明暗の空白と友のさざなみ
見上げれば遠くの空で雲がまばらに模様を描いている。太陽は高度を上げて影の長さは僅かに短い。木々が葉を擦らせて音を立てる。心地よさを謳う天下、未来はレジ袋を片手に友人の待つ家へと歩みを進めていた。そんな彼の隣に、教室でも隣に腰を下ろしている朝陽が少し間を空けて歩いている。
「朝倉も行動力すごいな」
「……溝呂木さんには、ここ最近良くしてもらっていましたから」
前方に視線を送ったままの朝陽の言葉に未来は「そうか」とだけ答える。身近な生活音さえ今は遠く聞こえ、静寂が2人の間をとる。重なることのない足音、レジ袋の鳴らすカサカサという音がやけに大きく聞こえる。
「芹沢さんは……」
静かな歩みを包み込むような声色で朝陽が口を開く。
「どうしてそんなに友達という存在に拘るのですか?」
そんな問いが未来の足取りを僅かに乱す。
「そんな風に見えるか?」
彼の声音は変わらない。それでもどこか落ち着かないのだろうか、彼の爪先が進路を見失ったかのように一瞬矛先を迷わす。
「ええ。なんとなく、ではありますが」
朝陽は様子を変えることなく、平坦な声を響かせる。彼女も未来のらしくない僅かな動揺を感じていた。しかし彼女は訊かずにはいられない。ドラッグストアでのやり取りで朝陽は、未来の物鬱げな雰囲気に自分の何かが揺れ動いたのを確かに感じ取っていた。
「拘ってるかは分からんけど、嫌いなら俺もここまでしない」
どこか曖昧、けれど今の朝陽にはその本意が伝わる。
彼は素直ではない。しかしなんだかんだで友人達と交わる姿に朝陽はここ数日で、当事者として巻き込まれる形で身をもって触れてきた。入学からちょっと前までは全く意識下に置くことはなかったはずが、彼ら3人の交流は確かに朝陽の視線を引きつけつつある。
「随分と変わってますね」
教室で隣の席に腰を下ろして数週間。未来はどこかボーッとしているところもあり、人付き合いも積極的ではない。それでも友達そのものはきっと手放させないのだろう。
「変えられたんだよ」
ボソッと吐かれたアンサー。朝陽が顔を向けると彼の瞳には確かな輝きと消せない影が映し出されている。
「俺、あの2人に会うまで人付き合いは苦手だったんだ。別に今は上手って言いたいわけじゃないけど」
彼のどこか控えめな部分も滲む言葉。呼応したのか近くの木々でスズメが甲高く鳴く。
「でもあいつらのおかげでもう一回、友達ってのをそばに置けるようになったんだ」
「もう一回?」
繰り返すような朝陽の疑問に未来は「あっ」と言って後頭部を掻く。
「なんでもない。とにかく、別に俺は嫌じゃないんだよ。誰かと一緒にいるのは」
「あんま気にすんな」とぶっきらぼうに未来は視線を逸らす。しかし朝陽は視線をコンクリートの道へと下げて呟く。
「もう、一回……」
未来がまるで取り消したがったような言葉は、朝陽の記憶の片隅を震わせる。2人のスペースは縮まらない。けれど彼らは同じ向きで時間を遡っていた。
気まぐれな空模様はまだ埋まることのない距離を挟む、遠い2つの背中を見つめている。
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