表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

中二病ブリーフ

作者: 遠野盤芸
掲載日:2016/06/01

 僕たちがとんでもなく大きな勘違いを犯していることに気づかされたのは、彼、彼女たちに、氷のような視線を突きたてられた瞬間だった。

 もしかすると「モテるかもしれない」「彼女ができるかもしれない」「僕たちをバカにしている級友たちを見返せるかもしれない」などと不純な動機が根底にあったことは否めない。パンクやデスメタルどころか、ヴィジュアル系バントにも、ロックそのものにも、本当はまったく感心がなかったことも告白しよう。

 それでも僕たち「さえない窓際カルテット」はVコンに参加した。


「Vコンの会場、次はウチの学校だってな」

「へー、そうなんだ。じゃあ他の中学からも可愛い子もたくさん来るなー」

「Vコンってなんだよ?」

「あ、それ、オレ知ってる。5HTや埼玉少年もVコンの出身者だって、この前のMステで言ってたぜ」

 画像検索すると、派手な悪魔メイクで黒い革のレザーを着た男女が出てきた。服装も頭も、いたるところを無駄にとんがらせた集団である。露出度の高い女子たちも多く、その服装に目を奪われ僕たちは股間をとんがらせた。

 ヴィジュアル系バンド・コンクール、略してVコンは歌唱力も演奏技術も必要としない。純粋にファッションセンスだけを競うため、音楽に合わせ、なんらかのパフォーマンスを舞台上で提示すれば良い競技だ。

 ただし、一般公開はしてない。全国から三〇〇を越えるグループが参加するため、どの学校も参加者だけで一杯になり、客を入れる余裕がないのだ。

 つまり、露出度の高い女子たちとお近づきになるには、参加するしかない。

 そして、スポーツも勉強もできないが、アイデア勝負だけならば、僕たちにも勝算がある。


 そして開催日、あれほど殺風景だった校庭が、攻撃的な衣装に身を包んだ匂いたつ華たちで埋めつくされた。

 男も女も、レザーの上下に光ものの飾り、とんがった頭、派手な悪魔メイクが基本ファッションである。中には、真っ赤なウェディングドレス風の集団や、ゴスロリメイド、悪魔ナース、露出度の激しい女剣士、なんだかわからないゆるキャラまでいる。

 まさにネットで見た光景そのものだ。ちがうのは、誰もが男女や他校の垣根を越え、打ち解け、興奮気味に談笑していることである。

 僕たちは勝ちを確信しながら、意気揚々とその輪へ加わるべく、歩みよった。

 すべてが想定内だった。残念ながら彼らのファッションは、いずれも誰かの模倣でしかない。街中で見れば奇抜だが、この会場においては逆に少しも目立たない。つまり没個性である。

 だが僕たちのファッションはちがう。これを目にすれば、彼、彼女たちはどぎもを抜かれ、惜しみない賞賛で、僕たちを迎い入れてくれる――と確信していた。

「絶対に誰もやらない」「絶対に目立つ」「シンプルで究極」「お金がないので予算はひとり千円以内」というコンセプトで僕たちが何週間も悩んだ末に選んだファッションは、白いシャツに白いブリーフ、それだけ、というものだった。

「誰もやらない」ではなく、あきらかに「誰もやりたくない」姿である。ただの変態である。街中ならば、速攻で通報されるレベルだ。

 普通、どこかで「そのチョイスはちがう」という判断になるだろう。今となっては、若気のいたりという重い病に脳が完全に冒されとしか思えない。

 近づく僕たちに視線をむけた彼、彼女たちの目が、一斉に点になった。ある意味、どきも抜いたのはまちがいない。しかしその後の反応は、想定外だった。

 眉をひそめ、顔を曇らせ、嫌悪と怒りの籠もった不審者を見る氷のように鋭く冷たい視線を、容赦なく僕たちへ突きつけたのである。

 級友たちに「来るな」という拒否の視線をむけられることは何度かあった。しかし、これほど強い、まるで殺気に近い嫌悪の視線を浴びたのは初めての経験である。

 僕たちは一〇メートルも近づくことができず、反発する磁石のように、するりと横に歩みをそらした。

 たまたま、このグループの好みに合わなかっただけかもしれない、という淡い期待を胸に、僕たちは話しかけやすそうな別のグループへと向かう。けれど反応は同じだった。

 あきからに変質者を見る目だ。仲間どころか、同じ人間と思われたくもない、という拒絶のオーラだ。

 僕たちは話しかけることも、近づくこともできないまま、冷たい磁力に弾かれ、するりするりと人気のない場所へと歩まされた。

「いやいや……」「なんて言うか……」「うん、まあ……」「……あれだよな」

 僕たちは現実を受け入れることができないまま、やりばのない笑顔を貼りつかせ、追い込まれるように校舎の裏へ、裏へと進んだ。

 ひとりだったなら、泣きながら逃げ帰っていただろう。しかし四人では、それすら目立ちすぎる。

 誰もいないと思っていた校舎裏のどん詰まりで、僕たちは白い女子の一群と遭遇した。 彼女たちは七人ほどのチームで、全員がフリルの多い真っ白なセイラー服を纏っていた。髪も染めておらず、奇抜なメイクもしていないため、まるで清純系アイドルグループか、舞い降りた天使の一団のようだった。

 その横に、太めの中年女性がひとり、軍服を思わせるようなカーキ色の上下を纏って立っていた。彼女たちを引率してきた教師らしい。

 僕たちに視線をむけた教師の目に、嫌悪はなかった。石ころを見るようになんの感情も反応もない、が正しかったのかもしれない。それでも、今の僕たちとっては、ありがたい反応だった。

 そして僕たちにむける彼女たちの視線も、表の者たちとはちがっていた。変態ブリーフ集団に驚くところまでは同じだが、その後は「嫌悪」ではなく、頬を赤く染め、目を泳がせ「こっちへ来られると困る」という逃げるような不自然な挙動を示したのである。

 しかし、どん詰まりで後はない。

 僕たちの方も、声もかけずにそのまま引き返すのも不自然だろうと、引率の女教師に軽く会釈しながらさらに接近するしかなかった。

 そして驚いた。

 彼女たちの制服は白というよりはシースルーの布地で、黒い上下の下着が、ガーターベルトと共にうっすらと確認できてしまっているのだ。全員が同じ下着をつけているため、あきらかに見られることも前提にしている。

「ずいぶん挑発的なコスチュームですね?」

 そう話しかけると、女教師は少し興奮気味に、マリリンマンソンの曲に合わせて踊ることや、この衣装に政治的な意味が込められていることを僕たちに語った。

 難しくてなんだか良くわからなかったが、やらされている彼女たちの方も、困り顔ではにかんでいる。

 けれどその目には嫌悪も拒否もなかった。同類を見るようなやさしい視線である。

 彼女たちは自分たちの存在が場違いではないかと、不安だったのかもしれない。そこに現れた、堂々と下着を晒しているだけの僕たちを見て、彼女たちは安堵し、勇気づけられたのかもしれない。

「なにをやられるんですか?」

「僕たち窓際カルテットは」「和太鼓の曲と掛け声に合わせ」「ポージングです」「そいや!」

 ポーズを決めると、彼女たちが嬉しそうにコロコロと笑ってくれた。

 僕たちは一点の曇りなく、この闘いに勝利したことを確信した。

                (了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ