第二幕
こうなったら意地でも死んでやる!死ねないなんてあんまりだ。いくら死に神の言った事とは言え「あ、そうなんだ〜あははははは」なんて易々と認められるわけがない。だいたい私がなにをしたというのだ。なにかの陰謀かなにか?平々凡々と生きてきた自分がなんでこんな目に遇わなければならないのだ!いくらなんでも理不尽すぎる。そりゃ、たしかに世の中理不尽なことだらけで納得できないこともいっぱいあるけど・・・例えば校則。制服でなければいけないっていうのは、まあ許せる。でもスカートの長さまで決まっているというのは納得できない。どこが悪いのか理解できない。一センチ短かったりするだけで怒られたりする。理由を聞けば校則で決まっているからと。まったく理不尽だと思う。まあ、そんなもんだろうと結局は諦めているわけだけど・・・・そんな感じで、理不尽という物はその辺に転がっているものだ。
そんなわけで、私は今ロープをもって近くの神社に来ていた。平日の午前十時にこんな所に来る人なんていない。来られたら大変だ。早まるな!とかいって説得とかされてしまうだろう。そうなると非常にめんどうだ。だから学校をさぼって、あえてこの時間を選んだ。小さな神社ではあるが雑木林はある。万一人が来た時のために、林の中ですることにした。なにを?当然首つりだ。細い枝だと折れてしまうかもしれないので太い枝を探す。随分太い枝が見つかった。太さ二十センチはありそうな枝だ。その枝にロープをくくりつけ、頭が入るくらいの輪を作る。踏み台にのってその輪の中に頭を入れる。あとはこの踏み台をどかせば良いだけだ。
「せーの・・・・!」
勢いをつけて踏み台を蹴る。完璧だ!これで死ねないわけがない!グッバイつまらない世界!!
バキッ!!
かん高い音を立てて枝が折れた。勢いをつけて踏み台を蹴ったため、私は地面に跪くかたちで着地した。
「嘘でしょ・・・・?」
太さ二十センチもある枝がそう簡単に折れるはずがない。普通に考えたら絶対に。まさか・・・・私そんなに体重が・・・・いや、違う。絶対に違う。そんなのは認めない。認められるわけがない。きっとここ最近ずっと降り続いていた雨のせいで木が腐ってたんだ。そうだ。そうに違いない。
「庚瑠莉香・・・お前、体重重いんだな」
ドスッ!!
私は声の主、紅闇のミゾに思いっきり鉄拳をくらわせた。当然な仕打ちだろう。私の乙女心は深く傷ついたのだから。いたいけな乙女に発するまじき言葉だ。
「ぐ・・・・!いきなりなにをする!」
「うるさい、黙れ」
抗議をしてくる紅闇に一発言いはなってやった。そして、まだなにか叫び続けている紅闇を無視して私は歩き出した。首つりがだめなら次は・・・
私はビルの屋上にきていた。二〇階立てのビルだ。飛び降りなら確実だろう。これで死ねないなんてことはまず考えられない。見事に即死のはずだ。フェンスを乗り越え、下を見る。さすがに高い。絶対にいける!むしろ逝ける!!
「とうっ!」
改造バッタ人間よろしく高らかとジャンプをしてビルから飛び降りる。角度、初速度、落下速度、どれをとっても完璧なダイブだ!今度こそグッバイつまらない世界!!
ドサッ!
ひどく乾いた音がした。これは確実に死んだわね。ざまぁみろ紅闇!私は死んでやったわよ!寿命を定められてるだかなんだかしらないけど、寿命のない私はそれに逆らってしんでやったわよ!って・・・ん・・・?それにしては感覚がしっかりしてるような・・・
「こら、きみ!なにをしてるんだ!避難訓練のじゃまになるから早くそのマットからどきなさい!」
え・・・?マット・・・?イヤな予感がして、目を開いて辺りを見回す。スーツを着た中年のサラリーマンの人が私を睨んでいた。自分が避難訓練に使われる大きなマットの上で寝ていることに気づいた。なんで・・・?飛び降りる時には確かになにもなかったのに・・・・私が思考を巡らせている間も、その中年のサラリーマンの人は「早くどかないか!」などと叫んでいたが、私の耳には入ってこなかった。なんで・・・?どこからマットが・・・・?考えてみてもその答えがわかるわけもなかったのだが、それでも思考はとまらず、私はふらふらと歩き出していた。
首つり、飛び降りがだめなら、もう飛び出ししかない!飛び出しだったら絶対に大丈夫(というのもなんか変だけど・・・)だ!と、言うわけで私は車の往来が激しい道路脇の補導にきていた。トラックやらダンプカーがものすごいスピードで走っていく。より確実性をあげるためにトラックに飛ばされることにしよう。そんな事を考えていると丁度良くトラックが走ってきた。時速は八十キロと言ったところだろうか。タイミングを見計らって、一気に飛び出す。
キィーーーーーーー!!というかん高い音のあとに、ドンッ!という鈍い音がし、私は跳ね飛ばされた。確かな手応えがあった。完璧に当たった。宙を舞っている。飛ばされている感覚。地面に身体を打つ感覚。私の身体はたしかに車にはねられ、地面に叩き付けられた。ハッピーエンド・・・・・だと思ってたらまたなにやら声が聞こえた。
「き・・・君!大丈夫か!?」
声はひどく焦っていた。まあ、当たり前だろう。人を一人はねたのだから。業務上過失致死、というやつになるのだろうか?っていうか・・・・ちゃんと声が聞こえるということはもしかして・・・・ゆっくり目を開けた。アスファルトの地面と野次馬達の足が見える。
ゆっくりと身体を起こす。痛みはまったく感じなかった。死ぬどころか無傷だった・・・運転手らしきおじさんが駆け寄ってきて私に声をかけた。
「大丈夫か!?ケガとかないか!?」
おじさんの問いに「大丈夫です。大丈夫です。」と答えた。おじさんは一安心したらしく、大きなため息をつき、
「急に飛び出してきたらダメじゃないか。無傷だったからよかったけど、普通は死んでいたんだぞ?」
と、言ってきた。イヤ・・・死にたかったんですけど・・・・・おじさんはまだ警察に連絡しなきゃとか、病院いって精密検査をとか言っていたが、なんともないです。大丈夫ですから。と言い残してその場をさった。もう、何も考えられなかった。