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そして、海水浴場へ向かった僕らは、静かな海へと、たどり着いた。

各自治体が指定する海水浴場以外で泳ぐ事は、各学校で禁じられる筈ですが、その決まりを破る学生は後を絶たないのが現状で、それは昔も今も変わらないのです。

僕達も、そうした学生達の一組(ひとくみ)に過ぎないのでした。

あの出来事に遭遇して事故さえおこさなければ、僕達は、きっと今でも、何事も無く暮らしてた事でしょう・・・。


 もと住んで居た実家のある街から、あえて遠く離れた大学を受験して入学した

僕は、それに合わせて引っ越をし、その大学に3年間通い続け、今では、そろそろ就職活動という時期なのですが。

そんな端から見れば平凡な大学生である僕には、実は誰にも話したくない出来事があるのです。

それが理由で僕は、本心では行きたい大学でも無かったこの大学の試験を受け、入学したのです。

その出来事とは・・・。

僕達が・・・いや、もしかしたら僕が犯したのかも知れない『罪』。

その罪によって、辛い思いをして中学、高校と卒業した僕は、大学では『その罪を知ってる人が居ない所』に行きたかったのです。


僕と・・・そして僕達の罪とは・・・。


それは語っても、嘘の言い訳としか受け取られ兼ねなかった恐怖体験と、その結末でした。


あれは、もう、忘れたくても忘れられない・・・・今から6年前の出来事です・・・。 



 6年前。

それは僕が中学3年生の夏休みに入って2週間が過ぎた頃でした。


 この日。

僕は仲の良い友人4人と一緒に、最寄りの海水浴場へと向かう為にバスに乗って居ました。

最寄りの海水浴場といっても、そこは僕達の近くのバス停からバスに乗って20分程も掛かる所でした。

しかも、海水浴場の近くのバス停で降車した後も、そこから海水浴場の海辺まで出るには、更に徒歩で20分以上は掛かる所でした。


 親に買って貰った中古の自家用車を所有してる今の僕にしたら、真夏の暑い日に海水浴をする為の道具を持って20分も歩き続けようとは思わないし・・・何より、もう海に入りたいとも思わないのですが・・・。

中学生の頃は、体力と時間があって、何人もの友達も居て・・・でもお小遣いは少ないので、目的地が多少遠い程度なら、皆で喋りなが歩いて向かうって事が、沢山ありました。

なので、その時の海水浴場への道のりも、そんな感覚での移動だったのです。

帰りは、海水浴でグッタリして、重たい脚を引きずる様な思いをして帰る事になるって分かってるのに、そうするんですから・・・今の感覚と違いすぎて驚きますが・・・・。


でも、あの日の帰りは、そうはならなかったのです・・・。


あの日は、親が迎えに来てくれましたからね・・・。

だから、いつもの様に、皆で疲れた脚を引きずる様にして帰る事は無かったのですが・・・。


それは幸いでは無く、不幸な事でした。


『僕達5人』の親が、僕達が泳いでた浜辺の近くまで、それぞ迎えに来てくれたのにです。

警察に事情を話してる時も、その後も。僕達4人は、遠くに横たえられて『在る筈の友人の姿』を気にして、ずっと立ち尽くして居ました・・・。

僕達が彼の近くに行く事は許されなかったのです・・・。

僕達は(みな)各々(それぞれ)の親も含めて、青ざめて疲れきった表情でした・・・。

サイレンも鳴らさずに走り去る救急車を見送った僕達4人は、各々の親に無理やり引っ張られると、各々の家の車に乗せられました。

友達と引き離される様にして別れた僕は、いつも乗せられてた自分の家の車なのに、(囚人が護送車に乗せられて運ばれる時って、こんな気持ちなのかも知れないな・・・) って、思ってました。

その感覚は、自分にとって、余りにも事が重大だったからだと思います。



 それから『僕達5人が揃った』のは、その翌日の夕方でした。




 『そこ』は地元では有名な砂浜の海水浴場で、僕達5人にとっても、とても馴染みのある場所でした。

それは、幼い頃には、親に連れられて来てた記憶が断片的にありましたし。小学生の頃からは、誰かの親に付き添い人になってもらって、数人のグループで来てた事もあったからでした。

そんな記憶が、それぞれにあったのです。

5人の中では小学校が違う友達が3人居ましたが、それは僕達が通う中学の周辺の小学校だったので、互いの家族の思い出になってる場所なんかは、似通った所も多かったのです。

そして中学2年生の時のクラス替えの時に、同じ(くらす)となった僕達は、直ぐに仲良くなりました。それは親が割りとアウトドア派だったので、クラスの他の友達よりも、もっと似たような思い出を持ってからでした。

それで、中学2年生の夏になると、僕達5人は一緒に海に行くようになったのです。


 そうして更に1年が過ぎ、中学3年生の夏の事でした。

中学2年生から3年生に掛けてはクラス替えが無かったのもあり、僕達5人は良くつるんで居ました。

そうして、その中学3年生の夏休みに入って、2週間が過ぎた頃でした・・・。

「3日後に(みんな)で、あの海水浴場へ行こうよ!」

他の4人に、そう言ったのは僕でした。

その4人とは。

小学校までスイミング・スクールに通ってて、ガッチリとして背の高い角村(かどむら)君。

いかにも普通の高校生って感じの太田(おおた)君。

太めだけと、意外と泳ぎは上手い西崎(にしざき)君。

細身で海に行っても寒がって直ぐに(おか)に上がってしまう新谷(あらや)君。

勿論、他にも色々と、それぞれに特徴などありますが、海に関する事だけとすれば、大体そんな感じでした・・・。


 僕の提案に「間沢がそう言ってけど、どうする?」と、そう言ったのは角村君でした。

間沢(まざわ)とは、僕です。

彼は僕達5人の中では、何かと先に発言するので、グループの牽引役になる事が多い人でした。

それで西崎君が「俺は空いてるから良いけど?」と言った後、太田君と新谷君も「まあ、空いてるから良いけど」と、なりました。

ただ、僕達は年頃でもあったので。

西崎君が「しかし、男ばっかりかぁ・・・」と、少々嘆いたのですが、そこに角村君が「嫌なら来なくてもいいけど?」と、冗談めかして言ってました。

それに対して西崎君は「嫌とは言ってねえし」と、少し向き(ムキ)になって答えたので、角村君は「そうか?」と、笑ってました。

「海なら女子のグループも来てるかも知れないなぁ」なんて言い出したのは新谷君でした。

それは現地でナンパでもする気があるって感じの発言でしたが、皆は内心(新谷はそう言っても、現地で女の子のグループが近くに居ても何もしないだろうな)と、思ってたと思います。

なので、そこからは各々(それぞれ)が勝手な事を言い合ってました。

「女子のグループ?」

「居るだろう?きっと」

「でも、居たからってどうなのよ?」

「そんなん決まってる」

「ナンパか?」

「ちげーよ。現地調達ってんだよ」

「ナンパの言い換えだろ?それ?」

「でも、実際に女子のグループに出会っても、誘え無いヤツばかりの集団だからな・・・俺たち」

「そんなの、過去の話かもしんないだろう」

「そうか?じゃあ、3日後の未来には『出来なかった』のを過去にしてくれよな」

「ああ、まあ俺が誘いたいと思える程の美少女が居た場合に限るがな!」

「好みの()が居る時こそ、何も出来ない癖に何言ってんだよ」

「それは3日後のお楽しみだ」

「ああ、分かった。それなら海に行くのは決定な?」

「ああ・・・そうだな・・・じゃあ決定って事で良いな?」


 そんなやり取りがあった3日後。

僕達は、短パンの下に水泳パンツを履き、鞄にはバスタオルと、ちょっとしたオヤツと飲み物を入れて、海に行きました。

それも何故か、海水浴場からは、ずっと離れた、河口近くの砂浜でした。

ナンパ目的なら、そんな所に行く筈も無いのにです。

理由は、いざ海水浴場に着いて見たら、余りに人が多くて、しかも家族連れやカップルが矢鱈(やたら)に多かったので、僕達男子中学生だけのグループだと、浮いてしまってる感じがしたからです。

気後(こきおく)れって事ですね・・・。

それで僕達が、そんな感じで意気消沈したと感じた角村君が「なんか、ここじゃ人が多すぎて、思うように泳げそうに無いなぁ・・・」と言ったので、僕達も「そうだな」と、角村君の意見に賛同したのです。

すると「海水浴場の向こう側には川があるんだけど、その辺は人が少なくて泳ぎやすいって聞いた事があるな」と、誰かが言ったのです。

それを誰が言ったかは覚えて無いのですが・・・だから、もしかしたら僕が言ったのかも知れないのですが・・・ハッキリ覚えてません。


今となっては・・・『それが誰だったとしても』、思い出したく無いのも確かです・・・。


ただ、それは僕達の総意を代弁してくれてたと言っても良かったと思います。

特別な序列があった訳でもない僕らの中で、誰も反対しなかったのです。

その理由は『ナンパをしなくて済むから』だったと思います・・・。

僕達の最初の目的からすれば、全く矛盾してると思われるかも知れませんが、3日前に皆の勢いでナンパをしなくては成らないとなった時に、僕達は互いに『したことも無いナンパで失敗する姿を友人に見られたく無い』と思ってたのではと思います・・・少なくとも僕はそう思ってました。

それで、そんな無意識的な集団心理が働いて『遊泳禁止の河口近くに行く』なんて事になったのでしょうね・・・・。


 それから更に、僕達は汗を掻きながら、20分ほども海岸線を伝って歩きました。

そうして人気の少ない河口付近に来た時。

僕達は全員「ここは良いな!」って言い合ってました。

だから、この時は後悔など何も無かったのは確かでした。

人気の無い海ではなく、人気の少ない海でした。

数人が、浜辺にレジャー・シートを敷いて寛いでたり、泳いでたりしてました。

更には、砂浜の海特有の遠浅(とうあさ)の所に立って、結構な沖の方から辺りを眺めてるオジサンなんかも居ました。

沖に立つオジサンを指差した太田君が「あんなに遠いのに、あんなに浅いのか?」と言いました。

すると角村君が「いや。あれは遠浅と言って、途中は深かったりするから注意しないと危ないからな」と答えました。

太田君は「そうなのか・・・あのオジサンは、それを知ってるからあんな所に立ってるのか?」と、角村君に聞くと「分からんけど、そうかも」と角村君は答えました。

太田君は興奮気味に「なんか凄いな・・・俺も行ってみるかな」と言うので、角村君は「ホントに危ないから。皆で慎重に沖に行かないと危ないから」と、念を押しました。

そこで「じゃあ、後でも良いから行ってみようよ」と、意見を纏める為に言ったのは僕でした・・・。


 人の少ない砂浜は、海水浴場からみたら広々として気持ちよかったです。

それに、先客が居たのが、寧ろ誰も居ないよりも安心感をもたらしてくれたのは確かでした・・・。

それで僕達のテンションは一気に上がりました。

広い海辺を僕達の思いのままに使って良いと思ったからでした。

これは、多少騒いでも文句も言われないし、寧ろ騒いだ(もん)勝ちだろうとさえ思ってたと思います。

服を脱いで、予め家から履いて来た海水パンツ姿になった僕達は、取り敢えずの準備運動をすると、一気に海へと駆け込みました。

「うっはぁー!!」と互いに声を上げ「思ったよりも(ぬる)いな!」なんて言ってました。

それからは、水の掛け合いをして、海岸に添って泳いだり、少し沖に行ってみたりしてました。

そうして30分程も海水に浸かったまま、浅瀬で遊んでた時でした。

新谷君が「俺、もう寒いから、一度上がるわ」と、言いました。

他の4人は、まだ寒むさを感じてませんでしたが、新谷君を見ると唇が紫色になって、少し震えてました。

僕は(新谷君は細身だから、他の皆よりも早くに体温を奪われたのだろう・・・)と思いました。それは去年の夏も同じだったからです。

すると角村君が「唇が紫色だぞ新谷。風邪引く前に上がって暖まった方が良いぞ。上がれ上がれ」と言いました。

それで僕達も新谷君に「もう、上がって、休んでてくれ」と言ったのです。

新谷君は「分かった。悪いな・・・」と言うと、(おか)に向かって歩いて行きました。

すると西崎君までもが「俺も一度上がるわ」と言ったのです。

西崎君は少し太めで、そのお陰なのか寒さに強いのを僕達は去年から知ってましたので、残りの3人は意外だなと思いました。

「西崎は寒く無いだろ?」と言ったのは、角村君でした。

すると西崎君は「新谷だけで陸に居させるのも、何だか可哀想だから、俺も一緒に陸に上がるわ」と言った後に「それに寒くは無いけど、少し腹が減ったからポテチでも食べてる」と言って笑ったので、僕達も笑って納得したのです。


 それで水泳が得意な角村君。水泳は学校で習った程度で、一応泳げる程度の太田君。そして、中学校では(ちゅう)(じょう)程度の泳ぎの腕前の僕。この3人が、海に残ったのです。

すると、人数が少なくなって、ある意味、身軽になった僕達は、最初にここに来た時に、遠浅の所で見知らぬオジサンが立ってた場所が気になったのでした。


「この沖って、遠浅なんだよね?」

そう言ったのは・・・・確かに、太田君でした。


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