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やったぜ。4  作者: 水前寺鯉太郎


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第1話

やったで。今日から盆休みじゃ。

 一週間、岡山の現場でコンクリートまみれになっとった体を、軽トラの運転席に沈めた。助手席には、首をかしげて不思議そうにしとる太郎がおる。

 「太郎、今日は遠出じゃぞ。倉敷の実家へ帰るんじゃ」

 太郎の奴、言葉が分かったんか、窓の外を流れる景色を眺めながら「クゥーン」と鼻を鳴らしおった。

 2号線を西へ走り、倉敷の古い町並みが近づいてくると、鼻がひくひくしてくる。潮の匂いと、古い木造家屋の埃の匂い。腹の中では、言いようのない緊張感がぐるぐるしとる。

 実家の門をくぐった瞬間、縁側で煙草をふかしとった親父と目が合った。

 「……帰ったか」

 「ああ」

 それだけじゃ。元コックのわしが、包丁を捨てて土方になったことを、この親父はいまだに許しとらん。

 居間に入ると、おかんが「太郎ちゃんも一緒か、ええ子じゃのう」と笑いながら、台所から麦茶を持ってきた。

 「あんた、腹減っとるじゃろ。何か作るけぇ、待ちんせえ」

 「ええわ、わしが作る」

 わしは地下足袋を脱ぎ捨て、数年ぶりに実家の台所に立った。

 冷蔵庫を開けると、そこには使い古された味噌のパックと、家庭菜園で穫れた不揃いの夏野菜がしこたま詰まっとる。鼻がひくひくしてくる。これじゃ。この匂いが、わしの原点じゃ。

 トップバリュの黄色いラベル……といきたいが、実家の仏壇の前じゃ。今日は冷えた麦茶を一口煽り、わしは包丁を握った。

 親父の好きな茄子の煮浸しと、おかんが好きな素麺。それに、太郎のために塩抜きした鶏のささみ。

 鍋に醤油と出汁をドバーっと合わせて火にかけた瞬間、実家の台所に甘辛い湯気がぐるぐると立ち込めていく。

 「わしさん、ええ匂いじゃのう」

 いつの間にか、兄ちゃんとおっさん……じゃなく、親父とおかんが後ろでじっとわしの手元を見とる。

 茄子をずるっと出汁に沈めてやると、紫色の皮が熱を帯びて、じゅわじゅわと音を立てよる。口の中に放り込むと、出汁の旨みがずるずるして、喉の奥まで優しく広がっていく。

 「……腕は落ちとらんな」

 親父がぽつりと言いながら、箸を動かした。わしは何も言わずに、ただ素麺を啜ったんじゃ。

 太郎の奴、ささみを平らげて、親父の足元で尻尾をブンブン振っとる。鼻の奥がツンとしやがった。

 ――もう一度、この台所で作りたいのう。やっぱり実家の飯は、何とも言えん味がするわ。

 こんな変態親父と実家遊び、してみたいもんじゃ。ああ~、早く倉敷の風にまみれたいのう。

 倉敷の古い路地裏で会える奴なら最高じゃ。土方姿のまま、実家の片付けしながら待っとるぞ。

 ――古いアルバム持って来てくれる奴、おらんかのう。

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