込む俺を見て、口を開いた。


『初めまして、《戸川凌空》ですね?』


名前が既に知られているって事はこの世界の神か何かなのだろうか。そんな俺の疑問を見透かしたように女の人は言った。


『私はこの世界、ファレスティア七神の一人。運命を司るマリフレシアと申します』


…今の一言から察するにここは異世界ファレスティアでこの女の人は七人いる神の内の一人、運命の女神マリフレシアと言うらしい。ふむふむ、ヒルグランドはこの女神に気に入られているようで親し気だ。マリフレシア信者のような表情が幼い男の子の顔に浮かんでいるのを見るとちょっと呆れてしまう。俺はとりあえず聞いてみた。


『俺がここに居るのにはどういう理由が?』


何故ヒルグランドの夢の中のような場所に居るのか、と言う意味の質問だったがどうやら通じたらしく笑みを崩さずに返してくる。


『あなたが特別な能力を持ってここを訪れ、またこの時代において重要人物となり得るであろうヒルグランド王子と相性が良かったものですから…あなたの意志を確認する前にここに連れて着てしまいました』


申し訳ありませんわ、とお辞儀をしているがどうも顔色は変わらないのできっと感情を表に出すことができないのだろう。俺はお気になさらず、と返し俺の役目を聞いた。女神マリフレシアは笑顔を保ったままさらりと言ってのけた。


『あなたにはこれからヒルグランド王子の精霊となってもらいます』


名を彼から貰えば契約成立となります、とマリフレシアは隣に立つ小さな王子を見た。王子はいきなり自分に話が振られたことに驚いて目を見開いていたが、すぐに落ち着きを取り戻してから言った。


『…ジル』


そう口にして、俺を伺うように見上げる。俺は戸川凌空としての人生をすでに終えている身なので全く抵抗感はない。少し違和感を感じるくらいだ。


ポゥ…


そう思った瞬間俺の体は淡い光に包まれた。それは俺がこの世界にようやく認められたと言う証らしい。気付けば身体は元の戸川凌空としての形態は消え、この世界に違和感のないような見た目へと変化していた。そして新たな能力が頭の中に表示された。


〈ジル〉

職業:ヒルグランド・タイトアイトの精霊

属性:全属性(光、闇も含む)

能力:身体能力上昇、魔力供給、自動防御。

   世界の理に干渉可能。


その他諸々全ての数値が表示された。俺は正直、この世の中どれだけ物騒なの?とツッコミを入れてしまった。まあ主であるヒルグランドはまだ四歳になったばかりらしいのだから仕方ないのだろうが…。そんな俺の思いはスルーしたマリフレシアは俺の見た目に感想を述べる。


『過去にもここを訪れた魂たちがたくさんいましたが、あなたはその中でも特別美しい見た目へと変化しましたね』


一瞬何を言われたのかわからずきょとんとしていると、ヒルグランドが眠そうに欠伸をした。マリフレシアはそれに気付いてそっと頭を撫でてやる。その瞬間ふわりと光がヒルグランドの体を包み込み、そのままヒルグランドは眠りについてしまった。俺が驚いて何も言えずに目を見開いてその瞬間を見ていたら、マリフレシアは相変わらずの笑顔で言う。


『さて、そろそろ時間です。何か聞きたいことは?』


先程までとは打って変わって義務的になったマリフレシアを少々疑いながら一つだけ聞いた。


『ここでの出来事はどうなるんです?』


あれ?俺ってこんな話し方だったっけ…と自分の言動の変わりように違和感を覚えているとマリフレシアは言った。


『必要な事だけ記憶に留められるよう記憶操作をしておきましたから、この世界に違和感なく順応できると思いますよ』


ではまた…と、答えとも言えない返答をしたマリフレシアは優雅にお辞儀をしてユラ~っと姿を消していった。完全に姿が見えなくなった頃には俺も強い眠気に襲われて意識が飛びかけていたところである。最後に一つだけ考えた。


あの女神…マリフレシアは信用できない。どうか、他の神様、誰か俺の記憶をどこかに留めておいてくれ…。


そしてその願いは虚しくもただの光の粒となり俺の頭から抜け落ちて行った…ように見えた。そんなところで俺の意識は闇の中へと落ちて行った。









始まりは唐突に、気付かぬうちに。

誰かがそんなことを言っていたように、この世界の理はゆっくりと蝕まれ始めていた…。











~悪戯大好き女神様~


私はマリフレシア運命を司る女神をやらせていただいてます。しかし最近は面白い運命の者がいなくて少々退屈な時間を過ごしています。


時代が進む内に神々への干渉をしようと試みる者はめっきり姿を消し、我々も簡単に地上へ干渉することが出来なくなってしまいました。神々の中には地上への干渉が出来るものも居りますが、その者との会話は基本的にすることが出来ず、結局ただ人間たちの一生を見守る事しか出来なくなってしまったのです。

私はそれが辛くて辛くていつも面白い事が起きないかしら?と考えてはこことは別の世界のことを考えておりました。別次元とやらが存在すればその内こちらにも歪みが生じて面白い事が起きるような、そんな事を思い描いていたのです。


そして!ついに一つの霊を取り込むことに成功いたしました!!前世は戸川陸空。男の子で年齢も程よい。さらにこの者には不思議と懐かしいようなオーラを感じるのです。これはチャンスとばかりに強引にこの世界へと引き込み、つい先程ジルという名を与えられて存在が確固たるものになりました。

そして彼が眠りにつく前に女神の欠片と呼ぶ涙を一つ、その身体の一部へ溶け込ませてこの世界にすぐ慣れるように記憶操作することを約束しました。


でもそれではちょっと面白くありません。


そして私は神でありながら言い訳しつつ約束を破ります。仕方ないです!面白くなくては意味がありませんから!

なのでジルにはとても期待しているのですよ。これから先一体どんな影響をこの世界に及ぼしていくれるのかを。

楽しみに観ていますから。




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