炸裂 無敵爆裂恋心パンチ!
ここは宇宙。
宇宙に漂う小さなオレンジの船。
そこから通信している声が聞こえる。
「ボス!見つけました。今にも死にそうなボロボロな男です!まるで、ボロ雑巾です。変な髪した奴らに囲まれて殴られてます!」
早送りにしたかのような高い声。
「そうかようやく見つけたか。長かった。その星はどこだ?」
年老いた低い声。
「北の太陽系の青い星です!」
「北…海王星か?」
「いえ、違います。」
「天王星か?」
「ちょっと待ってください。」
紙をめくる音。
「えーっとここは…」
地球です
夏の暑さに汗をかきながら、通勤、通学する時間。
チリリリリリチリっチリリ…
二階建ての一軒家の二階。
壊れた目覚まし時計の音が鳴り響く。
「うーん。まだ眠いよ。寝かせろよ。」
その時計は8時10分を指していた。
うすら目を開け時計の針を見る。
…
…
…
「もうこんな時間じゃん!遅刻決定じゃん。もーマジで人生の終わりだー。地球の終わりだー。」
寝癖だらけの髪で起きて叫ぶ男。
ドアを開け入ってくる母親。
見た目は一般的だ。
一般的すぎて説明がいらないくらい一般的な母親だ。
「あんたが遅刻したくらいで地球は終わりません。あんたの人生は終わるかもしれないけどね。フフフ。」
母親が目覚まし時計の電池を変えながらいう。
「なんで起こしてくれなかったんだよ!今年もう遅刻58回目じゃんかー。」
「起こしたけど起きないもんはしょうがないでしょ。」
呆れた顔で母親が言う。
男の見た目は少しイケメンに見える。
いや、私だけかもしれない。
男は部屋のカーテンを開けると、
「いやぁ、今日もいい天気。太陽さんさん。地球さんも太陽さんもおつかれさんでっす。」
外に向かって敬礼する。
少しバカな様だ。
「下にパン置いてあるからそれくわえて、学校行きなさい。」
布団をたたみながら言う母。
「おー!母ちゃん最高!パンくわえて曲がり角を曲がったら女の子ぶつかるパターンのやつじゃん!」
興奮して言う男。
「あんたは呆れて何も言えない程バカねぇ。自分の名前言える?」
バカする母。
「そんなもん言えないわけねぇよ。山中こっ、コップタロウだよ。」
少し詰まりながらきちんと言えたと思っているコップタロウ。
「……まさか言えないとは思わなかったわ。光太郎でしょ。光る太郎。お父さんがノリでつけたじゃない。」
まさかの出来事に一瞬固まる母。
パンをくわえ学校に向かうコップタロウ。
「うるせぇ。こっ、コップ。光太郎だよ!光る太郎。」
曲がり角が見えてきた。
ー よしここを曲がれば…
ドン
何かにぶつかった光太郎。
ー 女の子がいるはず…
しかし考えは甘かった。
目の前にはリーゼントの不良が10人ほどいた。
「あははは、すみませんっす。マジですみませんでした。」
汗だくで謝る光太郎。
「は?誰お前。痛ぇんだけど。骨折れたしパンのジャムついたしどうしてくれるの?」
光太郎を威圧して言う不良。
グループのリーダーのようだ。
「いやぁ、それだけで骨折れるわけないじゃないすっかー。その詐欺古いですよ。骨折れ詐欺ですか?髪型も格好も古いですよ。あなた達。」
焦りすぎて自分が何を言ってるかわからない光太郎。
「あぁ?今なんつった?」
キレる不良。
そりゃそうだ。
目の前で悪口いわれたらキレるさ。
「俺んとこ 来ないか?」
リーダーの後ろの金髪のリーゼントが言う。
「いや、行きません。あははは。」
苦笑いで言う光太郎。
路地裏。誰もいない。
そんな所に連れて来られた光太郎。
ボコボコに殴られている。
ー 最後に沙矢ちゃんに会いたかった。
光太郎はそう思った。
沙矢ちゃんとは同じクラスの可愛い子。
実は光太郎が恋している女の子。
沙矢ちゃんは本当に可愛い。
学年1。いや、学校1。いや違う。
県1可愛い。
県中の男子が見に来る。
モデルや女優のスカウトも来る。
それほど可愛いのだ。
「ちっ、コイツ金全然ねぇよ。新しい学ラン買えねぇじゃねえか。」
「計画実行。」
突然だった。
とても高い声が光太郎の頭の中に聞こえた。
「えっ?」
倒れていた光太郎はビックリして立ち上がる。
「寝てろボケ。」
不良に殴られて再び倒れる光太郎。
「うわっ。」
光太郎は自分に起こった異変に気付いた。
体の中から熱が湧き出てくる。
でも体感温度は変わらない。
アスファルトの地面がすごく暑く感じた。
「あつっ!」
スッと立ち上がる光太郎。
「てめぇまだ立てるのか。結構タフだな。」
不良が殴りかかる。
しかし。
ドン
殴っても光太郎は倒れない。
それどころか、痛がりもしない。
痛くなかった。
さっきまで死ぬ程痛かった強烈なパンチが痛くない。
「なんだこいつ。」
それから不良達は皆で殴り続ける。
しかし、全くきかない。
不良グループのリーダーが叫ぶ。
「おい!ボクシング部の村田を呼べ!」「はいっ。」
数分後。
「俺がボクシング部の村田だ。何があった?」
リーダーと村田は友達だった。
「こいつ俺達のパンチが全く効かねえんだよ。」
「俺に殴れって事か?本気でやったら死ぬぞ?こんなヒョロヒョロしたやつ。」
「いいからやってみてくれ。」
「おいお前!この村田さんはな。プロのボクサーにも通用する人だぞ。お前は終わりだ。」
リーゼントにしたいけどリーゼントにできてない下っ端が言う。
「スーッ」
息を吸う村田。
「ふんっ!」
村田がその拳を放つ。
不良達とは全然違う速さに威力だった。
しかし…
それでも立ち続ける光太郎。
「な、なんだと。俺のパンチが効かないだと。」
村田が震える。
「僕を弟子にしてください。」
村田が土下座して言う。
ー 俺強いのかな?てか強すぎじゃね。何で、何でだろ。
光太郎は考えるが何も思い浮かばない。
「弟子かぁ。いい響きだね。でも、やだ。」
断る光太郎。
「てめぇ調子に乗るなよ。」
不良グループのリーダーがまた殴りかかる。
ー 俺コイツらにパンチでも勝てるんじゃね?
そう思った光太郎は、
「必殺。無敵爆裂恋心パンチ!」
ダサいネーミングで放ったパンチはボクシング部の村田の10倍程のスピードで不良のリーダーの顔面に入った。
そして、爆発した。
「え?何これ俺ってこんな強かったんだ!やべー初めて知った。嬉しいマジで。」
喜ぶ光太郎。
「あ、こういう時って決めゼリフいるよね?」
「よし決めた。」
無敵爆裂恋心パンチ
バイこっコップタロウ
それは決めゼリフでもないし、とにかくダサかった。