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第九幕

 朝。いつもと同じ朝。いつもと同朝。私たちに訪れた変化のことなどお構いなく、いつものつまらない毎日が繰り広げられていく世界。私たちにとっては、新しい世界。

 教室での私へのみんなからの無視攻撃は続いていた。でもそんなことは全然きにならなかった。雄太だけが側にいれば、他になにもいらない。クラスで無視されようがなにしようがそんなことはどうでもよかった。私たちは毎日のように放課後商店街や孤児院に行った。とても楽しい毎日。本当に世界が変わって見えた。何もかも。こんなこというのはちょっと恥ずかしいけど、雄太と一緒に過ごす時間がとても幸せだった。こんな幸せな時がずっとずっと、続いて行ったらいいな。そんなことを雄太と二人で歩きながら考えていると雄太が言った。

 「俺、今瑠莉香といてすげえ幸せだよ。これからもずっと一緒に居よう。一緒に高校卒業して、おっちゃん、おばさんになって、じいさん、ばあさんになるんだ。先に死ぬんじゃねえぞ。死ぬなら、一緒に死にたいよな」

 ああ、雄太も同じようなこと考えてたんだ。そう思うと嬉しくなって、でもなんか可笑しくなって、つい笑ってしまった。そしたら雄太がちょっと拗ねた感じで「なんだよ、笑うことないだろ」といったので「違う違う」と否定した。笑いながら。

 「私も、今同じ事考えてた。二人で同じ事考えてたなんて、ちょっと不思議だよね」

 雄太は「そうか」というとまたあの子供のような笑顔を覗かせた。

 「でもね」

 「ん?」

 「一緒に死ぬっていうのは、無理があるかな。私は絶対に、雄太より先に死ぬ事も、一緒に死ぬこともないから」

 「意地でも長生きしてお前と一緒に死ぬさ」

 「違うの。雄太はいつか必ず死ぬから」

 雄太からさっきまでの笑顔が消えた。

 「それはお前だって一緒だろ?人間だって生き物なんだ。いつかは必ず死ぬだろう」

 「ううん。私は死ねないの。どんなことがあっても、何年、何十年・・・何百年経っても私は死なないの」

 「・・・どういうことだ?」

 「私が初めて自殺をしようとした次の日、朝起きたら私の前に死神が現れて、お前は死ねないって言ったの。俺がお前の寿命を書き忘れたから死ねないって。普通に考えたらそんなこと信じられるわけないでしょ?だから、私はいろんな事を試した。首つり、飛び降り・・・でも死ぬどころか傷一つおうことなかったの。ただの偶然にしてはできすぎてるでしょ?それも一回だけじゃなくて、何回も続くなんて。たぶん、私は本当に死ねないんだと思う。だから、私が雄太より先に死ぬなんてことも、一緒に死ぬっていうこともできない」

 「はは・・・まさか・・・そんなの非現実的過ぎる」

 「信じる信じないは雄太の自由よ。でも、事実なのよ。ほら、そんな顔しないの!一緒に死ぬことはできないけど、でもそれはずっと、雄太が死ぬまで一緒にいられるってことなんだからさ」

 雄太は黙ったままだった。それから私たちはお互いなにも話すことなくただ歩き続けた。黙々と歩いていると小さな公園についた。公園では子供達がサッカーをしていた。とても楽しそうにボールを追いかけている。一人の子がボールを蹴った。見事に誰もいないところにボールがとんで、そのままボールは公園から道路に出てしまった。ボールを蹴った子が道路に出たボールを取りに走ってきた。ボールを取ってあげようと私がそっちに向かおうとしたとき、向こう側からトラックが走ってくるのが見えた。このままでは子供がトラックにはねられてしまう。

 「あぶない!」

 そういって私が衝動的に走ろうとするより早く、雄太が走り出していた。

 そして・・・・・・・・

 そこからのことは映像をスローモーションで見ているような感じだった。トラックにはねられる寸前のところで雄太は子供を突き飛ばした。そして雄太は・・・・

 トラックに跳ね飛ばされた。人形が中を舞うように、雄太が宙に舞う。

 「雄太ーーーーーーーーー!!!」

 私は叫びながら雄太に駆け寄った。雄太の身体からおびただしい量の血が流れ始めていた。降りてきたトラックの運転手が警察と救急車を呼んでいた。

 「雄太!雄太!しっかりして!」

 私の声にも何の反応もしめさない。地面が雄太の血で赤く染まっていく。

 「雄太!雄太!雄太あぁあ!!」

 私は必死に声をかけ続けた。しかし、救急車が到着して病院に搬送されるまで、雄太の意識が戻ることはなかった。

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