第五幕
私は今学校の近くの商店街を歩いている。一条雄太と二人で・・・これはいわゆる・・・デートというやつ・・・だろうか・・・・?かなり一方的かつ強引にかり出されたという事実を無視すればまあ・・・・立派なデートというものになるのだろう・・・・。う〜ん・・・困ったなあ・・・何しろ私は男の子と二人でどこかへ出かけるという事をしたことがないのだ。なにを話したら良いのやら・・・・
「知ってるか?」
「え?あ・・・何?ごめん、聞いてなかった・・・・」
「知ってるか?櫻庵のチョコアイスすげえうまいんだぜ?」
「へえ、そうなんだ。行ったことあるけど食べたことないなぁ」
「なに!?けしからんヤツだ!」
「いや・・・けしからんって・・・・」
「ちょっとまってろ!」
「え・・・・?」
そういうと一条君は走り去って行った。さて、どうしたもんか・・・っていっても待ってろと言われた以上は待ってるしかないんだろうな・・・・にしても突然連れ出したと思ったら今度は待ってろとか・・・私に選択権はないっていうかやっぱ強引・・・・っていうか・・・なんかそう考えたらだんだんムカついてきた・・・・戻ってきたら文句の一つでも言ってやろうか・・・・さあて・・・なんて言ってやろうか・・・
「お待たせ!ほら、櫻庵のチョコアイス」
「へ!?あ・・ありがと!」
「・・・なんでそんなに驚いてんだ?」
「べ・・・べつに!」
あんたに対する文句をひたすら考えていたから!なんてさすがにストレートに言えるわけがない・・・
「ふ〜ん・・・まあいいや。それより溶ける前にアイス食えよ。マジでうまいから」
「もう十月も終わろうってこの時期にそんな早く溶けたりなんかしないわよ・・・」
「まあ、細かいことは気にするな」
細かくはないと思うんだけど・・・という突っ込みはとりあえず胸の内にしまっておこう。なによりも一条君の目が「さあ、食べてみてよ!」と、料理マンガの主人公ばりに語っていた。
「・・・おいしい!」
「だろ?」
アイスは懸命に勧めていただけあって確かにおいしかった。甘過ぎなくて、なにかはわからないけど香りが口の中に広がっていった。
「うん!こんなおいしいの食べたことない!」
そういうと一条君は「そうか」といって本当に嬉しそうに笑った。それは学校では見せないような、小さな子供が親に何かを自慢するような、そんな無邪気な笑顔だった。
「意外と誰もしらないんだよなぁ。みんな流行流行って雑誌に載ってるのとかばっかり追うからこういう穴場に気付かないんだよな」
そう語る一条君は学校で見る印象とは違った。私が持っていた印象はどちらかというと一条君こそクラスの先頭をきって流行を追っているような感じだった。見た目がチャラチャラしてるいてまさに、という感じである。クラス一・・・いや、校内一目立っていると言って良いほどだ。さっきからの行動から察するに、一条君はきっと我が道を行く!という感じなんだろう。一条君が流行を追っているのではなくて、どちらかというと流行が一条君の後に続いているという感じなのだろう。一条君の違う一面をみたような気がしてちょっと嬉しくなった。
・・・・・ちょっとまった。嬉しくなったってなに・・・・?なんで嬉しくならなきゃならないの!?一条君の違う一面をみたからって私が得することなんてない。断じてない。でも・・・・う〜ん・・・・?なんだろう・・・う〜ん・・・・
「あああああああ!!」
「ちょっ、な、なによいきなり大声だして!」
私の思考は一条君の声で強制切断された。いや、思考を切断されたのは良い・・・ここは夕方の商店街。買い物に来ている主婦や学校帰りの学生達がいっぱいいる。そして・・・その場にいる全員が何事かと一様に私たち二人を見ている。うう・・・・皆様の視線が痛い・・・
「わりぃ!俺今日用事があることすっかり忘れてた!」
「え?え?」
「本当にわりぃ!また明日な!じゃあな!」
「え・・・ちょっとまっ・・・・」
私が声をかける間もなく一条君は走り去って行った。さっきまで二人に注がれていた冷たい視線はその場に取り残された私だけに注がれる事になった。私はその視線から逃れるように早足でその場を去ることにした。今日はいったいなんなんだろう・・・とりあえず一つだけわかるのは、一条雄太というのは女の子を強制連行した挙げ句に放置するという最悪な人だということくらいだろうか・・・・・