表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/45

1-32 D級昇格戦:承

 パシカの頭上に浮かぶ赤い「×」。それは、俺の最初の一手が完全に的外れだったことを示す、無慈悲な宣告だった。


「――ぶひっ!?師匠、いきなり外してしまいましたぞ!?」


「あちゃぁ!最初は運ゲーとはいえ、セツナセンパイっ、やっちゃいましたねっ☆」


 タクオフとハズレちゃんが騒ぐ後ろで、パシカは椅子に深く腰掛けたまま、微動だにしない。薄く笑うその目は、研究対象を顕微鏡越しに観察する学者のそれだ。


「……ふひひ、その調子で大丈夫そ?」


「………………」


「……ふひひ、無言でヒントを与えない。……賢明。……私の番」


 パシカは迷いなく、最初の矢を放つ。まるでカードの裏面に隠された文字が既に見えているかのように。


「……ふひひ、『質問』。……『それは手で持てる大きさですか?』」


 ――次の瞬間。俺の頭上のカードがふっと発光し――「○」が浮かび上がる。


「――ぶひぃぃぃぃ!?『○』が出ちゃいましたぞぉ!?」


「あはは、タクオフさんは興奮し過ぎですねっ!」


 両者の第1ターン目を終える。パシカは余裕の表情だ。こちらは、一手目から最悪のスタートを切った格好だ。盤面は早くも「追う側」と「追われる側」に分かれた。


「……ふひひ、余裕そう」


「そうか?『×』なら『×』で、得られる情報はあるぞ」


「……ふひひ、負け惜しみ。……油断はしないけど」


 ――常人なら調子に乗っても良さそうだが……場慣れしてるな。


「よし、俺の番だ。――『質問』。『それは手で持てる大きさですか』?」


 同じ質問をぶつけ返す。観衆が息を呑む。――しかし。パシカの頭上に現れた記号は――「×」。二度目の、赤い否定。


「――ぶひぃぃぃぃぃぃっ!?師匠ォォォォォォォォォォォォォ!!!」


「タクオフさん、うるさいです」


「タクオフおにいたま、しずかにして」


「うるさいですよっ!タクオフさんっ!」


「……も、申し訳ないですぞ。……師匠なら大丈夫な(はず)ですからな」


 三方向からガン詰めされ、タクオフが項垂(うなだ)れる。不憫だ。


「……ふひひ、私の番。……『質問』。『それは日用品ですか?』」


 俺の頭上に記号が浮かび上がる。回答は――「×」。


「ふぅ……首の皮一枚繋がりましたな……」


「まだお二人の単語の特定には至りませんね……。せつくんの単語が『手で持てる大きさのものだが日用品ではない』。パシカさんの単語は『市販されているものではなく、手で持てる大きさでもない』……」


「うーんっ、でもやっぱり、『○』の分だけ、パシカさんの方が答えに近付いてる感じはありますねっ!」


 ――「市販されているものではなく、手で持てる大きさでもないもの」――あまりに抽象的だ。ヒントが足りな過ぎる。


「――『質問』。『それは物質ですか?』」


 第三ターン目。俺は次の矢を放つ。パシカの頭上に浮かび上がるのは――「×」。タクオフが頭を抱えた。


「ノォォォォォォォォォォン!!!師匠ォォォォォォォォォォォォォ!!!」


「タクオフさん、集中させてください」


「しかし!アマネシエル女史!師匠は三連続で『×』ですぞ!?」


「といってもセツナセンパイの策……ってワケでもなさそうですよねっ?」


 ――ああ、策なんてないさ。俺は三連続でミスって外した。それだけだ。


「……ふひひ、運悪過ぎワロタ」


「笑えねえって、大事な昇格戦でこんなミス」


「……ふひひ、失敬。……私の番」


 パシカはカフェオレを一口、口に運び、口元を拭って言葉を発する。


「……ふひひ、『質問』。『それは電気を使うものですか?』」


 回答。頭上のカードに浮かび上がる記号は――「×」。背後から安堵の声が漏れる。


「ふむふむ……お互い三つずつ質問しましたが……まだ見えてきませんねっ!」


「そうですね……。お互い、かなり難解な単語を選択しているのかもしれません」


 ――この手のゲーム、初心者が犯しがちなミスとして、目に入るものを単語として選んでしまう、というのがある。この部屋であれば、「蝋燭(ろうそく)」や「カンテラ」、「テレビ」、「時計」、「ティッシュ」、「テーブル」等がそうだ。


「……ふひひ、外した。……ワロタ」


 ――だがパシカはそんな初歩的なミスは犯さないだろう。そもそも俺の最初の「それは市販されているものですか?」の回答が「×」だったことで、それらの可能性は全て否定されている。


 続く第四ターン目。そろそろ特定に近付きたいところだ。俺の番。


「――『質問』。『それは特定の形を持たないものですか?』」


 パシカの頭上。巨大なカード型のホログラム。浮かび上がった紋様は――ここに来て初の、「○」だった。


「おおっ!」


 タクオフが感嘆の声を上げる。


「やりましたねっ!セツナセンパイっ!」


「やっとだけどな……」


 アマネが手帳に走り書きをしながら、冷静に整理してくれる。


「ですが……難しいですね。『市販されているものではなく、手で持てる大きさでもない』。そして、『物質でもなく、特定の形を持たない』……」


「『特定の形を持たないのに物質でもない』……って、『金属』とかそういうことじゃなさそうですねっ?」


「『感情』、『夢』、『時間』とか……ですかな?」


「フラン、むずかしい」


「フランにはちょっと難しいかもな」


 対峙するパシカの表情にはまだ余裕がある。勝負はまだ中盤戦だ。


「……ふひひ、一個くらいなら、セーフ。……次、私の番」


 パシカがカフェオレを置く。丸眼鏡が光り、次の言葉が落ちた。


「……ふひひ、『質問』。『それは食べ物ですか?』」


 しかし、俺の頭上に浮かんだ記号は「○」でも「×」でもなかった。カード型のホログラムに刻まれた記号は――「△」。


「……?『△』ですとな……?」


「『食べ物かどうかわからない』ってことですかっ?どういうことですっ?」


「せつくん……妙な単語を選びましたね……」


「……ふひひ、どゆこと……?」


 一方、ハズレちゃんはこのカミネイターが始まってから、ずっとメモを取っていた。盤面を視覚化するためだ。そこには、こう記されている。


――――――――――――――――――――――――

セツナセンパイの選んだ単語「???」

・手で持てる大きさである

・日用品ではない

・電気を使うものではない

・食べ物かどうかはわからない

――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――

パシカさんの選んだ単語「???」

・市販されているものではない

・手で持てる大きさではない

・物質ではない

・特定の形を持たないものである

――――――――――――――――――――――――

評価(すぐ下の★★★★★)やブックマーク、感想等で

応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ