第四話 プレゼント交換
「じゃあ銀河、僕が言った手はずでよろしく」
「お、おお。わかったぜ、文」
「翔もね」
「ああ、わかった」
「東雲さんはとにかくジッとしていること」
「う、うん!」
よし、最終確認は終わった。
作戦と役割をそれぞれきっちり伝えて覚えさせる。
それと同時に桜さんにはじっとしているように何回も説き伏せた。
これで動かれて死なれたら……自業自得だ。きっと梓さんもわかってくれるはず。
「じゃあ、行ってくるよ」
「暗城くん!」
「ん?」
もう扉に手をかけたところで引き止められた。
「なに?」
振り返るのも億劫だからそのまま応対。
すると、何か躊躇うように単語を発し始めた。
「死亡フラグだけはたてない――」
「暗城くん、私……待ってるからね」
「でね、って……はあ」
言い終わる前に死亡フラグをたてられた……。
はぁ、と溜息をついて頭を掻きながらドアノブを捻る。
この死亡フラグの折り方は、
「東雲さん、僕はこれが終わったらすぐに家に帰らないと、待たせてる女の子がいるから」
これでオッケー。
「え、ええっ!?」
「じゃっ」
パタンと扉を閉める。
「ああ、そういえばプレゼント交換とか言っていたんだっけ?」
多分桜さんはそのことに対して『待っているから』と言ったのか。
「なら……それも含めて早く方を付けなきゃ」
なんとなく呟いてマスクを被ると、ホールに足を踏み入れる。
そこで繰り広げられていたのは、阿鼻叫喚とばかりに広がる恐怖を含ませた悲鳴と、血だらけになりながらも踏ん張って立つ梓さんのお父さん。それに茫然と銃口を下ろした梓さんに、それを可笑しそうに笑うリーダーだった。
なるほど。
「事すでに遅し、とはこのことか」
梓さんが父を撃ったというわけじゃない。
きっと撃ったのはリーダーだ。確かに梓さんは正面に立っているけど、血が地面に付着している方向からするとおかしいし。
「まあ、いっか」
どさくさに紛れてAK-47で銃口を構える。
「さて、僕は強大な力を手に入れてしまった。その時の行動はー……」
狙いを豚の足元に向けると、
「適当に暴れさせて様子をみる、だよね」
グッと引き絞って撃った。
「っぎゃああああああああああ!!」
あれ? 当たっちゃった?
まあいいか。
結果オーライ。あの豚さんが暴れて転がり始めた。
「おっめえ……なあに邪魔してくれてんだ? ああ?」
せっかくのお楽しみだったってのによ、って言っているみたいだ。
「があああああ! い、医者を! 医者を呼んでくれええええええ!」
「知るかっ! 豚が!」
あれ? あの人AK-47じゃなくてハンドガンだ。
ああ、まあリーダーだから警備する必要がないもんね。僕でもそうするよ。
「うっせえな! ……もう、死ねよ」
リーダーがハンドガンを構えた。
瞬間。
二つ(・・)の渇いた銃声がホールを包んだ。
一つはリーダーがブーブー鳴く豚の脳を撃った音。
もう一つは、僕がリーダーのお腹を狙撃した音だ。
「――ふぅ! はあ、はあ……!」
遠くの人間に照準を合わせるのも、大変だね……。
ヒットアンドアウェイ。
すぐにテーブルの下に潜りこむ。
「っんのやろう! だれだ今撃ったやつは!」
辺りを見渡して、傷口に手を当てる。そして仲間に対する信用を一瞬で失った。そして、銃声を聞いてやってくるのは、銀河。
「うお、おおおおおおおお!!」
「はっ? がふっ! だ、だれだてぐはッ!」
「こんの糞野郎が!!」
「がっ、ぐふ、あ、ふぐ、あがっ!」
殴り蹴りの暴行を加えるのを確認すると、すぐに梓さんを後ろから手を掴み転ばせる。それと同時に僕に気付いた他のモンブ達が僕に怒声を浴びせてくる。
だいたいが『お前、裏切ったのか?』的なことを。
それに対して僕はなにも反応せずに全ての真ん中へ、人を惹き寄せるように歩く。
こうすれば、だれも銃撃をしない。そうテンプレが言っている。
真ん中に歩き始めると同時に翔が目の端に移る。翔もただイケメンなだけじゃない。銀河とつるんでいるぐらいだ、きちんと格闘もできる。
真ん中に立つ。それと同時に翔はモンブを一人やっつけた。
……さて。
ここまでは本当に作戦通りだ。
あとは、
「さあ、皆さん。お待ちかねプレゼント交換といきましょう!」
高らかに、でも声は少し変えて高らかに告げた。
さあ、再開しよう。
乱入者も含んだ、進行表に沿った進行表を。
◆
プレゼント交換。
そうは言うけど、実際はそんなことはない。
「僕の名前はレター。至って普通のモンブの一人から装備を剥ぎ取りました」
「あ゛? そんなことよりどういう意味だ!? おめえか? おめえが俺を撃ったのか!?」
「違います」
正解だけど。
「というより、この話、あなた方にはかなり有利なお話ですのに、簡単に手放しても良いのですか?」
「……どういうことだ?」
「僕はこれからあなたにプレゼントを渡します。今日はクリスマスイブ。サタ――サンタさんの贈り物だと思って受け取ってください。それで、その中身ですが……」
銀河が後ろに下がると同時に翔がまた一人倒す。あとは、リーダーのみ。
僕は手を上げる。これで動きを止めろ、という合図ってことにしておいたから。
そのまま違和感なく力なく座り込んでいるリーダーを指さした。
「リーダー、君にはこの家から脱出できる権利をあげよう」
「――はぁ?」
「はぁ、じゃないでしょう? 君は僕から――」
「な、なに言ってんだ、おめえは! 俺がここに来た理由、知らねえのか?」
「あ、ごめん。多分その時いなかった」
「そ、そうか……それは済まなかったな」
「ああ、うん。許す」
「ありがとよ……じゃねえよ! くそっ! なんでお前は俺に尊大な態度が取れるってんだ……!」
「きっと、君に対して恐怖心を抱いていないからじゃないかな?」
「なん――」
「それより、理由話してくれない? といっても、望月梓を拉致して当たり障りがあることでもするつもりなんでしょ」
「バッ――知ってんじゃねえか!」
なるほど。
僕の予想と何一つ変わってない。
「きっと、それにやりたいことやったら今度は身代金でも用意するんでしょ?」
「チッ……」
舌打ちじゃないんだよ、君。
そんなことするぐらいなら、今死にかけているこの状況から救ってあげようとしている僕に対して、お礼の一つでも掛けてくれたらいいのに。
「さて、じゃあ話を進めるよ。僕が今回君にプレゼントするものは、この家からの脱出だ」
「――なに?」
「家から五体無事、ってもうすでにぼろぼろだから無事じゃないか。まあ、それ以上ボロボロにならないだろうから安心して」
尊大。余裕。それでいてどこか高みに存在している。
相手から見た僕はきっとそんな感じで。
全てが合わさることで畏怖となる。実際、リーダーの頬が若干引き攣っているのがありありとわかった。
さて、こういった場合、この人は、
「ま、待ってくれ! プレゼント交換と言ったよな? だったら俺は一体なにを渡すってんだよ……?」
疑心暗鬼になりながら交渉を求めてくる。
まあ、実際そうだろうと思ったから、こちらも一枚、大富豪で言うなら安全な『7』でも出そう。
「いやいや、すでにこっちお代はもらっているからさ」
豚は脳を撃ち抜かれて僕の足元で死んでいる。その頭を蹴った。……うわ、借りた革靴になんか気持ち悪いものがついた……。
「ま、まあそういうことだからさ、あとは全員で玄関からでも裏口からでもいいから出てくれれば、僕はお役目御免、さっさと家に帰らせてもらうよ。……ていうか、早く帰ってもらえないと僕が家に帰れないんだ」
「……知るか! それは俺らに関係ねえだろうが! 今日この家にいたことを呪え!」
「じゃあそうするから、早く出てもらえない。もう――味方はいないよ?」
「――ッ!?」
ああ、やっと気付いたんだ。ほら、そんなに周りを見渡しても味方は誰も居ない。
というか、モンブ服で立ってるのは僕ぐらいか。
リーダーはなんかリーダーっぽい服装だし。あ、あのハンドガンってもしかしてベレッタ? イタリア製でフィルムが良いんだっけ?
っと、あの銃であのブタオさんが死んじゃっているんだよねぇ。
「さあ、早く出て行くといいよ? 人が一人死んでいるんだから」
……あ。
翔達ようやく気付いたんだ。人が死んでいることに。
あーあ。
吐くならそんなところで吐くんじゃなくて、もっと端の方で吐きなよ。
絨毯が勿体無いじゃんか。
すでに血とかその他もろもろの液体で汚くなってるけどさ。
「リーダーの判断さえ正しければ、もうこれ以上君の怪我は増えないし、無事にこの家の外まで出られる。今日は運が無いと思ってよ」
「……チッ! ……でもな!」
「お頭ぁ!」
扉が思いっきり開かれてまた一人、モンブが入ってきた。
その肩に担がれていたのは――まあなんともテンプレで、桜さんだった。
大富豪でいう、ジョーカー。
「この女、隠れてやがりましたぜぇ!」
口に布をまかれて喋れなくされ、手足も縛られている。
その状態のまま優しく地面に下ろされた。……いや、なんで変な所で優しくしているのさ。
本当に、この人達悪党なの?
「よぉーしよくやったモンブ……なんだっけ?」
「モンブCです!」
「そうだ! よくやったモンブC! おいレターとやら、これで形成逆転だぜ?」
「……そう」
腕をだらりと下げ、AK-47を地面に転がす。
――これは、もう詰んだ。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:トランプのゲーム、『大富豪』。