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すたーと・おーばー・りべんじゃー  作者: 小柳和也
0章 夢を叶える一歩手前ですべておじゃんにされた結果
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2話 仲間か家族か

 街からほど近い、高レベルダンジョン最奥。かつてのダンジョンの主が居座っていた、玉座のように広々した天井の高いヌシエリア。


 そこに持ち込まれた木椅子に座らされ、背もたれに両腕を回され縄で拘束。

 どこに連れ込まれても、私1人なら大暴れしてどうにでもなると思いあがっていた。素直についていった結果がこうだ。

 ダンジョンそばの人気がなくなった辺りで拘束された。


 正面からの殴り合いなら仕事にして飯が食えるぐらいの自信があったけど、真後ろからのウォークライさんの膂力にはかなわなかった。


 同時にミャーさんに毒注入からの拘束魔法のコンボで、私の自由はあっさり失われた。さすが魔王討伐を目前に控えたパーティーメンバーだ。行動の熟練度が違う。無駄なく素早い。ほんとガチで。

 縛られた腕は微動だにしない。力も入らない。駄目なようだ。

 道中の自動生成される好戦的な魔物らは軒並み蹂躙。並の魔物はびびってダンジョン各所へ避難中。ダンジョンのヌシは当の昔の討伐済み。


 街の住民が入ってこない、防音完備の深夜の倉庫へ様変わりということだ。

 

 街からほど近いが、私の知る限りにおいては、ここらの地域に、このレベル帯のダンジョンを攻略する攻略組はいない。ヌシ討伐は伝わっているが、それに引き寄せられた魔物らも、それに準じた魔物らだ。

 私は他者が干渉しえない、都合のよい、空間に囚われている。悲鳴をあげたところで、誰にも届かない。


 そんなところに拘束されて放置となった。

 処刑には処刑人が必要らしく、ミャーさんが勇者を呼びに消えていった。

 そして盾役の獣人族の無口なウォークライさんが見張り。

 二人っきりだ。そこまで仲良かったわけではないが、さきほど理不尽に拘束された相手だが、なにもしないなんてありえない。


「ウォーさんっ!! ねえ!! 助けてよ、黙ってないで」

 返答は無言。全身甲冑姿で顔まで覆われているので表情はうかがえない。

 なんで? 最近なんで? ばっかりだ。


 どうして2年も一緒に命賭けで戦ってきた仲間を、こうもあっさり殺したり、見捨てたりできる。

 こんなことをする奴らだんて思わなかった。

 いや想像できなかった。勇者だって性格は愚図だが、仲間をこういうふうに裏切る奴じゃない。

 だから命と背中を預けて戦ってきた。


 だから、なんで? の問いがとまらない。


 私の知っている、仲間は、こんなところで裏切らない。

 こういう局面で裏切るような奴らだったら、そもそも私は所属していない。

 だから、一切状況理解ができなくて。

 なんで? が止まらない。


 私に真正面から詰められながらも。

 甲冑越しだがウォークライさんは私から目をそらさない。愚直に、私の監視を続けている。

 でも。

 とにかく訴えた。恥も外聞もなく。

 相手が、とにかくこの騒音を止めたいがため、だけでもいい。

 私の言葉に、耳を傾けてくれるまで。

 私は声をかけ続ける。


 私は何度も続けた。文字通り声が枯れるまで。大声で。悲鳴に近い。半乱狂に近い金切り声。

 どれだけ叫んだのだろうか。喉から血の味がする。

 それでも私は声をあげる。ガラガラ声になりながら。血の唾を飲み込みながら。

 そして。

 私の叫びが。嘆きが。

 ついに。

 ウォークライさんの顔が逸らされた。

 甲冑の口元から、重たそうな声が響く。


「我が一族、少数。ゆえに守り切れない、すくない、断れない」

「守り切れない? 脅迫されている? 誰に? ミャーさん?! なんで?」

 逆らったら一族郎党皆殺しになるから、私の殺害計画に乘るしかなかった、ということ?

 重々しく首が振られる。

「君にはすまない。家族をみすてない。仲間をきりすてた」

「ねえ私死ぬの」

「君の死は確実」

「ねえ敵はなに?」

「てきは、こ」


 ばん。

 軽い音が、広々した空間に、いやに響く。

 希望はあっさり絶たれた。

 ウォークライさんが前のめりに、顔面から倒れる。

 撃たれた。黒魔術師のタナカだ。指を砲撃に見立て。体内激走弾。

 そしてミャーさんが出てきた。悲壮な顔をした勇者も続いている。


「軽々しく秘密を吐露しないほうがいいですよ。秘密厳守したい私に殺されちゃいますから」


 ウォークライさんは脳天を貫かれている。顔の周りに血だまりができている。甲冑の隙間から、ウォークライさんの瞳がみえた。瞳は真っすぐ私に向いている。生気はない。

 なんで?

「なんでそんな軽々しく殺せるの? 仲間でしょっ」

「もちろん。仲間です。背中と、命を預けると誓った仲間です」

「なんで」

「世界は平和になります」

「なに? なんなの? そうでしょ、そのために」


 魔王を討伐するために。法外の報奨金のために。


 ミャーさんはこの世のすべてを理解したかのような微笑みのまま。

「そのために、あなたが不要なんです」


 攻撃役が不要? 魔王を滅するのに主力火力を担う私が、不要?

 私が、いらない?


「彼は、その平和になる世界を、今、崩そうとしていました。自己嫌悪、自己憐憫のため。少しでも自らの気持ちを楽にしたいがため。ゆえに殺しました。今後もこういうかけ引き、こういう選択を迫られる瞬間は、ままあるでしょう。彼はそのたび悩み、困惑し、いつか決定的な過ちを犯します、と今気づきました。だから殺しました。世界平和のため」


 ミャーさんの声が遠く、聞こえる。

 言っている言葉はわかる。

 真相はわからないけど、私がいるから、世界平和はならないそうだ。

 ミャーさんは行動は狂っているが、異常者ではない。

 理由があるのだろう。真っ当な理由が。

 でも、それでも、説明されれば納得しうる理由があるとしても。


 目の前で血だまりになっている仲間の姿を、私は否定できない。

 何度も殺されてしまった私のことを、忘れることはできない。


 私の心に、ただ一つの言葉が滲む。

 私が何度も殺されても、あまり浮かばなかった言葉。

 今はハッキリと、心に浮かぶ。


「ゆるさない」


 ミャーさんはニコニコを崩さない。余裕のまま。

「世界平和のためなんです」

「そんな平和は否定する」

「残念ながら、もうさようならです」


 私の覚悟は、このとき、ようやく決まったんだと思う。


「ミャーさん。最後に質問。嘘つかないで」

「死ぬ前に真実を一つだけ提供してあげる」

「勇者は仲間? 家族?」

「いい問いね。家族よ。家族同然。あなたは仲間」

「幼馴染の同郷の厄介女子なんすね」

「言い方は気に喰わないけど概ねいいたいことはわかるさわ。正解よ」

「みゃーさん。次の世界では。絶対にあなたから、真っ先に、私が、殺す」

「は?」

「ゆるさないから」

 ミャーさんの顔からようやく余裕の色が消えていた。聡明な脳味噌は、一瞬で状況を把握していったようだ。

 一気に青ざめ、汗が滲み、狼狽が滲む。

 でももう、遅い。

「なに? まさか? 嘘でしょ。あなた。いま、何回目? 待って、タナカっ殺すな、拘束を」


 唐突に覚悟は決まっていた。すでに何回も死ぬ痛みを味わったからかもしれない。心のどこかがすでに麻痺っているかもしれない。

 取り乱すミャーさんをしり目に、私は舌を嚙みきった。

 悶絶しながら、回復魔法を浴びるようにかけられた。

 それでも私は、苦しみながら、ダンジョンから出る前に、絶命した。

 そして暗転。


 そして。いつものベッドの上で目覚めた。

 痛みはもうない。

 ただ、死ぬほどの痛みを味わった記憶があった。

 許せないという想いが、刻まれた。


 涙が流れていた。こんな状況になってから、はじめての涙かもしれない。

 ようやく泣けたのだ。

 そして涙を拭きとる。

 まだ心は錆びていない。萎えていない。


 行動しようと決めた。

 私は天涯孤独の身。冒険者として、肉体を糧に精一杯生きるしかなかった。

 血を分けた家族はもう、どこにもいない。


 皆は違うかもしれない。

 でも私にとっては、あのとき死んだ、私に憐憫をむけてくれた家族同然の仲間のために。


 皆、家族だと思っていたから。

 だから家族の裏切りは。

 絶対に許せない。


 家族が、家族同然の仲間が守ろうとする世界平和を、ぶち壊す。

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