事故物件の引き継ぎ書
格安のアパートに入居したら、キッチンの引き出しに、前の住人が残したと思われる「メモ」が入っていた。
ノートをちぎった紙に、震える文字でこう書かれていた。
【この部屋で生き残るためのルール】
1.夜11時以降、インターホンが鳴っても絶対に出ないでください。モニターも見ないでください。カメラの向こうにいるのは、人間ではありません。
2.お風呂に入っている時、「シャンプーの減りが早い」と感じたら、すぐに浴室を出て鍵をかけてください。その夜はもうお風呂に入らないでください。誰かがあなたの頭で泡立てています。
3.寝ている時、天井の四隅を見ないでください。もし黒いシミのようなものが見えたら、目を逸らさずに「入ってくるな」と3回唱えてください。目を逸らすと、落ちてきます。
4.もし、部屋の真ん中に「後ろを向いた長い髪の女性」が立っていても、絶対に話しかけないでください。彼女はこの部屋の元々の持ち主です。彼女が振り返るまで、あなたは「いないもの」として振る舞ってください。
5.最後に。このメモを読んでいる最中に、背後でカサカサと音がしても、絶対に振り向かないでください。
俺は鼻で笑った。
なんだこれ。たちの悪いイタズラだ。
俺はメモをくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げ捨てようとした。
カサッ。
背後で音がした。
俺の体は凍りついた。
ゴミ箱のビニールが鳴った音? いや、もっと高い位置だ。
俺のすぐ後ろ。首筋のあたりで、何かが擦れる音。
――振り向いちゃいけない。
急に、メモの「ルール5」が脳裏をよぎる。
馬鹿馬鹿しい。そんなわけない。
俺は恐怖を振り払うように、勢いよく振り返った。
そこには、誰もいなかった。
ただ、白い壁があるだけだ。
「ほら見ろ、脅かせやがって」
俺は安堵のため息をつき、再びメモを拾い上げた。
まだ続きがあったのだ。
俺は丸まった紙を広げ、最後の一行を読んだ。
『6.ごめんなさい。ルール5は嘘です』
『音に気づいた時点で、もう手遅れです』
視界の端。
俺の肩の上に、青白い顔が乗っていた




