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二月二十九日生まれの十人、異世界に召喚される!

作者: 瀬崎遊

うるう年の今日の為に書きました。

 家でTVを見ていて「笙子・・・」とお母さんに名前を呼ばれて返事をしようとしたら、尻餅をついて、痛みにお尻をさすっていたら、ここがどこだか解らなかった。


 ソファーに座って家でTVを見ていたはずなのに、森の中で私は座り込んでいた。

 理由がわからなくて周りを見回すと同じようにキョロキョロと周りを見回している人達が目に入った。ぐるりと見回すと何人もいて少し安心した。


 なんと声を掛けていいのか解らなかったけど、とりあえず「あのーー!!」と声を上げてみた。

 一斉に視線を浴びてビックとしたけれど、全員が私の側に恐る恐る近寄ってきた。

 誰が口を開くのか顔を見回すだけで、誰も口を開かなかったので、私から自己紹介をした。


「えっと、私は中原笙子(なかはらしょうこ)っていいます。あっ十五歳です」

「あっと、俺は岡本陽(おかもとのぼる)。俺も十五」

半田勇(はんだいさむ)十五」

「私は田中温子(たなかあつこ)十五歳です。後一週間で十六だけど」

「私も十五、山口敬子(やまぐちけいこ)私も一週間後に十六歳・・・」

「俺も十五。乾田和久(いぬたかずひさ)

「十五、坂本浩司(さかもとこうじ)

「私も十五歳です。宮武久仁子(みやたけくにこ)です」

「私も十五!!福田美優紀(ふくだみゆき)よ」

「俺も十五だ。沢田徹矢(さわだてつや)ちなみに俺の誕生日も二月二十九日だ」


「えっ?私も」

「俺もだ」

 全員二月二十九日生まれだった。

「それよりここはどこだと思う?」

「俺は部活の途中だったんだけど・・・」と岡本君。

「私は家でTV見てたよ」

 それぞれ部活だったりカラオケに行っていたりとバラバラだった。

 出身地もバラバラだった東京と大阪は二人ずついたけれど。


「誕生日が同じ人が集められたと考えたほうがいいよな」半田君が断言する。

「そうね・・・」福田さんも同意して、私も同じく同意した。

「私、家にいたから靴はいてないんだけど・・・」

「大きいかもしれないけど俺の靴、履くか?俺は上履きでいいから」

 半田君が手に持っていたスニーカーを差し出してくれた。


 笙子は正直男子の靴を履くのは抵抗があったけれど、森の中で靴を履かないのは怪我の元だと諦めてお礼を言って靴を借りた。紐でギュッと縛って脱げないように履いた。

「ありがとう」


「でもこの後どうしたらいいと思う?」坂本くんが尋ねる。

「遭難した時は動かないのが鉄則だけど、遭難じゃないしな」と沢田くんが言い、その格好は登山に向かう格好で、大きなリュックを背負っていた。


「皆何持ってる?」

 と私が問いかけると、遠くから声が聞こえた。

 聞いたことのない言語だったけれど、理解できた。


「おーい!!誰かいるかーーー!!」


「あっ!誰か呼んでるよ!!助けてもらおう?!」

 山口さんがそう言うと沢田くんが慌てて止めた。

「チョット待って!味方か敵かそれすらも解らないんだぞ!」

「そうよね。返事した途端殺される可能性だってあるよね・・・?」

 福田さんが自分の体を抱きしめて小さく囁いた。

「でもここに居ても死ぬだけだぞ?食べ物だってないんだから・・・」

「万が一のために男三人と女の子二人に別れて、半分は隠れて半分は存在を知らせよう」


 半分にはすぐに別れたけれど、どちらが名乗り出るかで暫く揉めた。

 岡本君は「俺が出るよ」と言ったことで岡本君・半田君・乾田君・山口さん・私が名乗り出ることになった。

 後の五人はバラバラに大木の陰へと隠れた。


 岡本くんが声のする方向左側へと歩いて行くのでそれについて行った。

「とりあえず隠れている皆から離れよう」

「そうだね」


 また呼ぶ声が聞こえて、私達も声を上げた。

「ここに居ます!!」

 岡本くんと乾田君は堂々と声を出していたけど、私を含めた三人は声が震えてほとんど声が出ていなかった。


 私達の声に気がついたのかガチャガチャと音を鳴らして近寄ってきた人達は金属の鎧を着ていた。

 私達は相手が近づいて来る事に後ろへと下がっていった。


「心配はいらぬ。助けに来たのだ!!」

「どうして僕たちがここにいると思ったんですか?」

「すまない。召喚したのは我々なのだ」

「召喚?」


「まさか異世界転移じゃないよね?」

 私がそういうと半田君が「まさか・・・」と言って

「でもそれしか考えられない?」とブツブツと言い出した。


「召喚したのは十人だから後五人いるはずなんだ」

 乾田君が「どうして召喚なんかしたんですか?」

と聞いたのに「ここは魔物が出て危ないから早々に引き上げたいんだ!!疑問はあるだろうが、安全な場所へと行ってから答えるから」と返答が来た。


「後五人を探さないと!!日が暮れるとこの辺は本当に危ないんだ!!」

 こっちに来いと呼びかけられるが、ついて行っていいのか判断がつかない。

 どうするのか皆で顔を合わせていると、「魔物が出るなら早く森から出た方がいい」と半田君が言い、隠れていた五人が顔を出してきた。


 隠れていた子達が出てきてびっくりしたけれど、とりあえず付いていくしかないかと、付いていくことに決まってしまっていた。

 

 私達を探しに来た人達に急かされて半ば駆け足のような速度で森を抜ける事になった。

 靴のサイズが合っていない私は岡本君と乾田君が両脇で抱えてくれたので、こけずになんとか進むことが出来た。


 探しに来た人達もハァハァ言いながら森を抜けると、その先に大小のテントが張られた場所へと連れて行かれた。


「ここまで来ると安全だから」と言われて私は振り返ると動物の目が何対も見えて私は叫び声を上げた。

「きゃぁっ!!」

「どうしたの?」

 福田さんが聞いてきたので私は森の方角を指さした。

 全員が息を呑んで、本当に危なかったのだと理解した。


「本当にここは安全なのですか?あんなに動物が見えるのに・・・」

「結界を張っているからこの中には入ってこれないから安心して」

 と別方向から声がした。


 鎧を付けていなくて、なんだか(きら)びやかな人が私達の方へと歩いてきた。

「うわぁ〜好みの男!!」

 と言ったのは山口さんで、この人とは相容れないかもしれないとなんとなく思った。


 岡本くんが「ここで僕たちを召喚したという説明をしてもらえるんですか?」と煌びやかな人に聞いた。

「まずは私の自己紹介から。この国の第二王子のセルビック・アストロンだ」

「本物の王子様・・・」

 山口さんの目がハート型になっているような気がした。

 

 大きなテントの中に案内されて、座るように勧められた。


 両サイドの端に簡易ベッドが五個ずつ置かれていて、あれは私達のベッドなんだろうなと思った。

 中央の右寄りに十一人が座れるテーブルと椅子が用意されていて、いわゆるお誕生日席に王子様が座ったので、適当に腰を下ろした。


「まず初めに謝罪を。あなた達をこちらに召喚したのは本当に申し訳ないと思っている。この世界には四年に一度二月二十九日があるんだ。それはあなた達の世界でも同じだと聞いている」


 私達は頷く。

「だがそちらの世界と違うのは、六〇年に一度、魔王が復活することだ。魔王が復活すると魔物が生まれ初めて、この世界を侵食しようとするんだ。魔物は我々の力でもなんとかなるんだが、残念なことに魔王だけは異世界の人の力が必要なんだ」


「異世界の人の力・・・?」

 田中さんが疑問形で復唱する。

「そう、異世界の人の力。それも一週間後の二月二十九日にその力が必要になるんだ。異世界の人のみが生み出せる聖剣が十本必要になるんだ。聖剣を扱う勇者はこの世界に十人いるんだ。ただ、聖剣だけはどうしても異世界の人にしか生み出せないんだ」


「あの、僕たち聖剣なんて生み出す力なんかありませんけど・・・」

 坂本くんがそう言って、私達全員が頷く。

「勿論それも知っている。ただ、異世界から召喚した人達にだけ聖剣が宿っているんだ。その聖剣を生み出すための呪文があって、二月二十九日にあなた達十人が呪文を唱えるだけなんだ」


「聖剣を生み出した僕たちはどうなるんですか?」

「皆、聖剣を生み出すと帰っていくからはっきり言って解らない」

「そんな無責任だわ・・・」

 宮武さんがそう言い「帰ったことに間違いないんですか?死んでる可能性もあるんでしょう?」と田中さんが聞く。


 王子が厳しい顔をして「聖剣の呪文を唱えてくれない場合は死んでもらうことになる」と言った。

「えっ?!」

「なんで?!」


「二月二十九日に異世界から来た者を殺せば聖剣に変身するんだ。その場合は本当に死ぬことになる。ただ呪文を唱えた時は最後の言葉を言い終わるとシュッと姿を消すから元の世界に帰ったと考えられている」


「申し訳ないとか言ってても、本当に悪いなんて思っていないんですね?」

「いや、本当にすまないと思っているが十人の命と、この世界全ての人の命を比較したら、十人の命のほうがどうしても軽くなってしまう」


 背後に立っていた金属の鎧を着た人が一枚の石板を置いた。

「そこに書かれている内容は解っているが、私達の言語ではないから読めないが、君たちなら読めるだろう?」


 石板には日本語で『ユルールシアンナ様、地球神様、私達は地球の日本からやって来たただの学生です。私達を元の世界に帰らせてください。そして救えるのならばこの世界も救ってください』と書かれていた。


「これが呪文ですか?」と私が聞き「そうだ」と王子が答え「ユルールシアンナ様って誰ですか?」沢田くんが聞いた。

「この世界の創造神様だ」


 石板を眺めるとなんだか日本へ帰れるような気がしてきた。

「ここになんて書かれているか本当に知っているんですか?」沢田くんが聞く。

「ユルールシアンナ様、我々の命の欠片を差し出しますのでこの世界を救ってくださいだと聞いている」

「あぁ、はい。そうですね」岡本くんが大きく頷く。

「欠片って何でしょうか?」福田さん言い、頭を傾げた。


「この石板を見せると大体の人が問題なく呪文を唱えてくれると文献には書かれている」

「はぁ・・・」

「まぁ・・・」

 曖昧に答えるしかなくて複雑な表情で頷く。


「二十九日、この呪文を唱えてくれるか?」

「・・・・・・少し考えさせてください」

「解った。夕食の時間も近い。このテントは君たちが使うといい。食事を運ばせる。君達異世界人は毎日身を清めないといけないと聞いている。簡易風呂だが用意してある。夕食後入るといい」

「・・・ありがとうございます」


 そう言い置いて王子はテントから出ていき、金属の鎧の人が「この紐を引っ張ると男女別に分けられるようになっている」と言って赤い紐を引っ張ると、テントの中央に左右に別れるように一枚の布が降りてきて。もう一本の青い紐を引っ張ると中央の布が上へと上がっていった。



 食事が運び込まれ、意外と美味しくて驚いた。

「異世界の人は裕福だと聞いていますので・・・」と言われて「まぁ・・・」と苦笑いして答えるしかなかった。


 私達は日本語で話すことに決め、それぞれの考えは、呪文を唱えたら帰れるんじゃないか?だった。

「まぁ、そう思わせておいて実は死んでる可能性もあるけどな」と沢田君。


「でも端々にすっごい気遣ってくれているのは解るよね・・・?」と私。

「だよね」宮武さんが同意した。

「今までの日本人、好き勝手していたんじゃないかな?」坂本くんが言って皆が納得している。


「でもさぁ、六十年前のことだから解らんけど、二月二十九日の誕生日の人が十人も一斉に消えたら騒ぎにならんかったんかな?」半田君が言って「聞いたことないよね」と山口さんが答えた。


「皆スマホ持ってる?」私が聞くと「持ってる」と全員が答えて「ここでは使えないかもしれないけど、ラインのグループ作らない?」私がそういうと「なんで?」と坂本君が聞いてきて「無事に帰れたか確認するためと、もしかしたら忘れてしまうかもしれないじゃない?この詳細をスマホに日記として残しておきたいの」


「あぁ。俺は賛成」と皆賛成してくれた。

 ノートPCを持っていた坂本君が詳細を記載してそれぞれのスマホに送ってくれることに決まった。

 個人個人が思ったことはスマホに書き込むことにした。

「バッテリーが勿体ないから書き込む時以外は電源落としておいたほうがいいよね」宮武さんがそういうと「あっ、俺ソーラー充電器持ってる」

「坂本くんはもしかしてPC詳しい系の人?」と山口さんが聞く。

「まぁ、そこまでじゃないけど、それなりにな」



「お風呂をどうぞ」と言われて五人一斉に入れるというので、女子が先に入って男子があとに入ることになった。


 簡易ベッドの寝心地はハンモックが少し硬い感じだった。

 こんな状況なのに私はうっかりよく寝てしまった。

 田中さんに「私は殆ど寝れなかったのに、中原さんはよく寝てたよね」と言われて「もしかしてイビキかいてた?」「ううん。寝言言ってた」「ほんとに?なんて言ってた?」「むにゃむにゃって言ってた」


 男子の方から吹き出す声が聞こえた。

「俺も聞いた。むにゃむにゃって」この声は岡本君かな?私は恥ずかしさに顔を赤くした。




 後数時間で二月二十九日がやってくる。

 私達は何度も話し合って、呪文を唱えると決めた。


 この一週間、金属鎧を着た人達が森の中に入っては魔物を倒して出てきて、一眠りしたら重い体を引きずってまた森の中に入って行くのを見送っていた。

 私達は何もできず、ただ見ているだけしかできなかった。


 王子も私達の仕事は聖剣を生むことだと言って、何も気にしなくていいと言ったけれど、安全な日本で暮らしていて、獣に襲われることすら身近にはないことなので、見ていて辛かった。


 当然、亡くなる人もいるし、怪我をする人もいる。

 怪我は聖女様が治してくれるので回復するのだけど、失った血は戻らないらしく貧血を起こしている人が多くいた。

 魔物を狩っているので食べ物には困らないらしいけど、それでも色々と大変そうだった。


 

 スマホが二月二十九日 0:00を示した。

 私達の周りを十人の勇者が取り囲み、私達は呪文を唱えた。

 それと同時にガチャンと聖剣が地に落ちる音が聞こえて、私の視界は空色の世界になった。


「えっ?戻れるんじゃないの?」

「中原さん!」

「岡本君!!」

 空に浮いているような感じで、十人揃っていた。

「くそっ!俺高所恐怖症なんだぞ!!」半田君が言って宮武さんが笑う。


『聖剣を生んでくれてありがとう』

 聞き覚えのない声が聞こえて周りを見回すが私達以外誰もいなかった。

『其方達には私は見えないよ。私は地上ではユルールシアンナと呼ばれている』

「神様ってことですか?」沢田君が尋ねると『そうだ』と返事が来た。


『君達異世界人には感謝している。ここから戻ったら、君達がこの世界に来る前の時間に戻るから、行方不明などの心配は要らない。ただ、其方達の世界での寿命が一週間縮んでしまう。欠片とはそのことだ。それだけはどうしようもないのだ。すまない』


 その一週間が自分にとって大事な時間になるのか、大したことのない時間なのか判断がつかず返事ができなかった。


『其方達にとっての異世界のその後が気になるであろう?聖剣が生まれたことによって定められた未来を見せよう』

「見られるとは思っていませんでした。結果が気になっていたのでありがとうございます」岡本くんがユルールシアンナ様にお礼を告げた。



 下を向いていると首が痛くなってきたのでうつむいて寝転がると、勇者が魔王城に攻め入って、魔王の九人の配下の人と戦っていて、聖剣がたやすく切り裂いていて、魔王だと思われる格好をした人が、私が生んだ聖剣で一太刀で斬られたのが見て取れた。


 世界中の魔物が弱体化していくのが解る。

 聖女が聖なる力で世界を浄化して魔物が消え去った。


『其方達のおかげだ。ありがとう。ではそれぞれの居るべき瞬間に戻るがいい』

「はい・・・」

「皆!またね!!」



 私は母親に呼ばれて返事をすると手にはリモコンを持ち、母親に「卵買ってきて!!」と言われて足元を見て借りた靴、どうなったんだろう?と考えながら、自転車でスーパーへと向かった。


 その日の夜、坂本くんから詳細が書かれた報告書?が届いて、全員のアドレスも念のためにと書かれていた。

 LINEのグループを作って【無事帰宅】とメッセージを送った。

 ピコンピコンピコンと音が鳴って、皆が無事帰宅していることが確認できた。




 二月二十九日、学校が終わっていつもとは違う方向への電車に乗って三つ目で降りると、そこには岡本君が待っていてくれた。


 私達は割りと近くに住んでいて、学校も駅で言うと五つ離れたているだけだった。

「岡本君!!」手を振って、私は彼に走り寄った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖剣が生まれる条件が面白かったです。 召喚された笙子たちからすると、完全に巻き込まれた格好ですが、 貴重な体験ができたとも言えるかもしれませんね。 2月29日ならではの作品、楽しませて頂き…
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