第7話
倉敷の実家、休暇最終日じゃ。
あの暗黒カレーの悪夢も、親父とのローソン宴会も、すべてが秋の午後の日差しの中に溶けていった。
「あんた、これ持っていきんせえ」
おかんが、倉敷の老舗の包装紙に包まれた「むらすずめ」をしこたま持たせてくれた。
「おっちゃんらにも分けちゃれよ」
わしは黙って頷き、軽トラの助手席に太郎を乗せた。
実家の門を出る時、バックミラーに映る親父とおかんの姿が、だんだん小さくなっていく。鼻の奥がツンとしやがったが、わしはアクセルを踏み込んだ。
2号線のバイパスを東へ。夕暮れの空が岡山の色に染まっとる。
助手席の太郎の奴、倉敷から岡山へ空気が変わったのを察したのか、窓の外をじっと見つめながら尻尾をゆっくり振りよる。
「太郎、もうすぐ家じゃぞ。あいつらが待っとるわ」
バイパスを降りて、いつものアパートが近づいてくると、鼻がひくひくしてくる。コンクリートとトップバリュの、あの日常の匂いじゃ。
――あぁー、おっさん、兄ちゃん。
アパートの前に着くと、案の定、おっさんと兄ちゃんが地べたに座って、黄色いラベルをラッパ飲みしとった。
「わしさん! お帰りなさい!」
「遅いですよ、こっちはもやし炒めだけで凌いでたんですから!」
わしは軽トラから飛び降り、お土産の「むらすずめ」を二人の前に出した。
「……食え。倉敷の甘いやつじゃ」
「おぉ、高級品じゃないですか! これ、いくらするんですか」
「知らん」
おっさんがもう一個取りよった。
3人と1匹で、アパートの階段に腰掛けて、むらすずめを頬張った。薄い皮の甘みと、あんこの重みが口の中に広がっていく。
――たまらんのう。
明日からはまた、泥まみれの現場仕事が始まる。
こんな変態親父と帰り道遊び、してみたいもんじゃ。ああ~、早く日常まみれになりたいのう。岡山の夕暮れ、むらすずめの空き箱を片手に、明日への気合を入れとるぞ。
――コンクリートミキサー車持って来てくれる奴、おらんかのう。土方姿に戻って、また次の「まみれ」を待つとするかのう。




