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俺の友人が元勇者だとほざいてます。

作者: 天織 みお

その日はいつもより一際寒い冬の日のーー次の日の事だった。


起きた時から付けっ放しにしているテレビは、近所の大通りでトラックがスリップした事故について放送していて、俺はそれを何となくぼんやりと聞き流していた。


母さんが作ったピザトーストを頬張っていると、家のチャイムが鳴る。


大智だいちー、みのる君が来たわよ。早く出なさい」

「ん、いってくる」


インターホンの画面を見た母さんに言われて、俺はピザトーストを全て口の中に押し込み、スクールバックを手に持つ。

そうして俺は未だに目覚めない頭のまま、ローファーを履いた。



ーーここまでは、よかったのだ。



いつもと変わり映えのない、詰まらない日常だったのだ。


俺は昨日の夕方から会っていない女子っぽい幼馴染が、いつものように玄関前で待っているのを無意識に想像していた。

そうして開けたドアから射し込む光に目を細めながら視界に入った彼の姿を見た時、俺の眠気は地平線の彼方へぶっ飛び、スクールバックを持った手から力が抜けた。


スクールバックがドサッという重い音を立てて、地に落ちる。

その音だけがその場に響き渡った。


女子のボブカットのような長い髪は真っ白で、よく色んな奴にからかわれていた大きな瞳は真紅。

一見、男か女か分からないようなそんな見た目の奴は、俺を見るなり真紅の瞳に涙を浮かべた。



「だ、大智……!5年ぶりだな……っ!!!」

「誰?!!」



俺がギョッとして一歩後ずさると、奴はキョトンと大きな目を瞬かせて首を傾げる。

そして少し考える素振りを見せた後、何かに閃いたようにああ、と頷いた。



「いやぁ、ちょっと見た目変わったけど、どっからどう見てもお前の三軒隣に住む瀬名せな 稔だよ!」

「変わり過ぎいいいいいいい!!!」



ものすごく何て事のないように言った奴に、俺は思わず絶叫した。

いや、長年の付き合いだから何となく声と雰囲気で察してたけどさ!つーか、母さんインターホンの画面越しでよく稔だって分かったな?!



「ちょっと変わったなんてレベルじゃねーよ!!お前昨日まで野球少年で坊主だったじゃん?!黒髪黒目の超日本人的な感じだったじゃん?!」



俺は早口で捲し立てたが、稔はふっと何処か遠い目をして、眉の辺りで切り揃えられた前髪をゆっくり搔きあげた。

そして、意味不明のキメ顔を披露する。



「大智、人は変わるものだよ。いや、変われるんだよ」

「1日も経ってないのに変わり過ぎだろ!!いくら坊主が嫌だったからって、(かつら)は駄目だろ!」



何でそんな良い言葉っぽい事で片付けようとしてるんだよ。



「うーん、説明しようにもどう説明すればいいのかなあ……。5年前……、あ、大智にとっては昨日か。昨日のトラック事故知ってる?この近所で起きたやつ」

「ああ。トラックがスリップしたやつだろ?怪我人はいなかったらしいけど」

「いや、正確には1人いた。ーー俺がトラックの下敷きになったんだ」



何時になく真剣な表情を見せる稔。

鋭い視線で真摯に俺を見据えた奴の顔は、昨日までとは違って酷く大人びて見える。


俺は黙って数秒見返していた。


いや、何も言えなかったと言うべきか。

男同士目を合わせるのキモさに耐え切れなくなった俺は、誤魔化すように落としたスクールバックを拾って、肩に掛ける。


そして、おもむろに口を開いた。



「そうか……、重症だな。とても大変な悪夢だったんだな……」

「あれっ、今すごく信じてくれる雰囲気じゃなかった?」

「意味不明すぎるわ。なんでそんなピンピンしてんだよ」



むしろ何故俺が信じると思ったのかが謎だ。

それから駅まで歩き、電車に揺られて、駅から学校までの30分間で稔から説明された事を要約するとこうだ。



トラックの下敷きになって死んだ。だが、天国へ行く前に神様が現れた。

その神様が魔神倒して異世界を救ってくれたら、1つだけ願いを叶えてくれると言ったらしい。

それで、5年かけて異世界救ってこの世界に戻って……というか、この世界で生き返ったのだと。


30分間のうち25分くらいは異世界の魔神討伐に関する武勇伝だったので、そこはダイジェスト……いや、バッキリ端折らせてもらった。

だって、あんまり必要ない説明だったもの。


あ、あと覚醒はしたらしいです。だから、色素抜けたらしいです。人体の神秘だな……。

なんで、3年前に覚醒しなかったのだろう?俺達もう高校2年生だぞ……。



まあ、そんなこんなで学校に着いた訳だが、稔は当たり前のように廊下ですれ違う見ず知らずの学生から、クラスメイトまで全員の注目を浴びた。

俺の学校髪染めるの校則違反だしな。


玄関先で話し込んでいた為、俺達が教室に入った頃にはもうほとんどのクラスメイトが揃っていた。

騒がしかったクラスが一瞬にして静まり返った原因は、俺の隣にいる幼馴染なのは明白である。



「出席とるぞー。席につ……」



それから間もなく教室に入ってきた担任は教壇に上がるなり、ある一点を見つめて言葉を失くす。

数秒間放心していたようだったが、我に返ったらしい先生は恐る恐る訊いた。



「……瀬名の席にいるお前……誰だ?」



…………まあ、そうなるよな。













それからの授業は、何となく乗り切った。

元々頭の良い稔だったが、数学に関しては目に見えてパワーアップしていたように感じる。


その代わり、何故か国語と英語が壊滅的に出来なくなっていたけれど。


問題は、5限目の化学だった。

この授業で今日の授業全てが終わるーーのだが、生憎化学の先生は生徒指導の先生でもある。

そして、稔の野球部の顧問。


教室に入るなり、先生は稔を見て眉を上げる。

たいして驚かなかったので、事前に聞いていたのだろう。

だって、お昼になる頃には全校に知れ渡っていて、わざわざ教室まで稔を見に来る奴らまでいた。



「……瀬名。一応聞くがお前の頭どうしたんだ」



あれだよな。頭の中がどうかしたとかじゃなくて、一晩で変わった髪色と髪型の事を訊いてるんだよな?



「先生……実は、ショックで色素が抜け落ちてしまったんです……」

「そうじゃなくて、お前昨日まで坊主……いや、この話は後で生徒指導室でゆっくりきかせてもらう」



悲壮感を漂わせて俯く稔に何と言っていいのか分からなかったのか、先生はそれ以上は踏み込まずに教壇に立つ。

放課後呼び出しコースですね。分かります。



「授業を始めるぞ。炎色反応についてちゃんと覚えてきたか?教科書、ノート閉じたままにしとけ。当てるぞ〜」



ぐるりと教室内を見渡した先生は、ふと一点で視線を止めた。



「じゃあ、今日目立ちまくってる瀬名。7つ全部答えろ」

「はい」



ゆっくりと立ち上がった稔は、大真面目な顔をして怖いと評判の化学教師に言った。



「想像です!心の中で燻る感情と共に具現化させるんです!7つもいりません!」



瞬間、教室内が凍り付いた。

俺を含むみんなビクビクしながら、そっと先生の方を見る。



「あのな。ふざけるのもいい加減に」

「せ、せんせぇー!!」



俺は思わず手を挙げて席を立つ。

怪訝そうな顔をした先生は、俺を見た。



はらか……。どうした?」

「い、いや、俺すっごく炎色反応大好きなんで、瀬名の代わりに答えたいなあ……なんて……」



一時的な落雷を回避した俺だったが、あとの事を考えずに突っ走ったせいで、しどろもどろになって必死に言い訳をする。



「……まあ、いいだろう」

「やった……!えっと、リチウムが赤、ナトリウムが黄色、カリウムが紫、銅が青緑色、バリウムが黄緑色、カルシウムが橙、ストロンチウムが紅です!」

「正解だ」



無意識に張り詰めていた力を抜く。肺が空っぽになるまで息を吐いた。

あ、危なかった……。








全ての授業が終わった後、稔が俺の席まで来て申し訳なさそうに手を合わせた。



「大智助かった。炎色反応なんて5年ぶりだし、炎の色の変え方も異世界精神に完全に染まってたから、ここが魔法のない世界ってのを忘れてたよ」

「ああ、構わねーよ。困った時はお互い様だろ?精神染まっちゃったなら仕方ない。いい病院探してきてやるよ」

「ありがとう。ちょうど髪の毛が鬱陶しくて美容院行きたいと思ってたんだ」

「そんな事よりお前生徒指導室に呼び出しくらってたよな?行かなくていいのか?」

「あっ、やばい!大智ありがとう!」



俺は慌てて教室を出て行く幼馴染に軽く手を振る。

その昨日とだいぶ様変わりした後ろ姿を見て、俺は固く決意した。



ーー幼馴染が危ない道に進んでしまいそうになったら、それを戻す手伝いをするのが親友ってもんだよな、と。

大智(´-`).。oO(稔が付けてる鬘、すごくリアルだなあ……)

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