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1-35 みんなの王都散策

 ――王都アルカグラ。灰色の石畳は朝陽を受けて淡く輝き、その輝きが路地の影まで染み渡るようにして流れ込んでいた。積み上げられた石造りの家々は歴史を刻んだ風貌を見せ、通りに連なる露店は香辛料、焼き菓子、鉄の匂い――それらが重なり合い、王都特有の匂いを作り上げている。


 無数の人々の騒めき。商人の声。馬車の(きし)む音。まるでこの街そのものが巨大な心臓で、鼓動を刻んでいるようだ。そんな雑踏の波を縫うように、〈神威結社〉の俺達は歩いていた。


「おーっ!色々売ってますねっ!回復薬――は要らないですねっ!アマネシエルさんがいますのでっ!」


 背中のフランが上下に弾み、細い腕でピコピコハンマーをぶんぶんと振り回す。フランの瞳は、露店の彩りに誘われるようにキラキラと輝き続けていた。


「おにいたまのなかま、たくさん、たのしい」


「仲間も増えたからな。フランが楽しいなら何よりだ。フランのおもちゃも買ってやろうな」


「おにいたま、ありがと」


「師匠はフラン殿を溺愛されてますなぁ」


「はは、フランには弱くてな」


――――――――――――――――――――――――

セツナの弱点 その九

   フラン

――――――――――――――――――――――――


「せつくん、武器屋があるようです」


「武器……色々仕入れたいですな!」


「入ってみるか」


 石畳の通りから少し奥まった場所に、古風な木造の武器店があった。扉の上には剣と(つち)がクロスした、如何(いか)にも武器屋といった看板が陽光を浴びて輝いている。


 古めかしい木の扉が、重々しい音を立てて開く。店内からは、金属の匂いと革の香りが漂ってきた。


「いらっしゃい」


 カウンターテーブルの奥で、新聞を読んでいた初老の店主が顔を上げた。店内には剣、弓、銃、そして一見用途の読めない凶悪な刃物類が所狭しと並んでいる。どの武器も手入れが行き届き、刃が静かに光を返している。武器屋というだけで、男心を(くすぐ)るものが、確かにそこにはあった。


「小生も、〈霧箱(ウィルソン)〉で戦う時用に武器を選んだ方がいいのですかな……」


「タクオフの武器って今のところ卓袱(ちゃぶ)台だからな……」


「なんですかそれっ!後で詳しく聞かせてくださいっ!」


「ああ、いいぞ」


「勘弁してくだされ……」


「ていうかタクオフさんって戦えたんですねっ!ただのオタク野郎かとっ!」


「――ぶひっ!?ハズレ女史!?」


 店内に笑いが木霊(こだま)する。その少し脇で、フランが剣の並ぶ棚に身を乗り出した。


「けん!」


「フランちゃんには大き過ぎるかもしれませんね」


 小さな手には明らかに不釣り合いな鋼の光。フランはまだ子供だ。ピコピコハンマーでは心許(こころもと)ないとはいえ、鋼の剣を渡すには早過ぎる。


「フラン、帰ったらピコピコハンマーを強くしてやろう」


「おにいたま!ほんと?」


「ああ」


 ――中に鉄芯でも仕込んでやるか。その辺のモンスター相手なら十分通用する(はず)だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「いやはや、いい買い物が出来ましたな!」


 タクオフが大量の荷物を〈霧箱(ウィルソン)〉による亜空間へ放り込む。道を歩けば、周囲の視線がチクチクと刺さる。原因は――警察官の制服を着たままのハズレちゃんだ。


「ハズレちゃん、オフなのに警察官の格好する必要あるか?」


「えーっ!セツナセンパイ酷いですよっ!私の正装ですよっ?」


「ハズレ女史、目立ってますぞ?」


「タクオフさんに服装のこと言われたくないですぅ!」


「――ぶひっ!?」


 タクオフが身に包んでいるのは、アニメの萌えキャラが全面プリントされたTシャツ。ハズレちゃんの意見が正しい。


「それを言ったら師匠も変ですぞ!」


「うるせえ」


 ――白黒豹柄の柄シャツにメイド服、警察官にアニメシャツ。このパーティ、全然緊張感ねえな……。


「ふふ、色々思うところはありましたけど、ハズレさんが入って賑やかになりましたね」


「フラン、ハズレおねえたま、すき」


「えーっ!フランちゃんっ!私もフランちゃんのこと大好きですっ!」


 背中のフランが嬉しそうに目を細め、ハズレちゃんに撫でられる。フランの笑顔が増えるなら、それでいい。


「フランが懐いてるならいいことだ」


「でもセツナセンパイに一番懐いてるみたいですけどねっ!」


「セツナおにいたま、やさしい、だいすき」


 ――かわいい~。


「もうフランは養子にしようかな」


「奥さんはアマネシエルさんですかねっ!」


「当然です!」


 アマネが拗ねたように外方(そっぽ)を向いた。その反応がまた可愛い。――その時だ。


「むむっ、あれは……どなたですかな?」


 王都郊外に着水していた浮遊島。その中央に(そび)えるオクタゴンの敷地――その洒落(しゃれ)縦格子(たてごうし)の黒い門に差し掛かると、タクオフが視線を鋭くした。玄関前で、黄色い双角を生やした黒鎧の女が扉をドンドンと叩いている。


「――開けんかいゴルァ!!」


 その女は、黒を基調とした複数のパーツで出来た軽装の鎧を身に着けている。陽光が、彼女の姿を劇的に照らし出していた。


「――出てこいゴルァ!」


 女はガタガタと玄関の扉を揺らし、扉を()じ開けようとしていた。そのやさぐれた雰囲気の黒髪のロングヘアの女の姿には見覚えがあった。


「大阪府警か、あいつは……」


「師匠、お知り合いですかな?」


「Eランク昇格戦でボロ勝ちした相手だ」


 門を解錠し、敷地内に足を踏み入れる。そして、荒れ狂う女に背後から声を掛けた。


「――おいリューカ、何の用だ」


「――あァ!?」


 頭から二本の黄色い角が生えた、黒い軽装の鎧を身に(まと)うロングヘアの竜人族(ドラゴニュート)――リューカはこちらを振り返ると、目を丸くして、ニヤリと不敵に笑った。


「そうかァ!テメェの家かァ!こんな立派な家に住みやがってよォ!やっぱ金持ってんじゃねェかァ!」


 黒い鉤爪の隙間(すきま)から覗く爪は、陽光を受けて一層の鋭さを見せた。黄色が映える双角は、庭園に差し込む陽の光を浴びて不気味な光沢(こうたく)を放っている。


「あれっ?この方、迷惑者のリューカさんですよねっ?警察も手を焼いていますっ!」


「うるせェ!その名前で呼ぶんじゃねェ!」


「セツナセンパイっ!リューカさんは、王都アルカグラ中で弱者から金銭をカツアゲして回ってる小悪党ですっ!二百八十万ゴールドの懸賞金が懸けられていますっ!」


「ガッハッハ!セツナって言うのかテメェ!今日こそ金を奪ってやらァ!」


――――――――――――――――――――――――

「略奪」のリューカ

  2,800,000G

――――――――――――――――――――――――


「仕方ない。また負かしてやるか」


 ――戦いの火蓋は、いつだって突然に。

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