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「高校も相変わらずだったけど、行かなきゃって気がして最後まで行って、大学も今のとこ受かったしさ。さすがにお祖母ちゃんが死んだときは辛かったけど、私の人生こんなもんだよ」
バケオに笑いかけてみたけれど、口角が引きつった。
「生まれたときから呪われてるのかなって感じ。こんな変な力もあるし」
「レイコちゃんの力は、奇跡だよ」
それまで黙りこくっていたバケオが唐突に強い口調でそう言った。
「レイコちゃんにその力があったから、こうして会えた。レイコちゃんがその力を持っててくれたおかげで、俺はレイコちゃんと話すこともできた……!」
「ちょっと、いきなりどうしたの?」
バケオの声に涙が混じっている。彼は目からぼろぼろ大粒の涙を零しながら、私を真っ直ぐに見据えた。
「レイコちゃんは今でもあのとき死んでおけば良かったって思ってる?」
「え?」
「心臓なんかいらなかったって思ってる?」
思ってない。と言わなければいけないと思った。思っただけで、口にすることはできない。心臓とともに二度目のチャンスを与えられて、私は何か変われたのだろうか。あの頃よりも今が幸せだと言えるのだろうか。
「それは……」
「付いてきてほしいところがあるんだ」
バケオがすくっと立ちあがる。そして私に向かって手を差し出した。私は握れないその手を支えにするようにしてベンチから腰を上げた。
黙って進んでいくバケオに付いていく。桜の木を中心とするとさっきまで検査を受けていた循環器科の入る棟が三時の方向にあり、バケオが向かったのは直角に面している棟だ。
外来の受付をする一般病棟でも無ければ、救急の患者を受け入れる病棟でもない。
何食わぬ顔をしてバケオはエレベーターの前で立ち止まった。
「七階」
降りてきたエレベーターに乗り込み、7のボタンを押した。どくんどくんと心臓が鳴っている。病院内は適度に冷房が効いているおかげで暑さを感じないにも関わらず、汗が噴き出てくる。
ななかいです、というアナウンスとともにドアが開く。見舞いに訪れたであろうおじさんとそれを見送るパジャマ姿のおばさんがいた。軽く会釈をして脇を通り抜ける。
先を行くバケオの足取りには迷いが無い。だけどどうしてここに連れて来たいと思ったのだろう。どうしてこの場所を知っているのだろう。
バケオはエレベーターホールから最も離れた六人一部屋の病室の前で立ち止まった。
「ここ、覚えてる?」
ネームプレートには当然ながら知らない名前が四つ書かれている。
「覚えてるもなにも……、なんであんたがここを知ってるの?」
「だから言ったでしょ。全部思いだしたって」
バケオは廊下の突き当たりの窓を背にして、こちらを向いた。
「でもここは、私が入院してた病室だよ」
バケオはゆっくり瞬きをして、頷いた。
「そうだよ」
「だからなんでここを……」
「レイコちゃんに会いに、ここに来たことあるから」
幽霊はそう言って眉根を下げたあの痛みを隠しきれない笑顔を浮かべるのだった。




