アンマッチなバット
お昼前の11時。高度を上げた太陽に照らされ、明度がさらに高くなった校庭。外に出た1年A組の生徒達は体育着の上に紺色のジャージを身に纏っている。
「あーあ、今日もソフトボールなんかな……」
軽く伸びをしながら未来は物憂つげに呟く。
「相変わらず未来は嫌そうだな」
隣に立つ未来を横目に、和樹は体を解している。彼は視線を、校庭半分を使っている女子の方へ向ける。美鈴はクラスメイト達に囲まれて無邪気な笑顔を振り撒いている。
「女子はサッカー、か。まあ美鈴は基本動けるタイプだから大活躍間違いなしだな!」
「誰も訊いてない」
惚気全開の友人をよそに、未来は口紐を結び直す。明るく光を反射させる地面を見て忌々しいような表情を浮かべる。
「なんでこういう時に雨が降んないだか」
「お前本当に体育嫌いだよな」
和樹は苦笑いを浮かべて未来の肩に手を置く。未来は中学の頃から体育の時間、普段以上に無気力な姿勢を見せていて、彼の体育への嫌悪感が滲んでいる。
晴天を仰ぐ未来の耳に美鈴を取り囲む喧騒の他、また別の人物を中心とした活気ある声が聞こえてくる。
「一緒に頑張ろね朝倉さん!」
「頼りにしてるよ!」
このクラスの女子の中で運動能力の高い人物といえば美鈴の他にもう1人。茶髪の髪を後ろで纏めた朝陽だ。
彼女は美鈴が見せる活発な笑顔ではなく、お淑やかとも言える程の優雅な微笑を浮かべている。
「皆さんもよろしくお願いします」
透き通るような声で周りに一礼し、場を沸かせている。太陽の下の彼女は周りの輝きを増させる。
(やっぱすごいな、朝倉のやつ)
静かに視線を向けていた未来だったが、そんな彼の脇腹を和樹がツンツンと突く。
「おーい、何見惚れてんだ未来?」
「……そんな風に見えたか?」
抑揚のない声で和樹へと視線をシフトした。和樹は目尻を下げ、うんうんと頷く。
「なんかお前めっちゃ朝倉さんのこと見てないか?」
「そりゃ見るだろ。あんだけ目立ってるんだから」
平然とした様子の未来の姿に、和樹はやれやれと首を振る。
「まあそうか。お前だって目立つ物の1つや2つは見るか」
肩をすくめた和樹は未来を腕を掴んで体育教師の立つ元へ引っ張る。
「ほい、行くぞ」
「はいはい」
未来も嫌々ながら足を運ばす。
そして始まった試合。未来と和樹は別々のチームに。男子の中でも運動能力が高い和樹はピッチャーを務めることに。先攻である未来のチームでは誰と話すことなく、運動が得意順にバッターを待つことになった。
当然不得意側の人間である未来は最後方で待機することに。コート外で試合を見守る彼は相変わらず物憂つげな様子。
(頼む、とっとスリーアウトになるか点差を一気に広げて試合を早く終わらせろ)
とてもチームプレイが重要なゲームに参加する人間の心境とはいえない、邪な心持ちで見守る未来。しかし彼の願いは呆気なく散ることに。
最初の方で既にツーアウトを抑えられた先攻チームだったがそこから意外にも粘ってみせる。大きな得点を得るようなこともなく、地道に塁を進める。
(……ちょっと待ってくれ)
徐々に運動が苦手なクラスメイト達がバッターへと登壇するが、よりによって全員がアウトを取ることなく塁を進めていった。
試合はツーアウト満塁。そして遂に来てしまった未来の番。ここで自分がアウトを取れば、流れに乗っているチームの猛攻が途絶えてしまう。運動嫌いの人間にとっては間違いなく心臓に悪いこの状況。
未来は頭を抱えたくなったが出番が来てしまった以上、拒否権はない。ホームベースへ立ち、未来はバットを握る。周りの視線が体を強張らせる。
目の前にはピッチャーの和樹。彼にしては珍しく失点を多く出したものの、未来が番が来ると瞳の輝きを強めた。未来はゴクッと喉を鳴らす。
(俺達友達だろ……? 分かってるよな?)
目線で語る未来と投球の構えを取る和樹。相対する2人はそれぞれの役目を全うする気持ちを腕に込めた。
快晴とも言える青空の下、結果として未来の願いは無事に潰えることとなった。




