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短い探索劇とプリクラの思い出

 その日の授業が全て終わり、校舎からは少しばかりの疲労のため息と、余暇を待ち侘びた賑やかな笑い声が響く。部活へと足を速める音、教室に残って弾む語らい、帰り道に彩りを加える含み笑い。様々な喧騒が治森高校周辺に活気を生む。


 そんな明るい余韻をよそに、未来は既に帰路に着いていた。西日の光が帰り道を照らす中、彼はまず自宅へ足を運ばせる。

 

 自分の家の玄関前に立ち、ドアを開く。父親である光は仕事、母親の彩乃は買い物だろうか。家の中には静寂が漂っていて、未来の足音だけが響く。

 自室へ入った彼は制服から私服へ袖を通す。カジュアルな格好になった彼は靴を履いて玄関から出る。街を照らす西日の位置は先程とほとんど変わっていない。


 キリヤマ書店へと足を伸ばす未来。財布を無くしたと嘆いていた友人、和樹の財布を探しに冒険へ。

 

 (とりあえずお店で聞いてみるか。店に無かったら和樹の家までの道で捜す、絶対嫌だけど)


 そんな思いを胸に書店への道を歩く。5月初旬らしい心地良い気温。木々の枝を覆う緑葉達が爽風に吹かれ、カサカサと音を立てる。


 数分間のウォーキングを経てキリヤマ書店の看板が未来の視界に映る。


 「まずは店員の人に……って、あれは……」


 彼の視界には看板の他に見覚えのある人物が店頭に立っていた。茶色い長髪を靡かせる少女、朝倉朝陽がキョロキョロしながら何かを握りしめている。書店へ歩みを進める未来と目を合わせると、こちらへ向けて半歩前へ。


 「今日もバイトか、朝倉」


 書店へ辿り着いた未来は私服にエプロンの朝陽に声をかける。視線は彼女の手の中にある何かへと向いている。


 「ええ、と言っても毎日ではないので昨日は出勤日ではありませんでしたけどね」

 「そうか」


 短い会話を交わす2人。静かな沈黙が彼らの間に流れる中、朝陽は何かを握る手を差し出す。


 「あの、これ……」

 「ん?」


 未来は開かれた彼女の手の中を見る。そこには少しだけシワのついた黒い革財布が。


 「これって……」

 「店長に訊いたら落ちてたみたいですよ。昨日のお客様の誰かがこれを落としたと」

 「お前、俺達の話聞いてたのか」

 「正確には"聞こえてきた"んですけどね」


 未来はじっとそれを見つめる。これまで和樹と一緒に買い物をしてきた際に何度も目にした黒い財布。間違いない、これが和樹が探していたものだ。

 

 「いいのか? 俺が受け取って」

 「あなた以外誰に渡せと言うのですか」


 朝陽は僅かに呆れた様子で未来に視線を送る。学校では中々お目にかかれない、微笑み以外の表情。


 「分かった、これはありがたく受け取る」


 差し出された朝陽の手から未来の手に渡った革財布は、中にある硬貨の軽くぶつかる音を鳴らす。

 未来の手に握られた財布を見つめながら朝陽は、らしくない様子で少し寂しげに呟く。


 「いいなぁ……」

 

 同じく財布に視線を向けていた未来だったが、彼女の小さな言葉に顔を上げる。


 「何がいいんだ?」

 「あ、いや、えと……」


 まさか未来に届くとは思っていなかったのだろう。朝陽は慌てた様子で戸惑いを滲ませる。


 「その、友達っていいなと思って……」

 「……何だそれ」

 

 未来も若干の困惑を滲ませつつ、朝陽を見つめる。だが彼の脳裏には学校での彼女の姿が浮かぶ。どこか表面的に見える微笑を周りに見せる朝陽にとって、未来や和樹や美鈴のような賑やかな関係は羨ましく見えるものなのだろうか。


 「まあ、確かに悪いものではないと思うが……」


 だが軽く財布を握っていた未来に少しだけ不意な襲撃が。


 「ックシュ!」


  彼はなんとか顔を背けたため、朝陽に何かをかけてしまうことはなかったものの、クシャミの軽い衝撃と共に財布を落としてしまう。バサッと言う音と共に財布の小さなスペースから薄い何かが2枚滑り落ちた。未来は屈んでそれを拾おうとする。


 最初に拾い上げた1枚には和樹と美鈴の、満面の笑顔が輝くプリクラ写真。

 右下には「交際1年!」と大きくカラフルな文字が。彼ららしい陽気な雰囲気が写真越しにも伝わってくる。


 そして拾い上げたもう1枚はこれまたプリクラ写真。ここにも和樹の姿が写っている。だが彼の隣には彼女である美鈴ではなく、友人である未来が立っている。

 普段通りの無愛想な表情を浮かべる未来の肩に手を回し、笑顔を浮かべる和樹。右下のスペースを「俺らズッ友!」という、炎のエフェクトが付いた文字がデカデカと独り占めしている。


 未来と同様に屈んでいる朝陽の視界にもそれら2つの写真が映る。だが彼女の瞳が次に向いたのは、写真に目を向けている未来の表情。

 パッと見では写真と変わらない淡々とした表情だが、しっかりみてみると口角が少し上がっていて目つきもどこか優しい。朝陽は彼がそのような表情を浮かべている現実に、静かに驚く。


 回収した2枚の写真を財布にしまった未来は立ち上がり、朝陽へ声をかける。


 「じゃ、確かに受け取ったってことで」 


 朝陽も姿勢を正して真っ直ぐに未来の目を見る。


 「はい、確かにお渡ししました」


 朝陽の言葉を聞いた未来はそのまま来た道へ体を向ける。


 「じゃあな、朝倉」


 彼からの初めての別れ際の言葉。どこか彼の声色には、少し嬉しそうな温かさが込めれている。朝陽も店員らしく、頭を下げる。そして蓮也が歩き出した彼の背中へ彼女は少しだけ声を張る。


 「あ、あの!」


 夕日をバックに未来は振り返る。


 「私が案外ガサツだったというのは、誰にも言わないでくれますか……?」


 恥ずかしそうに下を向く朝陽の様子に彼は苦笑を浮かべる。


 「お願いされなくたって、こっちにメリット無いんだから言わないつもりだ」


 そう告げた彼はサッと体の向きを変え、歩き出した。


 朝陽は、未来がこちらへ視線を向けていないのを確認しながら小さく礼を口にする。


 「ありがとうございます、芹沢さん」


 一方来た道を戻る中で未来の脳裏には、自分と和樹が写ったプリクラ写真がまだ色濃く残っている。

 

 「和樹の奴、まだこんなの持ってたのか」


 そう呟いた彼は財布を握る手に力を込める。


 (朝倉のおかげでまたこれを目にするなんてな……)


 朝陽のどこか羨望とも取れるような呟き。彼はあの場では上手く返事をすることが出来なかった。だがそれでも彼なりのアンサーはある。

 

 「いいもんだよ、友達ってのは」


 彼はこの財布を回収するというミッションに大きな収穫を感じていた。それはただ友人の頼みに応えただけではない、日頃のありがたみを感じる再認識の機会でもあった。


 「今回もありがとな、朝倉」


 また少し、太陽は沈むように西に寄っている。


 








 


 




 


 



 

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