1-7 冒険者ギルド
牧歌郷アルカディア・エーデル村を出て数日。俺達は森の街道を進む馬車の荷台に揺られていた。コロコロと車輪が土を蹴る音が、妙に心地良く耳に残る。
「まあ取り敢えず、目指すべきは牧歌郷アルカディアの王都だな」
「そうですね、せつくん。冒険者ギルドで冒険者登録を済ませておいた方が後々便利でしょうし」
「Fランクからのスタートか。早めに一流と呼ばれるBランクくらいには上がっておきたいが……昇格戦がなぁ」
「冒険者ランクを上げるためには、そのランクの上位に属する冒険者との昇格戦で勝利しなければなりませんからね」
「冒険者を出来る限り適正に近いランクに保つことで、クエスト中の殉職者を減らすためなんだよな。理屈は理解出来るが、時間掛かりそうだなぁ……」
「ふふ、せつくんなら余裕ですよ。……あ、せつくん、王都に入る前にこちらを」
アマネから手渡されたのは、金属とガラスで出来た手のひらサイズの板。
「お、スマホか」
「はい。通話機能やDM機能を兼ね備えたSNS、昇格戦の通知、動画配信サービスの閲覧、ネットショッピング最大手のアタゾン、インターネット掲示板などが多岐に亘ってご利用いただける携帯型端末になります」
「まあ要は、従来のスマホの機能は兼ね備えてるってことだな」
「はい、これでせつくんが迷子になっても連絡が取れます」
「俺は子供か……」
「ふふ。……あ、せつくん。冒険者ギルドに寄った後で構いませんので、教会に寄ってもいいですか?」
「教会?何かあるのか?」
「はい、十年程前まで教会でお仕事させていただいていたのです。マザーは私のユニークスキルのこともご存知です」
「へえ、教会で働いていたのか」
「はい。実年齢は私の方が上かもしれませんが、マザーは右も左もわからない私に親のように接してくださいました。とても感謝しているのです」
「そうか。それは挨拶に行かないとな」
「ありがとうございます」
馬車は道なき道を往く。
「お客様、見えて参りましたよ」
御者の言葉に、向かう先を見遣ると、森が途切れ、視界が一気に開けた。中世欧州風の城下町、その石造りの家々、遠くに聳える白壁の城。中世ヨーロッパ風の街並みが眼前に広がる――正に、異世界転生モノで幾度となく見た王都の光景だ。
「うお……すげえな……。王都……」
「せつくんは初めてですね。牧歌郷アルカディアの王都――アルカグラです」
「お、王都ってことは王様もいるのか!?」
「は、はい。十傑・第十席に座する双子の姉妹のお父様が国を治めておいでです。な、なんだかせつくん、興奮していらっしゃいますね」
「そりゃそうだろ!日本男児たるもの……こういう中世ヨーロッパ的世界は燃えるもんだろ」
「よ、よくわかりませんが、せつくんがこのような風景がお好きなのはわかりました。記憶しておきます」
――おっと、興奮し過ぎたな。アマネもドン引いていらっしゃる。
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セツナの弱点 その二
王道好き
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「ゴホン。ま、まあ兎に角だ。まずは冒険者ギルドだな」
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露店が建ち並ぶ、石畳が敷かれた大通りは多くの人で賑わっている。目移りする程の露店の品揃えに興味を唆られる。武器や防具、回復薬等の戦闘に役立ちそうなアイテムや、物珍しい魔道具――魅力的な品ばかりだ。街は雑多で活気に満ちた空気が漂っている。
「色々売ってますね、せつくん」
「そうだな……。お、閉業につき在庫一掃セールだとよ」
「せつくん、それ一年前からやってます……」
「閉店詐欺かい……」
「ふふ、せつくん、楽しそうですね」
街ゆく人々の格好は様々だ。剣や杖を持つ、明らかに冒険者パーティと思しき一団、荷車を引く商人、甲冑を身に纏った王国騎士、スーツを着込んだサラリーマンまでいる。そして、彼らが一様に、この都の風景に溶け込んでいた。この混沌が王都を形作っているのだろう。
「十傑・第八席のトールライム様の新曲!聞いたかよ!?」
「聞いた聞いた!トールライム様のラッブってマジイカしてるよな!」
「今年の極皇杯、誰が優勝すんのかな!?」
「今年は優勝候補不在なんだろ?俺でも行けっかな!?」
「無理無理!お前じゃ予選敗退だよ!」
「十傑・第七席のヒナティ様まじ可愛いよなー。抱きてー」
「はは、そりゃ全人類の夢だろ」
雑踏の中、街ゆく人々の会話が聴こえてくる。その話題の中心になっているのは、十傑と極皇杯というワードだ。流石王都、情報も最先端だ。
「せつくん、見えてきましたよ。あれが冒険者ギルドです」
アマネが指し示す先には、一際目立つ、石造りの重厚な建物が聳えていた。アーチ状の大きな窓、分厚い扉、屋根の上にはクロスした剣と盾のレリーフ。中世ヨーロッパ風の大きな建物――ファンタジー小説における中世ヨーロッパ風建築の中央値――アニメで見た「異世界ファンタジーの冒険者ギルド」そのものである。
「なんというか……想像以上に想像通りだな」
「ふふ、冒険者ギルドなんて何処も同じですからね」
入口脇の女神像に一瞥をくれ、冒険者ギルドの前に立つ。一呼吸置いたのち、重厚な木製の扉を開ける。扉が開く際の軋みが、何処か緊張感を高めた。ギィ、と扉が開く。
すると、想像通りの光景が俺を迎え入れた。剣の手入れをする青年や昼間から大酒を食らう屈強な大男達で賑やかな様子が見受けられる。暖炉の火が赤々と燃え、埃っぽい空気を心地良く照らしている。
彼らを視線の隅に追い遣り、アマネと共に受付へと歩みを進める。暖かな室内の空気が、長旅で疲れた身体を徐々に溶かしてゆく。木の床が足音を心地良く反響させ、その音が緊張を和らげる。並ぶ木目の美しいテーブルが、昔ながらの重厚さを漂わせていた。
「冒険者ギルドへようこそ。アルカグラ支部受付のレシアと申します」
「あの、冒険者登録をしたいのですが」
「かしこまりました」
「受付」と書かれたカウンターテーブル。返事をしたのは、レシアと名乗る茶髪ミディアムボブの糸目の女性。後ろ髪は赤く大きなリボンで留めている。白いシャツの上から黒いベストを着用したレシアは、白黒豹柄の柄シャツにメイド服といった奇抜な格好の二人組を気に留めることもなく、受付嬢然とした様子で淡々と手続きを進める。
「お二人で冒険者パーティのご登録でよろしいでしょうか」
「アマネ、いいよな?」
「はい、お供させてください」
「じゃあそれで」
「登録名をお聞かせください」
「セツナです」
「アマネシエルと申します」
「セツナ様にアマネシエル様……かしこまりました。パーティ名はいかがいたしましょう」
「パーティ名か……。考えてなかったな」
「せつくんのセンスで決めてください」
――ダルい先輩か、アンタは。でもそうだな……。
少し考えたのち、俺は胸を張って答えた。
「〈神威結社〉でお願いします」
糸目の受付嬢――レシアは、一瞬だけ目を瞬かせ、口元を引き攣らせた。
「……カムイケッシャ、で……ございますね?」
「せつくん……すみません、任せた私が悪かったです」
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セツナの弱点 その三
若干厨二病
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「か、かしこまりました。では〈神威結社〉様、お二方共に冒険者ランク、Fランクからのスタートとなります」
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