↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイコとバケオのとある夏  作者: 青井在子
第三話 愛せない
PR
19/41

19

あれは真夏にしては涼しい朝のことだった。私は学校が長期の休みに入るたびに祖母の元に預けられていた。あの年も例にもれず、そうだった。小学五年生の八月のとある朝、食事をしていたときだった。

祖母の家の黒電話が鳴った。

私は何故だか祖母が受話器を取る前から、それは私にとって望ましくない報せだということを感づいていた。

電話口で祖母が声を潜めてはい、はいと短い返事を繰り返している。


「おでかけするよ、急いで支度をして」


受話器を置くと、祖母は落ち着いた声でそれだけ告げた。顔を洗って着替えを済ませ、いつも持ち歩いていたリュックサックにハンカチ、はなかみ、小銭入れを入れた。

祖母が呼んだタクシーに乗って、駅まで向かった。


「どこに行くの?」


そう尋ねたのはプラットホームで電車を待っていたときだった。


「礼子ちゃんのお家の近くよ」

「ふーん」


祖母が何も教えてくれないことが、余計に居心地を悪くさせた。私が暮らしていた街に近づけば近づくほど、緑は無くなり気温は上昇する。


 辿り着いたのは警察署だった。入口を通る前になってやっと、祖母がしゃがんで私の両腕を掴んだ。


「お母さんが、死んだかもしれないって。本人かどうか確認してほしいと言われたの」


祖母が言うお母さんと言うのは、彼女の母親ではなく、私の母のことだ。

私の中で声にならない声を上げていた悪い予感は、これを告げていたのだ。

死んだ人とはそれまでにたくさん関わってきたというのに、不思議と死ぬということの意味がわからなかった。


「そっか」


泣けなかった。

母の死を告げられたときも。遺体安置室で実際に亡骸を見たときも。葬式のときも。

今思えば祖母に悪いことをした。泣いておけばよかった。


「ずるいよ」


それが最期に母に掛けたことばだった。棺に眠る母の上に白い花を乗せて、呟いた。

白い小さな骨になっても、墓が建てられても、いつになっても母は姿を現さなかった。


 だから夏は嫌い。いつまでたっても思い出す人がいるから。


「本当に、ずるい……」


娘の特異な世界に向き合おうとしないで、否定するだけして、自分だけ逃げるなんて。親子という切っても切れない縁で結びつけておいて、私を罵倒するだけだった母。

私はきっと、彼女が自ら死を選んだことをこの先もずっと許せないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。