第六幕
帰宅。当然のように両親ともいない。だからいつものように自分で玄関の鍵を開けて家の中に入る。なんか今日はいろいろありすぎて疲れた・・・・さっさとお風呂に入って寝よう。台所に入るとテーブルに千円札が一枚おいてあった。これで夕食を適当に買って食べろということである。もう何年も続いてきたこと。だが今日の私にはあいにく夕食を食べようなどという気はなかった。だがまあ、くれるものはもらっておく。私は千円札をしっかりと自分の財布にいれて自分の部屋に行った。
お風呂からでてもやはりなにもする気にはならなかった。そういえば現国でプリントの宿題が出ていたな。明日の授業に提出だっけ・・・まあいいや・・・明日学校でやることにしよう。そう決めて布団の中に入るも眠気はまったくない。こういう時は気合いだ。目を瞑っていればいつかは眠りに落ちる。次に気づく時には朝になっているはずだ。よし、寝るぞ!私は気合いを入れて目を瞑った。だがいつまで経っても眠れるような気がしてこない。しかたが無いので宿題でもしようと布団を出たところで携帯がなった。一年前に解散したバンドの曲。一時期は騒がれたりもしたものだが、今では口にする人すらあまりいないのではないだろうか。携帯のディスプレイには「一条雄太」と表示されていた。そう、最低男君だ。このまま出ないで居留守を使ってやろうかと思ったが今日のことで文句を言ってやろうと思い立ち
「もしもし?」
おもいっきり不機嫌な声で電話に出てやった。
「あ、一条だけど」
「そんなの携帯見ればわかるわよ。で、なに?」
「あ〜・・・・えっと・・・今日は悪かったな」
「本当にね」
「え〜っと・・・怒ってる・・・よな・・・?」
不機嫌な声が効いたのか、一条君はしどろもどろになっているような気がする。なんだかおもしろいからもう少し続けてやろう。
「怒ってなんかいないよ。ただ、明日から一条君のことを最低君一号って呼ぶけど」
「いや・・・それは勘弁してください・・・」
「弁解の余地なんてあると思って?」
「いえ・・・ないです・・・」
昼間の強引さからはとても想像がつかないくらいに必死な感じだった。これは下手に文句を言ったりするよりもその何倍もの効果を発揮しているのではないか。一条君の様子に笑ってしまいそうになるのを必死に堪えて、不機嫌モードを演出することを続けた。
「ふむ」
「・・・勘弁してください・・・」
「えー」
「頼む!お詫びに俺の超おすすめのパフェおごるから!」
食べ物でつろうという作戦か・・・とも思ったがその超おすすめとやらを食べてみたいきもした。必死な一条君がだんだん可哀想な感じもしてきたし、そろそろ許してやろうか。
「ん〜・・・・わかった、考えてもいいよ」
「本当か!?」
「そのパフェがどのくらいの物かにもよるけどね」
「その辺は大丈夫だ!明日の放課後とか大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「よし。じゃあ明日な」
「うん。じゃあね」
そういって私たちは電話を切った。私は結局宿題に手をつけず、再び布団に入り、目を瞑った。それにしても一条君の様子はとてもおかしかった。今度なにかあったら同じ作戦でいこうか、それとも他の、別の戦法にしようか・・・などと考えているうちに私は自然と眠りに落ちていった。