第3話
やったで。今日は同窓会で再会した友達と、実家でカレーを作ることにした。
二日酔いの頭を振りながら、倉敷の「ゆめタウン」へ乗り込んだ。土日の買い物客でごった返す店内の匂いが鼻をひくひくさせてくる。子供たちの泣き声が吹き抜けに響き渡っとる。
――あぁ、たまらんのう。
横には、昨日十数年ぶりに話した同級生がおる。会社での付き合いに疲れとるんじゃろう。わしの「カレー作るぞ」という無骨な誘いに、縋るように乗ってきよった。
精肉コーナーの前に立ち、牛のスネ肉としこたま脂の乗ったバラ肉を指差した。
「わし、そんなに肉買うてどうするんじゃ」
「カレーじゃ」
「……そんだけ?」
友達が呆れとるが、わしは黙ってカゴに入れた。
カゴを提げてレジに並んどる時、ふと横を見た。いつもなら、ここで「わしさん、これ安いですよ!」と騒ぐ兄ちゃんがおる。勝手にトップバリュの酒をカゴに突っ込んでくるおっさんもおる。
友達がわしの視線の先を見て「……何かおるん?」と聞いてきた。
「いや、何もおらん」
実家へ帰り、友達と一緒に台所に立った。玉ねぎを飴色になるまで炒め始めると、甘い匂いが鼻をひくひくさせてくる。
「……ええ匂いじゃな、わし」
友達が感心したように呟く。
肉をドバーっと放り込み、赤ワインとトマトを合わせて煮込んでいく。
横では太郎の奴が、いつもの「料理するわし」に戻ったのを察したのか、尻尾をブンブン回して足元に擦り寄ってきよった。
「なんで犬の方がわしより懐いとるんじゃ」
友達が複雑な顔をしとる。
「太郎はわしのことをよう知っとるんじゃ」
「待て太郎、これはお前には刺激が強すぎるぞ」
一時間後、真っ黒に熟成されたカレーが完成した。
「わし、辛いの苦手なんじゃけど」
友達が食う前に言いよった。
「……それを先に言え」
3人と1匹で食卓を囲んだ。友達が一口食った瞬間、目を見開いて絶句しとる。
「……こんなにうまいカレー、食うたことないわ」
「辛いのが苦手なんじゃなかったんか」
「……うまいから、ええんじゃ」
わしは黙って、自分の皿に福神漬けをドバーっと盛った。うまい。確かにうまいんじゃが……。
――もう一度、あいつらと騒ぎたいのう。
太郎がわしの膝に頭を乗せてきた。
こんな変態親父とゆめタウン遊び、してみたいもんじゃ。ああ~、早くあいつらとカレーまみれになりたいのう。倉敷の実家の台所で会える奴なら最高じゃ。友達にレシピを教えながら待っとるぞ。
――買い物カゴ持って来てくれる奴、おらんかのう。土方姿に戻る前に、もう一度だけ、あいつらと「やったで」と言いたいんじゃ。




