待機命令
「先日、通報が入ったんだ。野生の熊が民家を襲ったと。人もたくさん死んだ。」
人が、、、死んだ?
「準備はいいか?森に入るぞ。ここからはいつ襲われるかわからないから気をつけろよ」
「わかりました」
俺たちの前には確実に’何か’がいる森が居座っていた。俺たちに警告するように木々が揺れ、鳥が鳴き、虫が鳴き、人の悲鳴が聞こえる。ん?人の悲鳴?
「ゴリオンさん!」
「あぁ、聞こえた」
ゴリオンさんは目を閉じ、一言。
「北だ」
「わかりました」
そう答えると、ゴリオンさんは北に全力で走り出す。それを追いかけるように足場に気をつけながら全力で走る。
それにしても早すぎないか?このおっさん。俺はついていくのに一杯一杯だ。
「助けて、、、」
俺の視界の右下に小さな男の子が映る。俺は足を止め、優しく
「どうしたんだい?」
「お母ちゃんが、、、熊に、、、」
熊?!
「落ち着いて、何があったか教えてくれるかい?」
少年の目には涙が浮かんでいる。
「さっき、ご飯食べてたら、大きな音がして、父ちゃんが見に行ったんだけど、帰ってこなくて、お母ちゃんが、熊がいるから、あんたは逃げてって、、、」
少年は自分の太ももを指差す。
太ももにはビニール傘が刺さっていた。
「大丈夫、、、ではないか」
俺は自分の靴下を脱いで太ももの付け根に巻きつける。
「とりあえずはこれで大丈夫だから」
少年は涙を拭い、
「あの熊を殺したい」
と一言。
この間、ゴリオンさんは一言も発しない。
と思っていたが
「俺が殺してくる、お前は護衛してろ」
俺は無言で頷く。
「ゴリオン、、、あのおじさんが熊をやっつけてくれるって」
この子が言って欲しいのはそんなことではない。愛する人が傷つけられている時、自分の今後なんてどうでも良くなる。ただその脅威を憎み、殺したくなる。もし俺がこの子の立場だったとして、首を持ってこられても、気が晴れることはないだろう。だが今この子は自分の状況を理解している。自分の立場を理解している。俺より立派だ。この子はきっと強くなる。
「君の名前はなんて言うのかな」
「たかと、、、」
「たかとくん、俺は君を絶対に死なせない」
すると遠くから大きな銃声と同時に熊の雄叫びが聞こえてきた。
「お母ちゃん、、、」
たかとくんは胸の前で両手を合わせている。
それを見てる俺の視界の右端で’何か’が動く。
「今の、、、なんだ?シエルさん、解析して」
『了解です。。。解析結果、猪の可能性あり。画像を出します』
「これは本当に猪なのか?」
一瞬だったこともあり少しぼやけていて見えにくい。
『見に行かないことを勧めます』
見に行くな。か、そう言われると行きたくなっちゃうんだよなぁ。
「たかとくん、、、ちょっと待ってて!」
俺は何かが見えたところまでダッシュする。
『戻ってください、今はたかとくんの護衛が先です』
「シエルさん。俺さ、猪くらいなら勝てる気がするんだよね」
『今出ているのは待機命令です。勝手な行動は控えてください』
その時はなぜかアドレナリンが出ていたせいで判断が鈍った。ここでもう少し冷静になれていたら、あんな後悔しなかったのかもしれない。




