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門番は姉

 「ほら、あそこが美鈴の家だ」


 静かに並んで歩いていた2人を前に遂に目的地が姿を現した。未来は進行方向の斜め右を指差す。

 青い屋根にベージュ色に塗られた壁。広く一般的な2階建ての住宅だ。


 「ここがですか」


 自分の家からそれなりに離れた場所に建つクラスメイトの家。太陽の光を背に受けてアスファルトの道に影を落としている。 

 初めて訪れるクラスメイトの家の外装を眺めた後、彼女は未来に振り返る。


 「そういえば溝呂木さんは私が来る事を……」

  「知らせてない。厳密に言えば連れがいるって事だけは伝えてある」


 未来は淡々としながら歩みを進め、「溝呂木」と書かれた表札の横にあるインターホンの前に立つ。どうしてと言いたげな彼女の顔を見ることなく、1つため息をつく。


 「事前に伝えると多分あいつらが騒ぐと思うってのはある。けど……」


 言葉を一度区切り、正面を静かに見据えていた彼の視線はゆっくりと朝陽の方へ切り替わる。


 「美鈴のことだ。サプライズの方が風邪に効くだろ、分からんけど」


 少しだけ悪戯っぽく目が笑っていた彼の視線に思わず朝陽もクスッと笑みを零す。


 「そうかもしれませんね」

 

 微笑を返す朝陽を横目に未来はインターホンへ手を伸ばす。スイッチを押し込むと軽やかな音が響く。

 応答を待つ2人の間に静寂が流れる。木の葉がカサカサと擦れる音や、遠くで響く自動車のエンジンが耳に流れ込む。


 僅かな沈黙が過ぎるとインターホン越しにピッという音が聞こえてきた。それから間も無くして「はい!」と答える明るい女性の声。 


 未来はインターホンを見つめ返して返事をする。


 「あ、芹沢です。美鈴の様子を見に来たんですけど……」

「あー! 未来くんじゃん! 何々、美鈴のこと心配して来てくれたの! ちょっと待ってね!」


 底抜けに明るい声がインターホンから空気を震わせる。未来が苦笑を浮かべる横で、初めて聴いた声に朝陽は首を傾げる。

 

 「えっと、今の方は……?」


 朝陽の疑問に未来は肩をすくめる。 

 

 「あー、あれは美鈴のお姉さん」


 そう答えた未来の言葉に呼応するように玄関越しにドタバタと賑やかな騒音が聞こえる。勢いよく開かれた玄関のドアからは美鈴によく似た女性が。


 「おひさー未来くん! 元気してた?」

 「お久しぶりです、華彩(はなさ)さん」


 華彩と呼ばれた彼女は未来の手を握ってぶんぶんと振る。髪の長さも妹と同じショートだ。美鈴と同様、この姉も人懐っこい笑顔を全面に押し出している。ただ、年上ということもあってかどこか成熟した大人っぽさもある。

 

 「和樹も2階にいるよ! ていうか未来くん、そのお隣の女の子は?」


 華彩の視線は未来から朝陽へと移る。朝陽は少し背を正す。


 「えと、溝呂木さんのクラスメイトの朝倉と言います」


 朝陽は少し緊張した様子で頭を下げる。そんな礼儀正しい振る舞いの朝陽を前に華彩は目を輝かせる。


 「へー! 朝倉さんって言うんだ! 私、美鈴の姉の溝呂木華彩(みぞろぎはなさ)って言います! ねね、朝倉さんの下の名前は?」


妹の美鈴を彷彿とさせるような勢いの良さ。朝陽の目には目の前の華彩と、教室での美鈴が重なって見える。

 

 「あ、え、えと、朝陽と申します……」

 「朝陽ちゃんね! すっごい可愛い! え、何! もしかして未来くんとは……!」

 「あくまでクラスメイトです」


 華彩の期待を遮るように未来は頭を抱えながら横槍を挟む。


 「むー! 良いじゃん、そんな食い気味にならなくてもー。ね、朝陽ちゃん?」


 華彩からのパスに朝陽は少し困ったように眉を下げる。


 「い、いや。本当に私達、そんなに関係値無いので……」

 「えー! 朝陽ちゃんもー? どうして2人揃ってそんな寂しいこと言うの?」


 オーバーなリアクションで華彩は目の前の高校生2人を翻弄する。しかしそんな彼女はふと朝陽の顔を見つめる。


 「あれ? ちょっと待って。もしかして……」


 じっと見つめられる朝陽は瞬きを繰り返しながら視線を僅かに泳がせる。


 「あ、あの。どうかしましたか……?」


 華彩はじっと目の前の少女を見据える。  


 「ふむふむ……ふーん」


 何か分かったようにぶつぶつと呟く華彩は今度は未来を一瞥する。


 「?」


 未来が不思議そうに目を少し見開く。すると華彩はニカッと笑顔を浮かべて、パンと手を叩く。


 「うん、なるほど! そっかそっか!」


 華彩の自己解決を前に未来と朝陽は、何かあらぬ誤解をされたのではと顔を見合わせる。


 「ごめんごめん! 2人とも振り回しちゃってごめんね! ささ、中に入って!」

 「あ、はい。お邪魔します」

 「お、お邪魔します……」


 2人とも謎を残されたまま、華彩に通され溝呂木家の中へ。


 遠くの空では微かに雲が立ち込め始めていた。

 




 



 








 


 



 




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