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1-25 アトランティス感想戦

「十傑……!」


「あっ☆真名は漣漣漣(さんざなみ)(るい)って言うんだけどねっ☆」


 室内の温度が一段落ちた気がした。俺は息を呑み、タクオフは言葉を失って固まる。フランだけが、星を覗き込むような目で、ぽかんと小首を傾げていた。


「そうそうっ☆だからマルコの策略にも気付いてはいたんだよねっ☆敢えて泳がせて(・・・・)いただけでっ☆あっ☆海だけにねっ☆」


「はは、ディーネ女史……笑えませんぞ……」


「ごめんごめんっ☆こういう言葉遊び、トールライムくんの専売特許なんだよねっ☆ボクには出来ないやっ☆」


 ――十傑。世界で十指に数えられる怪物。その一人が目の前にいる。もし最初から彼女が動けば、マルコとの死闘も児戯ですらなかった、ということだ。


(ちな)んじゃうと、〈アトランティス市議会〉の五十人の雑兵をお片付けしたのもボクだよっ☆みんなが動きやすいかと思ったんだけど、あんまり必要なかったかなっ☆」


「それで……小生が竜宮城を出る時、〈アトランティス市議会〉の者達が倒れていたのですな……」


「うんっ☆軽いストレッチっ☆」


 さらりと言って笑う。その笑顔の奥に、圧の質が違う「位階」が見える。確信した。今の俺では、間違いなく彼女に勝てない。


「うーんっ☆ボクもそろそろ十傑だって世間に公表しちゃおうかなっ☆第二席以外のみんなは公表してるワケだしっ☆」


「マルコも、ディーネが十傑だと知らなかったのか……?」


「うんっ☆知ってたら歌姫暗殺計画なんてバカな計画立てないだろうねっ☆ボクに勝てるワケないしっ☆」


「はは……小生はとんでもない人物を庇っていたのですな……」


 ベッドに腰掛ける俺に、ディーネがぐいっと近付いた。尋常ではない露出度。目の()り場に困る。アマネが慌てて一歩、前へ。


「――ちょ、ちょっとディーネさん!せつくんに近付き過ぎです!」


 ディーネは俺を上から下まで舐めるように眺め、俺の膝の上のフランの髪をくしゃりと撫でた。フランは嬉しそうに目を細める。


「ラクシュちゃんとノクシュちゃんが言ってた〈神威結社〉って君達だよねっ☆今年の〈極皇杯(きょくのうはい)〉、出るつもりなんでしょっ☆」


「ああ、そのつもりだ……」


「そっかっ☆でも、マルコも〈極皇杯〉では何度も予選敗退に終わってるっ☆マルコに苦戦してるようじゃ、本戦には勝ち進めないよっ☆」


「まだ時間はある。鍛えるさ」


「そっかっ☆頑張ってねっ☆」


「……ディーネ、竜宮城、壊しちまって悪かったな」


「ううんっ☆また建てればいいし、別にいいよっ☆」


「そうか、助かる」


「――それでタクオフくんっ☆」


「――ぶひっ!?な、なんですかな!?」


「君が成し遂げてくれたこと――街のみんなに話したら、きっと君は英雄になれるねっ☆」


 タクオフは、少しだけ(うつむ)いて、それから顔を上げて言った。


「……いえ、ディーネ女史。言わないでくだされ」


「あれっ☆タクオフくんっ☆どうしてかなっ☆君の誤解も解けるよっ☆」


「……終わったことを態々(わざわざ)話す必要はないですぞ。何も起きなかった……全部、小生の()だった――そういうことにしてほしいのですぞ」


「おいタクオフ、それでいいのか?」


「構いませんぞ。何もなかった――それが一番ですからな」


 ディーネはふっと目を細め、弾けるように笑った。


「そっかっ☆すっごく見直しちゃったよっ☆タクオフくんっ☆――そうだっ☆ボクの下でマネージャーとして働かないっ?」


 静かに目を見開くタクオフ。


「良かったな、タクオフ。憧れのディーネ直々のスカウトだ」


「タクオフおにいたま、すごい」


 少しの静寂。タクオフは静かに首を横に振った。


「ディーネ女史。ありがたい申し出でありますが……小生、心は決まりましたぞ」


「…………そっかっ☆」


「師匠!一度は逃げた身で恐縮でありますが、小生で良ければ、〈神威結社〉の冒険にお供させていただきたいですぞ!」


「そうか。タクオフ、頼もしいよ」


「ふふ、せつくん、良かったですね」


「感謝しますぞ!必ず、師匠のお役に立ってみせますぞ!」


「タクオフおにいたま、なかま!」


「はは、仲間、ですな!」


「……フラれちゃったっ☆」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――海底都市アトランティス――幸運の街・マリンクリン、潜水艦ドック。鉄と潮の匂いが混じる密閉空間は、竜宮城崩落後の後処理と再建に向けた喧噪で、遠くまで騒めいている。


 ディーネが見送りに来ていた。護衛の魚人族(マーフォーク)が数人控えるが、十傑に護衛など飾り以上の意味はない。


 ぽっかりと水面が割れ、潜水艦が浮上。足場が伸び、俺達の退路が開く。


「セツナくんっ☆十傑を目指すんだよねっ☆世界の頂点で――待ってるからっ☆」


「ああ、必ず。頂点で」


「それとフランちゃんっ☆セツナくん達の言うことをちゃんと聞くんだよっ☆」


「うん。ディーネおねえたま」


「アマネシエルちゃんは……うん、まあ、いっかっ☆」


「……そうですね」


 意味深な打ち合いに、タクオフが首を傾げる。ディーネは最後に彼へと向き直った。


「タクオフくんっ☆たっくさんライブに来てくれてありがとねっ☆また会えるといいなっ☆」


「きっと会えますぞ!小生の師匠は、十傑になるお方ですからな!」


「――タクオフくんっ☆助けてくれて嬉しかったよっ☆ありがとねっ☆」


 彼女はそっと背伸びし、タクオフの頬にキスを落とした。一瞬の静寂ののち、タクオフは顔を真っ赤に紅潮させ、飛び上がった。


「ぶ、ぶふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」


「おい……タクオフ、落ち着け」


「師匠ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 興奮した様子で五体投地を繰り返すタクオフを見て、ディーネはくすりと笑い、くるりと(きびす)を返した。潜水艦の汽笛が、海の胸郭を震わせる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おお!島が空に浮かんでいますぞ!?」


 ――数時間後、帰宅。浮遊島・オクタゴンの玄関を押し開ける。


「タクオフ、入ってくれ」


「おお……立派な物件ですな!今日からここに住めるとは……!」


「フラン、かえった!」


「フランちゃん、ちゃんと手洗い(うがい)をしてくださいね」


「うん!」


 居間へ案内すると、懐かしい温度が肺の奥に戻る。(わず)か二日なのに、酷く長い旅だった気がする。


「おー、広々としていて、いいですな!」


「十傑のラクシュとノクシュが譲ってくれた俺達の家――オクタゴンだ」


牧歌郷(ぼっかきょう)アルカディアの姫君であり、十傑・第十席のラクシュ女史にノクシュ女史!?師匠は凄まじい人脈をお持ちですなぁ……」


 ――夜。タクオフの荷を個室に運び終え、四人で居間へ戻る。ガラスのローテーブルを囲み、L字型のソファに沈み込む。アマネは相変わらずメイド服姿だが、他は風呂上がりのパジャマ姿。テレビではニュースが緊急テロップを流した。


『――緊急速報です。三人組のアイドルユニット・〈Triple(トリプル) Crown(クラウン)〉のセンター、歌姫ディーネ様が先程、自身が十傑・第九席であることを正式発表されました。音楽業界からは二人目の十傑――』


「――さて、改めてだがタクオフが〈神威結社〉に加入してくれた。まずは歓迎しよう」


「タクオフさん、よろしくお願いいたします」


「タクオフおにいたま、なかま!」


「はは、仲間、ですな!よろしくお願いしますぞ!」


「タクオフは偉人級ユニークスキル・〈霧箱(ウィルソン)〉に目覚めた。心強いが、タクオフは飽くまでも戦闘員ではなく商人のつもりだ。つまり、戦闘は俺らで請け負う代わりにタクオフには得意の商売の腕を振るってもらいたい」


「承知しましたぞ!師匠!商売なら任せてくだされ!商売道具も持って来ていますからな!」


「つっても戦わざるを得ない状況は十分有り得る。その時は頼むぞ」


「師匠の頼みなら、仕方ないですな!それに、小生は人よりケツが硬いですからな!」


「はは、なんだそれ」


 アマネが湯気の立つカップを差し出す。


「ふふ、盛り上がって来ましたね。せつくん、明日はどうされますか?」


 ――ファンタジー世界で冒険者を名乗るなら、避けては通れない道がある。


「――ダンジョン攻略と洒落(しゃれ)込もうか」

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