エンカウントとジュースとモヤモヤ
お久しぶりです! 投稿遅れてしまい申し訳ありません!
日曜日の静かな青空の下、とあるドラッグストアではゴールデンウィーク期間のキャンペーンを知らせる幟が風に煽られている。いつもの日曜日と大差ないような気がするものの、確かな高揚感が街に漂っている。
そんな穏やかな暖風をよそに未来はドラッグストアの薬品が並ぶ棚の前に立っていた。右腕にかかる真っ赤なカゴを揺らし、左手には友人達との連絡をやり取りするスマホが握られている。
【薬買おうと思ってるだけど、とりあえず漢方とかでいいか?】
指先で画面を弾き、メッセージを送る。顔を上げて棚を眺めるがすぐさまピコンという音と共に振動が伝わる。
【薬は家にあるから私と和樹の分のお菓子買ってきてほしいかな!】
そんな呑気な文面に文句の一つを返そうとした瞬間、画面には新たなメッセージが続く。
【賛成賛成! 美鈴がアイス好きだからお腹に優しいアイスを2つよろしゅう!】
あまりに自由奔放な要望に未来はため息を一つつき、画面上で指を走らせる。
【俺はパシリか。とりあえず腹に良さそうなもん買ってくるから大人しくしとけ】
そんな文章を送りつけた未来は薬品コーナーから離れ、飲料コーナーへと足を運ぶ。ひんやりとした冷気が彼を肌を撫でる。未来は健康飲料が集まる一角を覗き込み、並び立つペットボトルの群衆のラベルを眺める。
「とりあえず、定番のこれでいいか」
水色のラベルが貼られたボトルを手に取り、腕にかかった赤いカゴに放り込む。未来はスライドするように横に動き、オレンジジュースを2本掴む。
「これで全部だな」
彼は3人分のドリンクを選んだところでお菓子売り場へ目を向ける。彼の頭の中には今晩ゆっくり楽しむお菓子に思考が回っている。冷気が漂う飲料コーナーを後にし、お菓子コーナーへと歩みを進める。
「今日はどれにするかいな」
大好物の甘味が陳列する棚を前に彼の心は高揚感に浸っている。それに呼応するように少し弾む声。棚に並ぶお菓子を眺めながら横に動く足取りも軽い。
スイーティーな商品達の個装に目を奪われていた未来だったがちょうど横から来た人と思わずぶつかってしまう。
「あ、すいません……」
「あ、いや、こちらこそ……」
頭を下げる2人。未来は気まずさからこの場を一旦離れようとして顔を上げる。そして目の前にはここ最近よく目にした風貌が現れた。肩まで伸びるナチュラルブラウンの髪に、未来より低い背丈。健やかに育ったことを示すような色白。キリヤマ書店のエプロンの下にいつもあった可憐な色合いの装い。
「あ」
「え」
相手も未来のことは見覚えがあるのだろう。妙に抜けた声が重なり合う。お互いが目を見開き、硬直する時間が流れる。
「朝倉……」
「芹沢さん……その、どうしてここに?」
目の前の客、もとい朝倉 朝陽が未来に問いかける。本屋での縁といい、こうもバッタリ出くわすことがあるのだろうかと双方胸の内に仕舞い込む。
「いや、ちょっと用があって。てかなんで朝倉もここに」
「私もここに用があって……というか用があるからお店に来てるのは当たり前ですよね」
朝陽のもっともな言葉を耳で拾いつつ、未来の目は彼女の腕にかかる同じ赤色の買い物カゴに向いていた。どうやら中には可愛らしいパッケージに包まれたグミの箱、あとはミニドーナツ、そして以前好きだと言っていたイカの干物も。
「デザートでも買いに来てるのか。干物は相変わらずって感じだが」
「なんですか、私がおじさんくさい趣味をした口をしてるって言いたいんですか。私だって梅干しとか干物以外にも甘味は食べますよ」
淡々とした口調ながらもどこか過剰に反応してしまっているかのような意地っ張りなトーン。
「別にそこまで言ってない。前にお返しでもらった時は少しツマミっぽいなと思ったけど」
「思ってるじゃないですか」
「お礼言うついでに変わってるってことは伝えただろ」
未来の言葉にまだどこか納得がいっていない様子の朝陽だが彼女も未来のカゴの中に視線を送る。
「芹沢さんは……そんなにジュースを買うなんて、よっぽどお好きなんですね。まあここのドラッグストアに置いてあるものって軒並み結構安いですが」
彼女の言葉に彼は自分の腕にかかるカゴへと目を向ける。
「まあ嫌いじゃないけど、別に1人で飲むわけでもない」
「ご家族に、ですか?」
朝陽は1番あり得そうな答えを口にしたが未来は首を横に振る。
「いや、どっかの誰かさん達の分」
「それは……あ、もしかして溝呂木さんと高山さんに?」
普段の教室での未来が、基本美鈴と和樹と一緒に時間を過ごしているためかすぐに見当がついたようだ。
「正解。今頃イチャイチャしていらっしゃるであろう2人のためにパシリとしてな」
「そうですか」
彼らしい少し皮肉っぽい返答に小さく頷いた朝陽は、1本だけ毛色が違う健康飲料を指差す。
「あの、芹沢さんってオレンジジュースじゃなくていつもこういうのを飲んでいるのですか?」
「あーこれか? これは俺のじゃなくて美鈴の分。あいつ今風邪引いてるから」
「溝呂木さんがですか?」
未来はスマホを起動し、和樹と美鈴とのグループチャットの画面を朝陽に見せる。
「ほらこれ」
「あー……これは確かにそのようですけど、どこか元気というか……」
彼女の言うことも間違っていない。今日未明から、眠る未来を起こすように何回も通知音が鳴っていた。
最初は美鈴からの風邪を引いたという旨の文章だった。しかし次第にゴールデンウィーク初日に風邪を引いたことへの嘆きや彼氏である和樹からの励ましが行ったり来たりを繰り返していて、ついさっきまでは未来を差し置いて惚気全開のメッセージが飛び交っていたのだ。
「その、芹沢さんもご苦労様です……」
「まあ慣れたもんだよ……と言いたいが実際にはうるさいもんだがな」
彼は呆れた様子でスマホのスリープさせる。一方朝陽はふと気になったことを彼に尋ねる。
「それにしてもジュースを買ってあげるなんて芹沢さんも案外お優しいのですね」
彼女の疑問に未来は「あー」と言って顔を天井へと向ける。
「別に俺は優しくないよ。中学の頃からずっと3人でこうやってきただけだから」
未来の返答に朝陽は意外とでも言いたげに目を見開く。
「中学の頃から?」
「ああ、3人で決めたことっていうか何というか」
今から数年前、中学2年生だった未来と和樹達は初めて同じ教室で知り合った。あまり積極的に人と関わる真似はしない未来だったが和樹と美鈴の熱量を前に徐々に折れていき、共に過ごす時間も増えていった。そんな3人は一緒に行動をする中でとある約束を取り付けた。
それは、誰かが体調不良の時はお邪魔にならない程度で家に集まろうというものだ。
「じゃあこれまでもずっと……」
美鈴の呟きに未来は静かに頷く。
「なんでも、友達の顔を見たら治りが早くなるんじゃないかってさ。正直どうなんだってところもあるけど……」
そう言いながらも未来の口角は僅かに上がっている。いつもは騒がしい様子の2人に呆れ顔を見せることも少なくない彼だが、それでも決してそんな関わりを不快に思っているわけであろうことが朝陽にも伝わってくる。
「そうは言っても芹沢さんは律儀なんですね」
未来は朝陽に「どうだかな」と肩をすくめてどこか遠くを見つめる。
「でもあいつらは、俺の友達だから」
彼のぼんやりとしたトーンには少なくとも和樹達はとても大切に思っていること、そしてどこか寂しさが込められているようにも思える。朝陽も未来の言葉に思わず遠くを眺めるように視線を宙に向かせる。彼女の胸の内で、何かが微かにざわめいた。きっとそれは彼女ととある誰かにしか分からない、忘れられない苦み。
どこか物思いに耽る2人だったが未来はスマホを揺らす振動でゆっくりと我に返る。このお菓子コーナー以外の場所にも客足があるようで、遠くから聞こえてくる主婦らしき人達の賑やかな会話が物思いを震わせる。
「じゃ、俺はこれで」
歩みを始めて未来は朝陽の横を通り過ぎようとした。すると待ったをかけるように朝陽が口を開く。
「私もいいですか?」
彼女の言葉に未来は顔を振り向かせる。
「ん?」
朝陽は彼に歩み寄るように一歩前へ進む。
「私もお見舞いに同行させてください」
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