第6話
倉敷の実家、3日目の夜じゃ。
あの暗黒カレーの悪夢で失意に沈むわしを、黙って見ておれんかったんじゃろう。親父が「……ちょっと出てくる」とだけ言い残し、近くのローソンへ車を走らせよった。
しばらくして、ビニール袋をガサガサ鳴らして戻ってきた親父の手には、冷えた缶ビールと、ローソンの「からあげクン」に「イカの塩辛」、それに「枝豆」が詰まっとった。
「飲め」
それだけじゃ。
プルタブを開けた瞬間、シュワッという音が鼻をひくひくさせてくる。
――あぁ~、たまらんのう。
さっきまでのチョコとコーヒーの呪いが、冷えたアルコールで洗い流されていく。元コックのプライドなんて、この一杯の前には砂遊びのようなもんじゃ。
親父と差し向かいで、ローソンの塩気をツマミに、無言でグラスを傾けた。いつの間にか友達もちゃぶ台に座っとった。誰も何も言わんかった。
「……カレーは、明日おかんが何とかするじゃろ」
親父がぽつりと言いよった。
わしは何も言わずに、ビールを一口飲んだ。それだけで十分じゃった。
横では太郎の奴が、からあげクンの匂いにつられたのか、親父の膝の上で尻尾を控えめにブンブン回しとる。
「太郎、お前にはこの味の薄いところをひと欠片じゃぞ」
親父が不器用に肉をほぐしてやりよる。
鼻の奥がツンとしやがった。
そのまま3人と1匹で、実家の畳の上に並んで飲み続けた。友達が「追いストロング」を買いに走った。二回走った。三回目は親父が行きよった。
――やっぱり、何もしなくてええ夜が一番の贅沢じゃ。
天井の木目が、酒の勢いでゆっくりと回っとる。それがまた気持ちええ。
こんな変態親父とローソン遊び、してみたいもんじゃ。ああ~、早くアルコールまみれになりたいのう。倉敷の夜、ローソンの看板の光を見守りながら、夢の中へ突っ込んでいくんじゃ。
――ヘパリーゼ持って来てくれる奴、おらんかのう。親父の分も頼む。土方姿に戻る前の、最後の泥酔を見せたるんじゃ。




