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すたーと・おーばー・りべんじゃー  作者: 小柳和也
0章 夢を叶える一歩手前ですべておじゃんにされた結果
4/9

1話 死ぬほど痛かった傷を負った事実は覚えているけど、精神がリセットされているから今はなんとか誤魔化せる

 体調不良を理由にして、美味しい毒入りスープは下げてもらった。

 勇者は案の定、

「俺様の好意をお前は無碍にするんだなっ!」

 と怒鳴っていた。

 怒りちらしながら部屋から出ていく勇者に、正直ホッとした。

 体調不良と臥せっている仲間に対して、こういう愚図男っぷりを発揮する性こそが、私の知っている勇者様だ。


 私が毒を接種していない以上、ダンジョン攻略は延期か中止だろう。

 表向きは私の体調悪化が理由ではある。


 それでも状況次第では、宿全体を燃やしてまで私を殺すのだ。

 私をこの大陸から抹殺することは、確定事項となっていると考えるべきだ。


 毒を盛られた、と私に気付かれたと判断された瞬間、往来のど真ん中でいきなり背後から刺されても驚けない。


 行動は慎重にすべきだ。

 ただ行動は絶対にしないといけない。

 静観はない。運よく状況が好転することは期待しない。


 死ぬほどの痛みを二回も味わっていることが、私の心を変えている。

 何回も何十回も、生死を繰り返してしまった際、私の心が終わっていくだろう。


 目覚めるたびにやる気はみなぎっているが、私自身は何度も殺されたことを覚えている。

 いつか絶対に、心が終わってしまう。慣れてしまうなんてありえない。ベッドの上から起き上がることをやめてしまう。


 だからそれまでに。心がもつ、その瞬間までに。この神スキルによる復活現象に、一定の楔を、結果が欲しい。


 勇者らがどうして私を殺害しようとしているのか。

 知らないといけないのだ。


 ・


 探る対象は、パーティーメンバーらからだ。

 ミャーさんは駄目。危険だ。


 もともと勘の鋭い系女子だったと思っていたけど、こういう切羽詰まった状況ではためらいや遠慮まで消え去るようだ。

 いくら露呈してはいけないことが露呈したからといって宿まで燃やすだろうか。残虐性まで加わっているのだ。こわい。

 勇者の初期メンということは、もしかしたら幼馴染の、同郷であるかもしれない。

 私は途中から勇者組に加わったから細部は知りえないが、ミャーさんがただの古株の補助魔術師ではなく、「幼馴染」の「同郷」の「お節介焼き」であるなら、彼女がここまで狂気に積極的な理由も想像しうる。


 今日はおそらくダンジョン探索はないはずだ。仮にあるとしても夜以降のはず。体調不良の私に高価劇薬を飲ませて、強制的に行動できる状態にしたうえで殺しにいく、などの可能性もなくはない。探らないといけない。


 ・


 最初に探るべき対象は、決まっていた。

 勇者だ。


 こいつは警戒心がない。

 自分は守られて当然と思っているのだ。監視されているなら、周りがなんとかするべき、と本質的に思い込んでいる。坊やなのだ。

 他のメンバーは多少なりとも警戒しているだろう。緊張もあるだろう。2年以上、一緒に旅してきた仲間を殺害する直前なのだ。緊張感や警戒心は普段よりもはるかに強まるべき状況だ。

 それが勇者にはないのだ。


 死ぬのは嫌ではある。

 でも仮に、今回もまた死ぬとして。おそらく自動的にベッドの上で目覚めるであろうと仮定して。

 ある程度情報を確保したうえで、情報戦でマウントをとれる形にしたうえで、勇者以外の他のメンバーに接近するのがいいと思う。今は本当に情報不足だ。


 私は体調不良なので、ベッドの上で寝ていることにした。ベッドの毛布を人の形に盛り上げて細工。

 窓から脱出。

 くたびれた瓦屋根伝いに2階の高さから落下。衝撃吸収の魔法を足元に展開。おk。

 勇者様がぶつぶつ文句言いながら宿から出てきた。さっそく尾行開始。案の定、背後に注意など一切向けていない。手を伸ばすだけで殴られる距離でついていっても、勇者は何もいわないかもしれない。


 案の定だった。毒物接種させるという最初の段階に失敗したのだ。

 私らの装備品に毒物の解除薬はあるが、毒物自体はない。使う攻略組もあるだろうが、私らは使わない。

 では、この食事に混入させた毒物はどこからきたのか。

 調合したのはミャーさんだろう。でも毒物自体はどこから入手したのか。適当なところで採取してきた、なら詰みだ。

 でもこれも過程だが。


 もしも勇者らが、誰かに依頼されているなら。

 毒物自体も、提供された品である可能性がある。毒物採取に行くということは、普段とは違う行動をとることになる。それは違和感を産み、露呈の可能性を引き上げる。

 そうしないために、私が顔を知らない第三者などが毒物提供しているなら。

 そしてそれを使い切ってしまったなら。

 誰かが追加分を取りに行く、と思ったのだ。


 普段私らが立ち寄らないところへ行くはずだった。


 勇者は貧民街寄りの宿へ入っていった。

 冒険当初なら立ち寄っただろうが、すでに王国公認となってしまい毎月一定の金額を支給されるようになってからは、一切立ち寄らないような宿だ。

 基本的に拠点は変えない。別の冒険者らに妬みなどから襲撃されることもある。

 魔王討伐候補として名を馳せてしまった以上、報奨金が規格外である以上。

 多少癖のあるメンバーが多い以上。

 妬み恨みから、人間から狙われることの方が多い。


 私はマント付きのフードを被って、宿屋一階に併設されている飲み屋へ入る。カウンターでお酒を受け取ると、勇者が座っていた席の真後ろへ座る。冒険者などは、犯罪者あがりや現役盗賊だったり、とすねに傷を持っている野郎共が少なくない。露骨に素性を隠す恰好をしていても目立ちはしない。実際客層の半数は、パッと見で誰だか判別できない格好になっている。


 案の定、勇者が私に気を配る様子はなかった。

 そして勇者は、私と同じように素性を隠すようなマント付きのフードを被っている人物と向かい合っていた。

 勇者はこそこそするそぶりもなく、声をあげている。


「駄目だったよ。体調不良だそうだ。だから別のよこせ」

「体調不良……。その言を信じたのか。この状況で、たまたま体調悪化した、と」

 男。特別若くはない。高齢でもない。低い声。平均的な男性像の情報のみ。

「女だからな。そういう日もあるだろ」

「私はこういう偶然を、あり得るとは、あまり考えない。完璧な策を練ろ。次で終わらせろ」

 高圧的。命令することに慣れている口調。少し嫌な情報だ。

「わかったよ、こぇえよ、あんた」

「仕事にかかってくれ」


 いくつか単語を手に入れた。慎重に事を運びたい人物。

 これは、黒幕、ではないと思う。

 勇者らが実行部隊なら、指示伝達役。

 現場に出てこない、中枢の指示役の黒幕がいるはずだ。


 敵は。大きいかもしれない。

 そして。

 勇者らは、この大陸最強の冒険者組だ。私が加わってからの2年に限定しても、賊や妬みで狙われることは多々あった。数百回以上の襲撃があった。そのすべてを撃退してきた。死傷者はいない。敗北はない。ゼロだ。そんな私らを。

 勇者組を、こうも雑に使える勢力。

 この大陸において、相当に絞られてしまう気がした。


 勇者が先に出ていき、黒マントもそれからすぐに出ていった。

 私はお酒をしばし飲んで時間を調整してから、宿屋を出た。


「あ、いたいた」


 偶然会ったようなそぶりながら。

 宿屋の出入口の目の前で。

 待ち伏せするように。

 そこに直立していた。

 ミャーさんだった。

 私は全力でごまかすつもりだった。

 そして出会った瞬間詰みであることを理解した。


「お部屋にいなかったから。びっくりしたよ。外から鍵かけたのにいないんだもん。窓から出たんだね? なんで? なんでスープぶちまけたの? なんで? ここ勇者いるところだよね。尾行? なんで? ねえなにに気付いたの? どうして気付けたの? 凄いね。超能力? 結構がっつり慎重にことはこんでいたの。少し見直したよ正直。じゃあ行こうか」

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