最終幕
病院に搬送された雄太はすぐに手術が施され、集中治療室に入った。手術は一通り終わったが全身を強く打ったため安定のしない状態が依然続いていた。いつその命の灯が消えてもおかしくない状態だという。家族でもない部外者である私が集中治療室に入れる訳もなく、ならばせめて待合室でと思ったが外来診察の時間終了とともに追い出されてしまった。仕方なく家路につく。幸い、雄太のお母さんが気を効かせてくれて、何かあったら私の携帯に電話をしてくれるらしい。非常な物だ。いくら恋人とはいえ、家族ではないからという理由で側にいられない・・・・
家についても何をする気にもなれず、自分のベッドに座ってぼーっとしていた。急にここ数日の出来事がフラッシュバックした。雄太に無理矢理商店街にかり出された。パフェを食べた。孤児院に行った。そして・・・・子供の身を守るためにトラックに・・・ものすごく悲しいはずなのに涙は出なかった。雄太はどうなってしまうんだろう。回復して、また私と一緒に楽しい毎日をすごす事ができるのだろうか?それとも・・・・・
「久しぶりだな、庚瑠莉香」
私の目の前に、また突然現れた。
「なによあんた・・・今更私になんの用があるというの?」
「一条雄太は今日死ぬ」
死神紅闇が静かに淡々と、高校生が小学一年生の問題を解くみたいに易々と私に告げた。
「なによそれ・・・そんなこと・・・そんなことわざわざ私に言うために現れたっていうの!?」
「一条雄太を助けたくはないか?」
「なによ・・・なんなのよさっきから!わけわかんないわよ!なにしにきたって言うのよ!?消えて・・・今すぐ消えてよ!!」
「お前が自分の命を差し出すなら、変わりに一条雄太を救ってやろう。ただし、その場合お前は天国にも地獄にもいけず、彷徨える魂となる。それでも良いのなら・・・」
「いいよ」
紅闇が全て言い終わる前に私は口にした。雄太のいない世界なんて生きている意味はない。また前みたいに死を追い求めて彷徨うだけだ。ならばここで雄太の命を取り繋いだ方がよっぽどいい。こんなことを雄太が知ったらなんて言うだろう。喜ぶなんてことはないんだろうな。でも、それでも、私は雄太を・・・・・
「では、行くぞ」
そういって紅闇は私の額に手を当てた。紅闇の身体から光が放出され、暗い部屋を照らした。ベッド、机、本棚、部屋中の全てが青白い光に照らされる。机の上に置いた携帯電話が着信を告げた。目だけを動かして携帯のディスプレイを見る。そこには「一条雄太」と表示されていた。私は固く目を瞑った。頬を涙が伝う。さようなら、雄太・・・
私の意識はそこで途切れた。