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すたーと・おーばー・りべんじゃー  作者: 小柳和也
1章 真っ当かつ、正しい立場からの理由があろうと、絶対に許せないという心を行動に表すだけの話
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4話 人の心を持つ相手なら、十分行動できる説

 案の定、勇者様が毒入りスープを持ってきた。

 朝食の毒入りスープはきちんと飲み干すことにした。


 遅効性の毒物としての出来が良すぎるゆえ、毒物の効果が発揮するのは、きっちり数時間後。数時間は自由に行動可能ということだ。ミャーさんに警戒心を抱かせない効果もある。決死の覚悟も決まる。

 毒が効き始める、ダンジョン攻略予定時刻までに、今回の生で成果を得るのだ。


 ウォークライさんは街の武具屋に併設された鍛冶屋の一角を占拠して、装備の点検中だった。

 ウォークライさんは自分の装備は、すべて自分で総点検しないと心配性で気絶する系の獣人だった。私や勇者らはいつも腕の良い鍛冶屋に丸投げだが、ウォークライさんは出会ったときから、魔王討伐直前となった今まで、こうして自らの手で装備点検に時間を割いている。同じ時間で勇者様は酒を飲みにいったりしている。生き方は自由だよね、ということだ。付き合いの悪い、無骨なウィークライさんの出来上がりだ。今回ばかりは、大変都合がよい。


「ウォークライさん、時間いいよね?」

 ウォークライさんは装備から視線をあげない。

「装備を点検中。我、忙しい。別の機会に」

「私、今日、死ぬ予定でしょ? あまり時間ないんだけど」


 装備を点検するウォークライさんの手が止まる。

 顔があがって、ゆっくりと視線が合う。

 手には整備用の金槌。凶器として十二分な鈍器。ただこの場で暴力はしないはずだ。

 なぜなら毒入りの食事を用意して、拘束魔法を多重展開して背後から斬りつけるような計画を練っているのだ。

 私は、それぐらいの手間を惜しまないと危険な存在、ということだ。


 不意をついて背後から殴りかかる、ような安易な真似はできないのだ。殺そうとした方が殺される。

 私の属性は暴力。性根が凶器。

 殺されるならば、殺そうとする仲間に攻撃することをためらうなんてことはない。私のことを皆、よく理解しているのだ。

 だからウォークライさんもギュっと握っていた金槌を、床に落とした。

 視線が私から外れた。床を向いてきた。力がなくなっている。

 勇者組の最前線で戦う大の男であれ、正面切って私とやりあうことは、分が悪いということだ。


「すべて話そう」


 ・


「なにゆえ、それを、貴様が知る」

「助けてほしいんだ。独りはつらいからね」


 これまでの生き死にを、なるべく正直に、すべて語った。ウォークライさん相手に嘘を活用することは悪手だ。愚直がちょうどいい。

「はなしてみよ、事態はこれより急変する」

 ウォークライさんとしては、私を殺害する数時間前の状況にて、殺害するはずの私から秘密の暴露をされようとしているのだ。

 どうせ殺すんだから、という認識も少しはあるだろう。同時に、殺すんだから少しぐらい不可解な状況に対して無視してもよい、と考えるような浅慮な人でもない。


 私は、私の知ることを、一から説明した。

 ダンジョン最奥で殺害されたこと、突発的な事故ではなく入念な準備がされていたこと、死んだ当日に戻ること、ウォークライさんの裏切りについては三割マシで語った。

 ここまで説明して味方になってくれないと、あっさり密告されて死ぬほどの痛みを覚えてまた最初からだ。

 いい加減、私も状況を前進させたい。同じフェーズでなにをやっても進めない状況になっている気がする。

 でも糸口はすでにいくつもあるのだ。あとは私の心を少しでも守ってくれる仲間がいれば。


「にわかに信じたいがたいが」「信じてよ」

 ウォークライさんが一瞬目をそらす。珍しい反応。そしてすぐに目が合う。打ち明けるような柔らかさ。

「われの内情を、われは語らない。仲間を信じていないわけではない。命を預ける仲間、ともがら。そしてともがらと、家族はまた別。ゆえに、家族のことを知る貴様は、家族同然の信頼を得ている、と判断するに値する」

「じゃあ」

「不詳ウォークライ。過去の過ちを、今の我が清算しよう。なんなりと命を下すがよい」

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