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第八幕

 すっかり暗くなった空の下を、一条君と二人で歩いた。元々そんなに子供が嫌いではないということもあり、子供達とのサッカーは意外にも楽しかった。まあ・・・おかげで制服は汚れてしまったけど・・・・でもまあ、あんなに楽しいと思ったことはずっとなかったから、よしとしよう。そういえば一条君はなんで孤児院に出入りしてるんだろう?一条君と孤児院・・・・共通点はないように思えるんだけど・・・・

 「ねえ、一条君はあの孤児院と結構交流があるみたいだけどどういういきさつで出入りするようになったの?」

 気になったので聞いてみることにした。

 「ん?ああ・・・実は俺も昔あそこにいたんだ」

 「え!?だって、お父さんとお母さんいるんでしょ?」

 「ああ。たしかにいるけど、血は繋がってないんだ。中学まで孤児院にいて、高校に入る頃に養子に出されたんだよ。物心ついたころにはもう孤児院にいた。だから血の繋がった本当の親を俺はしらないんだ」

 「会いたいって思ったことないの?」

 「ん〜・・・・小学生くらいのころはそう思ってたかな。でも、院のやつらもいたし、シスターが母親代わりみたいなもんだったし。だから中学に上がる頃には、そんなのどうでも良くなってたな」

 「そうなんだ・・・」

 「ああ。それに、今の義父さんも義母さんも良い人で、俺を本当の子供みたいに扱ってくれるから。今はもう、本当にどうでも良いな」

 淡々と話す一条君とは逆に、私はどういう反応をしたらいいのかわからなくなってしまった。それからお互いなにも話すことなく歩いていった。う〜ん・・・好奇心猫を殺すとはこのことだろうか・・・・何となく気まずい・・・・ちらっと一条君の顔を覗いてみたが特になんの感情も浮かんでいなかった。なにか話さなきゃ・・・でも何を話せばいいんだろう・・・う〜ん・・・そんなことを考えていると、突然一条君が口を開いた。

 「なあ庚、お前、まだ退屈だから死にたいとかって思ってるのか?」

 いつもの軽いような口ぶりとは違い、ものすごく真剣な声で一条君が尋ねてきた。

 「そうね・・・たしかにまだこの世界はつまらなくて、相変わらず退屈だなって思うよ。でもね、最近ちょっと思い直したことがあるの。あのね、一条君。私、やっぱり生きて行こうかな。つまらなくても、退屈でも・・・こんな世界でもさ、なんか捨てたもんじゃないような気がする。楽しいなって思えることも、ちゃんとあるんだなって。だから、もう自殺しようっていうことは、思ってないかな」

 「そうか、そりゃよかったよ」

 一条君は本当に嬉しそうに笑って、よかったよかった。と繰り返して言った。私が生きていってもいいやって思えたのは、一条君がいろいろ楽しいって思えることを教えてくれたから。そういうの、一条君は自覚してるのかな?してないんだろうな・・・・してたらしてたでなんか嫌だけど・・・

 「あのさ、庚」

 「ん?」

 なんだかまた声が真面目になっている。また何か重い話・・・?

 「俺さ、お前が死にたいって思うのやめてくれて、本当、マジで嬉しいよ。クラスのやつからそういう話聞いた時さ、まさかって思ったよ。ウソだろ?って。お前が死ぬなんてことになったら、本当に俺、どうしたらいいかわかんなくなっちまうよ。だって俺さ、庚のこと、好きだから。だから、俺と付き合ってほしい」

 「・・・・・・・・へ・・・?えええええええええええええええええ」

 「ああ・・・いきなりこんな事言われても困るよな・・・でも、マジなんだ」

 「え・・・あの・・・えっと・・・・」

 びっくりだ。まさか一条君が私のことをそういう風に見ていたなんて思いもしなかった。一条君はだいたいの人には同じように、優しく振る舞っていたりする人だから、私もその中の一人だと思っていた。っていうか・・・ものすっごい突然すぎやしませんか・・・?

 「すぐにとは言わないけど、お前の気持ちを教えてほしい」

 私の・・・気持ち・・・・私の気持ちは・・・・

 「えっとね・・・私も・・・一条君の事が好きだと思う」

 「マジで・・・?」

 「うん」

 「え・・・ってことは・・・じゃあ・・・・」

 「うん。私でよければ、よろしくお願いします」

 「あ・・・あはははは・・・よかった・・・・ふられたらどうしようかと思った・・・俺、告白なんかしたことねえし、どうしたらいいかとかわかんなかったし・・・ああ、でもよかった。本当によかったよ」

 「あはははは。最初からそんなスムーズにいける人なんてたぶんそんなにいないよ。それにしてもびっくりした。まさか一条君から告白受けることになるなんて」

 「ああ・・・」

 「ん?」

 「あのさぁ庚。その”一条君”ってのやめねえ?雄太でいいよ」

 「え?」

 「いや・・・なんつーかほら・・・よそよそしいっていうか・・・ただの友達みたいっていうか・・・・・」

 そう言う一条君の顔は暗がりでもわかるくらい真っ赤なっていて、ものすごく照れているようだった。そんな一条君がなんだかおもしろくて、そして、可愛いと思えた。

 「うん、わかった。じゃあ、雄太も私のこと庚じゃなくて”瑠莉香”ってよんでね」

 「ま・・・マジで・・・?なんか・・・ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」

 「そんなの私だってそうよ。お互い様よ。わかった雄太?」

 「わ・・・わかったよ・・・る・・・瑠莉香」

 「よろしい」

 それから私たちは歩きながらいろいろな事を話した。毎日電話しようとか、一緒に帰ろうとか。なんとなく恥ずかしいからクラスメイト達にはばれないようにしようとか。そんな事を話しているといつのまにか別れ道についていた。私は交差点を右、雄太は左をいくのだ。

 「じゃあ瑠莉香、またあとで電話するから」

 「うん。待ってるよ雄太」

 そういって私たちは別れた。これからはきっと、退屈をしない、楽しい毎日になるんだ。きっと、ちょっとだけ世界が変わって見えたりなんかするんだろう。そんなことを考えながら、私は家路についた。

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