ドライブは明後日【ショートショート】
あまり実のある内容は書きません。拙作の極みで御座います。お時間に隙間が空いた際などにご覧頂ければ幸いです。
電話のベルが鳴ったのでとってみると、大学の友人だった。
「そういえば、免許を取ったのよ」
マイちゃんのいつも通りの、のんびりした調子だった。
「あらすごい」
大袈裟に驚いて見せる。
「でしょう」
「じゃあお医者さんにでもなるのね。それとも弁護士かしら」
混ぜっ返すと、優しい声で訂正された。
「くるま、の免許よ」
まあそうだろう。二十歳になったのだし、マイちゃんが足しげく教習所に通っているのも知っている。
「というわけでドライブに連れて行ってあげる」
「あらまあ」
わたしはまだ免許は持っていない。好奇心がくすぐられたのと同時に、
「なんだか怖いわ」
「あら、どうして」
心底不思議そうである。
「だって、まだ運転に慣れていないでしょう?」
うふふ、と笑う声が聞こえた。
「教習で嫌というほど運転してきたわよ。安心して頂戴」
「教習中は教官がとなりにいるのでしょう。ひとりで公道に出た瞬間、ガードレールにぶつかって、車を傷つけてしまうかもしれないわよ。マイちゃん、お金のほうは大丈夫?」
天邪鬼なわたしである。意地悪なことを言ってしまう。しかし、《車》の部分を《わたし》にしないあたり、まだ余裕がある。
「大丈夫よ」
笑い声が混じった声で、
「少しは免許証を信用して頂戴ってば」
まるで水戸光圀の印籠の如く、眼前に突きつけられている気になった。
「ははあ。いいわ。信用しましょう」
「ありがとう」
再び穏やかな声になったマイちゃんは続けた。
「日取りは明後日にしましょう。丁度明日の夜、修理に出した車が戻って来るの」
宜しければ他の短編、あるいは長編も御座いますのでご清覧下さいませ。