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レイコとバケオのとある夏  作者: 青井在子
第六話 送り火
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「はい、もしもし」


無口なスマートフォンに珍しく呼ばれ、抵抗感を覚えながら出ると、それは岡江からだった。はい、はいと答える私を、庭からバケオが気遣わしげに見ている。口だけを動かして電話主を伝えると、安心したように視線が反らされた。


「わかりました。じゃあまた」


電話を切って長い息を吐く。親しい人なんていなのだが、どれだけ気心しれた相手とでも電話は好きになれないと思う。


「岡江先生なんだった?」


最近のバケオは、すっかり口調も自然体になっている。お互いにお互いのことを知ったせいなのだろうか。それでも不都合はないから、今のところ訂正はしていない。


「グループ展やらないかって」


途端にバケオの目がきらきらと輝く。そう期待されると、溜息を吐きたくなってしまうのだけれど。


「参加する方向で、話を聞くってことになった」

「よっし!」

「バケオが参加したほうがいいって言うからさあ、もう断れなかったよ」

「だって絶対レイコちゃんのためになるよ!」


どうだかね。カレンダーにマーカーペンで、打ち合わせと書き、丸で囲った。


八月ももう半ばに差し掛かっている。世間はお盆の頃だ。


私はと言えば、親不孝者だと言われるかもしれないが、何もしていない。いつもと同じように毎朝祖父母の仏壇に手を合わせて、おしまい。だって毎年心待ちにしていたけれど、祖母は一度だって帰って来てくれたことがないのだから。


鼻がむずむずして、くしゃみが出た。その後にぶるっと身体が震える。今年の夏風邪はやけに長引く。定期健診に病院へ行った頃ぐらいが最も調子が悪く、それ以降いくらかは持ち直してはいるけれど、本調子とはいかない。これが制作に影響しなければいいけれど。半そでのティーシャツの上にジャージをはおって、何に出すわけでもない作品の続きを描く。


 お盆休みが終わり、世間も元の賑わいを取り戻し始めた頃。私はグループ展の打ち合わせのために大学にいた。


「彫刻専攻三年の西尾です。岡江先生に森崎さんの作品を見せてもらって、ぜひ一緒に展覧会をやってみたいと思ったんです」


茶髪にショートカット。身長はたぶん百五十センチもないぐらい。西尾のことばは、ただ人数を合わせるためだけのお世辞には聞こえなかった。その他に同じく三年の日本画専攻の丸井と陶磁専攻の松田にそれぞれ作品を見せてもらい、私を含め四人で開催することが決まった。


お互いのスマートフォンを近づけて、連絡先を交換する。こんなことは久しぶりだった。画面を確認するとしっかりと三人分追加されている。それだけでスマートフォンの重みが増した気がした。


テーマや開催地の選定、お互いのイメージの共有のために、制作は原則全員で大学に集まって同じ教室で行うことになった。


これからしばらくは毎日大学へ来て、それほど親しくない人らと顔を合わせることになると思うと胃が重くなるような気がしたが、教室の少し離れた場所から私を見守るバケオの力強い頷きに励まされた。


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