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たかが挨拶、されど挨拶

 今日も今日とてチャイムが鳴り響き、生徒達が廊下の静けさに明るい光を灯す。このチャイムがなんの合図を意味しているかはよく分からないが、きっと時間を意識させるものであるということだけは分かる。


 1年A組の教室内の2人は喧騒に目もくれず、黙々とペンを走らせる。そんな2人の前に賑やかな声を上げらながらやってくるカップルが。


 「よっ、今日も元気してるか未来」

 「まあ、ぼっちらぼっちら」


 和樹の言葉にいつもの調子で答える未来。一方美鈴は顔を輝かせて毎度の如く朝陽に声をかけようとする。


 「おはよ朝く…」

 「おはようございます溝呂木さん」


 朝陽の言葉に未来以外の人物は固まる。そして1番硬直しているのはもちろん美鈴。


 「え、今、え、あ……」

 「?」

 

 美鈴の様子に朝陽は疑問符を浮かべていたが、美鈴はすぐさま隣の和樹に抱きつく。ほぼ首を絞める形で。


 「やった……やったよやったよ! あーやったよ! ねね和樹! ちゃんと見てた? 私……やったよ!」


 この1ヶ月、健気に朝陽に挨拶をしていたことが余程嬉しかったのだろう。抱きつかれている側である和樹の様子に全く目が行っていない。


 「ちょ、美鈴……ギ、ギブ…」


 呼吸が浅くなるにつれ顔を真っ青にしていく和樹。自分の首を絞めつける美鈴の腕をペチペチ叩くが美鈴は力を緩めない。


 「やったんだ……あー、もうホント、もう、ああ嬉しい……!」


 見かねた未来は朝陽の頭を軽く指で弾く。


 「はしゃぐのは構わないが彼氏がポックリしちゃうぞ」


  弾かれた場所を手で抑える美鈴からなんとか和樹は解放される。彼が息を整える中、朝陽はクスッと笑う。


 「そんなに嬉しいものですか? 溝呂木さん」


 美鈴はいつも以上の満面の笑みで頷く。


 「嬉しいに決まってるじゃん! だってようやく朝倉さんから挨拶してくれたんだよ! こう、なんていうか……とりあえず嬉しいものは嬉しいの!」


 未来は和樹の背中を摩りながら美鈴に顔を向ける。


 「とりあえず和樹のために首絞めプレイだけはやめてやってくれ。もうちょいで三途の川でも見えただろうから」


 美鈴は不満そうに頬を膨らます。


 「えー! じゃあこれからは未来の首を絞めればいいの?」

 「おいなんで俺の時は首絞めが前提なんだ」


 和樹はなんとか酸素を取り込めたのだろう。


 「まあ希美、加減してくれれば俺は大丈夫だから…… 」

 「お前はすぐに彼女を甘やかすな」

 「うん分かったよ! これからは気をつけるね!」

 「お前のそれは分かってないやつ」


 未来が両者にツッコミを入れる中、誰にも知られないようにまたしても朝陽はクスッと笑う。4月から何度も見てきた光景だが、ここ数日での美鈴達との関わり、そして未来との関わりが徐々に彼女を変えていく。


 5月開始直前の4月30日、緑葉はまだ木々に実ったばかりだ。



 


 

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