表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第三幕

 気が付くと私は自宅近くの公園にきていた。現時刻午前十一時三十分。小さな公園ということもあり、他に人は誰も居なかった。なんとなくブランコの所に歩いていき、座る。

 「気が済んだか?庚瑠莉香。なにをしようとも、お前は死ねない。例え頭が吹き飛び、肢体がバラバラになろうが、心臓をえぐられようが、身体が粉々に砕け散ろうが。わずかに残った細胞から、お前は何度でも再生する」

 さっきまで居なかったような気がするが、いつの間にか目の前に紅闇がいた。

 「どうして・・・・・?」

 「理由は説明した。お前に寿命がないからだ」

 「どうして私がこんな目に遇わなきゃならないのよ!」

 自分でも無意識のうちに声を荒げてしまっていた。他人のせいでこんなことになったという事への怒り、この世界で永遠に生き続けなければならない事への絶望、こんな事になってしまったことへの哀しみ。いろんな感情が渦巻いた結果だった。

 「私がなにをしたって言うのよ!なにもしてないじゃない!平凡に生きてきただけじゃない!なのに・・・・なのになんで・・・・!」

 「・・・・悪かった」

 「悪かったじゃないわよ!謝られてなにかが変わるって言うの!私が死ねるようになるっていうの!?あなた死に神なんでしょ?!なんとかしなさいよ!返してよ・・・!私の寿命・・・ねえ・・・返してよ!!」

 すでに怒鳴るというよりは絶叫に近かった。いつのまにか涙が流れていた。”死ねない”という事実が自分で思っていたよりもこたえていたらしい。私はうつむいた。紅闇なんかに泣き顔をみられたくなかった。

 「悪いが俺にはどうすることもできない。寿命を書いた書類は厳重に保管、封印をする。そして、その封印によって誰も書類にふれることはできない。そもそも、一端の死に神でしかない俺は書類がどこに封印されているのすら知らない」

頭の中が真っ白になり、紅闇の言葉など、全然入ってこなかった。何も考えられなくて、疲労だけが残っていた。急に体中が痛くなってきた。昼間車と接触したからだろう。どうせ死ねないなら、痛みも感じなくしてくれればいいのに。気が付くともう涙は止まっていた。

 「唯一なんとかできるとすれば・・・・」

 「君、ちょっといいかな」

 紅闇の言葉を遮って一人の男性の声が割り込んできた。顔を上げると四十半ばくらいの中年の男性が立っていた。まわりを見るが他に誰も居ない。どうやら瑠莉香に話しかけているようだ。

 「いきなり失礼。私は生物学を研究している者なのだが。いきなりで不躾なのだが、君、死ねないというのは本当かい?」

 目を輝かせて嬉々として私に尋ねてきた。なんなんだこの人は・・・どう考えてもあやしい。なんていうか・・・・一言で表現するなら・・・キモイ。私が黙っていると、その学者(キモイ人)はその沈黙を肯定と受け取ったらしく、「そうかそうか」と嬉しそうに頷きながら話を続けた。

 「私は不老不死について研究していてね〜」

 と、突然自分の研究している事について熱く語り始めた。私は「はあ・・・」と、生返事だけを返していた。興味ないし、おもしろくも何ともなかった。ふと気づくと自分が制服を着ていることに気づく。いつものくせで制服を着てきてしまったらしい。よく補導されなかったものだ。運が良いというかなんというか・・・・そんな事を考えていると突然一際熱い口調で、学者は言った。

 「と、いうわけで、私の研究に協力してくれないか?」

 「は?」

 全然話を聞いていなかったため、なにが「と、いうわけで」なのかさっぱりわからなかったが・・・協力・・・・?それって・・・・

 「君の身体を研究すれば、私の不老不死の研究は完成するかもしれない!礼はいくらでもする。協力してくれないか!?」

 つまり・・・・私にモルモットになれってことか・・・・?こんなキモイやつに体中を調べられる・・・・?考えただけで気持ち悪かった。はっきり言ってイヤ過ぎる。死ねないことよりもこいつのモルモットになるほうがもっとイヤだ。私は立ち上がり、学者に微笑みかけた。学者はなにか勘違いしたらしく「ありがとう!ありがとう!」とか言っている。私は学者に歩み寄り、そして

 ドスッ!!

 思いっきり鉄拳を突き立ててやった。「うぐっ・・・・!」と、声をあげて学者は崩れ落ちた。「ううう〜〜・・・・」と呻き声をあげる学者キモイヤツを無視して私は歩き去った。なんか妙に疲れた。どうせ学校もさぼってしまったし、家に帰って寝ようと考える。「ぐぅ〜〜」おなかが鳴った。時計をみたら丁度十二時だった。寝る前に昼食を食べようと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ