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舞い降りるは微かな動揺

 「おはよ朝倉」

 「おはようございます芹沢さん」


 翌朝、未来は今日も早めに学校に到着。いつもの如く朝陽は1番乗り。彼女の長髪は朝の光に照らされ、彼女の静かな輝きに磨きがかかる。

 

 未来は隣の席に下ろしてスマホで和樹とのチャットを確認する。彼からは、財布を落としたというメッセージと共に頭を抱えたイラストのスタンプが。


 未来はつい小さく吹き出す。和樹のおっちょこちょいな一面はこの1度だけではない。

 だが和樹からのメッセージを見て、ふと未来は隣の朝陽に目を向ける。彼の脳裏には一昨日の図書カードの件が浮かぶ。


 今度は朝陽のポケットに視線を注ぐ。恐らく、彼女のポケットの中には先日のように図書カードは入っていないだろう。だがそれでも几帳面なはずの色奈がカードを財布などの小物入れではなく、スカートのポケットに入れていたことは、未来に少しだけ不思議に思わせた。


 未来は興味本位に口を開く。 


 「なあ朝倉」


 未来の呼びかけに朝陽はゆっくり振り返る。窓の隙間から流れる涼しい風が彼女の茶髪を靡かせる。


 「どうかしましたか?」


 未来は彼女のポケットに視線を向けながら続ける。


 「いやまあ、大したことじゃないんだけどさ。なんで図書カードをポケットに入れてたんだ?」


 彼の言葉に朝陽は一瞬瞳を揺らす。未来が一昨日のことを触れていることを察したのだろう。


 「その……なんで今それを?」

 「あ、いや、別に他意がある訳じゃないんだが。なんか気になってな」


 未来は視線を色奈の顔を向ける。


 「なんか朝倉の性格だと、図書カードみたいな物を財布とかに入れそうだなって勝手に思ってたからさ。なんか意外だなって」


 未来の言葉に朝陽は少しだけ顔を下に向ける。その顔には微かに赤みが差していて、体を小さく捩らせている。


 「そ、それは……」


 少しばかり気恥ずかしそうに見える朝陽の姿。


 「あ、なんか気に障ったか?」


 未来は若干申し訳なさそうに声を掛ける。


 「そ、そうではないのですが……」


 朝陽は下を向いたまま、体を僅かに震わせて椅子から立ち上がった。


 「そ、その、私、飲み物を買いに行ってきます……」


 動揺とも見れる朝陽の姿に蓮也は困惑しており、上手く返事の言葉が出てこない。

 一方の朝陽は早足でその場から離れようとしたが、彼女のポケットからは再び何かがヒラヒラと舞い落ちる。


 「あ……」


 朝陽の気の抜けた声が2人きりの教室に小さく響いた。

 未来は静かに床に落ちた白いそれに目が行く。


 太陽からの光に照らされる窓際の机。

 

 「……」


 2人だけの教室はしばらくの間、沈黙に支配される。それを打ち破ったのは未来の一言だった。


 「もしかしてだが、お前案外ガサツか?」


 未来も机から立ち上がり、屈んで落ちた白い紙を拾い上げる。

 その紙には何かしらの商品名と値段。お店の名前に、更にはクーポンのバーコードも付いている。シワの波が模様を作っていた。


 それはクシャクシャになったレシートだった。

 

 未来は朝陽に近づいて、拾い上げたレシートを差し出す。


 「はいよ」


 朝陽はプルプル震える手でそれを受け取ると、さらに赤みが増した顔を背けて歩行を早める。教室には未来1人が取り残された。


 「別にいいと思うだけどなぁ。ガサツでも」


 彼は首を傾げるばかり。


 (なんであそこまで動揺するんだか)


 未来は窓に視線を向ける。空色は明るく、真っ白な雲が所々で模様を作っている。


 「まあでも……」


 未来の顔には心なしか微笑みが浮かぶ。


 「あれはあれで可愛いもんだな」


 彼の率直な本心とも言える呟きは、静かな教室でただ溶け込むだけ。誰の耳にも届くことはなかった。


 



 

 



 


 

 

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