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24.愛の形

アレクシスは1通の手紙を見つめ、眉間に皺を寄せている。


「いかがいたしますか?」


モーリッツが確認すると、


「捨てるか」


「中を見ずにですか?」


「見る必要あるか?」


「私からは何とも…」


「とりあえず、マリアンネを呼んでくれ」


「!?、お伝えするのですか?」


「一応、マリアンネ宛の手紙だからな」




執務室に呼ばれたマリアンネがやってきた。


「珍しいですね、いかがなさいましたか?」


「これが届いたよ。君宛の手紙だ」


差出人を見るなりマリアンネの眉間にも皺が寄った。


「何ですか?これは?」


「内容を確認するか?」


「見たくもありませんが、仕方がないですね。念のため読みます」





『マリアンネ


君には長いこと辛い思いをさせてしまってすまなかった。

この度、無事女児が誕生したが、なんと瞳の色が君と同じヘーゼル色なんだ。

私たちが親子であった証明になるだろう。今後は良き関係を築きたい。

ぜひ君の妹に会いに来てくれないか?


クリストフ』





「行きません」


マリアンネはポイっと手紙を机の上に投げた。


「リア?何が書いてあったんだ?」


アレクシスが拾い読むと、苛立ちが隠せなかった。


「何だ?これは?不敬にも程があるし内容も酷い。燃やしてしまいたいところだが、不敬の証拠になる。取っておくことを許せ」


「はい。どうぞ」



◇◇◇


それから1ヶ月後。

邸が何だか騒がしい。


「一体どうしたの?」


マリアンネが私室から出ようとすると廊下にいたイレーネを見つけ声をかけた。


「奥様…。お部屋の中に居てくださいませ。私たちで対応にあたってますので」


「対応?アレクシス様は?」


「はい。旦那様にお願いしておりますから大丈夫ですよ」


なぜ自分は蚊帳の外なのか?嫌な予感でしかなかった。


「まさか、あの男ですか!?」


「…」


「そうなのね?」


「はい。門前にいらっしゃいまして…」


マリアンネは、はあと大きく息を吐いた。


「私が行くわ」


「ですが、旦那様から奥様にはお部屋で待機していただくよう申し付かっておりまして…」


「ただの門前払いではいつまで経っても終わらないわ。私もあの男に聞きたいことがあるから、直接解決するわ」


◇◇◇


門を挟みアレクシスとモーリッツが対応に当たっていた。


「貴方とハインツェルは取り決めにより一切関わらないことになっているとお聞きしている。マリアンネは侯爵家に嫁ごうが出自がハインツェルの人間であることに変わりない。よって今後一切関わらないでいただきたい」


「ですが、マリアンネと私は親子なのだとお伝えたいですしこれまでのことを謝罪したいのです。手紙を送ったのですが、読んでいただけましたか?」


「読んだがそれがなんだ?あんな失礼な手紙今まで読んだことがない。謝罪?だったらもう2度と関わらないことが償いとなる。理解しろ」


「その通りですわね」


そこへマリアンネがやってきた。


「リア!なぜここに来た!?」


「頭の悪い方には直接言わないとご理解いただけないと思います」


「おお!マリアンネ。手紙を読んだだろう?娘が生まれたんだ。君と同じヘーゼル色の瞳だったんだ。私の娘はヘーゼル色の瞳でも問題がないことがわかった。つまり君も私の娘だったのだ」


クリストフはこれ幸いとマリアンネの父は自分だと訴えた。

マリアンネはキッと睨み付けながら言い放った。


「だから何ですか?貴方が私の父親かもしれないというだけです。あるいは叔父かもしれないというだけです。どちらにせよ血縁は血縁ですよ」


「んな!?」


「それに、貴方の今の奥様がヘーゼル色の殿方と交わっていたかもしれませんよ?」


「失礼な!それはない!私たちは四六時中一緒にいるのだから!」


「四六時中一緒に?暇なのですね。家業は何ですか?」


「家業?」


「貴方は平民として生活しているのですよ?お世話になっていた平民の女性を夫人にしたと聞きましたが?お仕事は何をされているのですか?」


「何もしていないが…」


「ではどのように生活費を得ているのでしょうね?まあ、あれだけハインツェルから持ち出していたのですから15年間生活することはできたでしょう」


「…」


「私と血縁だから何ですか?貴方はハインツェルの資産を独り占めし、私とユリウスの養護の義務を怠っていました。親だと思えるわけもありません」


「だが俺はお前の血縁で…」


「血は繋がってます。ですがそれだけです。貴方は罪により除籍され貴族ではありません。私のことは侯爵夫人とお呼びください。先程から不敬です。そもそもお手紙の時点で不敬です」


「くっ!?偉そうに!」


「そうです。私は貴方より偉いのです!」


クックックッとアレクシスは笑いを堪えられずにいた。言い分は正しいが論点がずれてきている。


「だが、私の娘も君もヘーゼルの瞳で…」


「まだ言いますか?では貴方の今の夫人の瞳の色は何ですか?」


「薄茶色だが…」


「母はアンバーでした。つまり、子どもの瞳はどちらかの色を受け継ぐだけではなく、混ざって出現してもおかしくないのではありませんか?髪色に疑問は持たなかったのでしょう?」


マリアンネの髪はディアナとフォルスター兄弟の髪色の中間色をしている。


「アウレリア様の瞳は青でしたね。ブルー系とブラウン系の親からはヘーゼルになる可能性があるのかもしれません。系統は似ていても全く同じ色を成しているわけではありませんから、私もエミーリア様もランドルフも。あるいはお祖母様のお色を受け継いだ可能性だってありますし」


「…しかし」


まだ何かを言おうとするクリストフにマリアンネは食い気味に発言を被せた。


「貴方は私を愛せないから出ていったと証言していたではありませんか。私も貴方を愛することは一切ありません。血が繋がっているから愛す愛さないではないです。この一連で私は愛について考えさせられました。実際、私に寄り添ってくれたのはアレクシス様をはじめとする侯爵邸の皆様、そしてアレクシス様の叔父様夫妻、アレクシス様のお姉様夫妻といったように私が嫁ぎ家族となった皆様です。直接私とは血が繋がってませんし、まだ繋がりとなる子どもも授かっていないにも関わらずです。血が繋がっていないで言えばユリウスとアウレリア様の間もです。アウレリア様は可能な限りユリウスを守ってくださってます。ですが、血が繋がっていても寄り添ってくれる方もいるのですよ。エミーリア様は私が従姉妹であろうが姉妹であろうが私を私として見てくれています」


「…」


「何度も言いますが私は貴方を愛することは一切ありません。私が貴方を血縁上の父としてあるいは叔父として貴方が期待している援助をすることは一切ありません。これ以上私たちに関わるならば、この一連の不敬を罪に問い更なる罰を科してもらいます。貴方はハインツェル伯爵やアウレリア様の慈悲の元、今までのことに目を瞑り平民として生きる権利を残して貰えていたに過ぎないことを肝に銘じてください」


クリストフは脱力した。


「最後に1点、こちらのドレスに見覚えはありますか?」


マリアンネの手には、ディアナが残したドレスから作ったミニドレスがあった。


「それは…、兄上の結婚披露宴の時にディアナが着たものと同じデザインのものだと思う。私たちは婚約期間も短くドレスを贈ってあげることもほとんどなかったが、私と一緒に相談しながら仕立て屋にお願いしたものだから間違いはないと思うが…」


「そうでしたか。わかりました。ありがとうございました。ではお元気で。この度はお子様誕生おめでとうございました。お帰りくださいませ」


マリアンネはミニドレスを握り潰すと邸内へと戻っていった。


「ということだ。わかったらもう2度と関わることのないように」


「…失礼しました」


アレクシスに声をかけられたクリストフはやっと諦めて戻っていった。


それを見届け、アレクシスとモーリッツも邸内へと戻っていった。



一体ドレスの何が気になったのか?

アレクシスはマリアンネにどう切り出そうか悩んでいると、


「レックス、お願いがあるのですが、ハインツェル伯爵邸に行きたいのです。まだあの人が働いていると思いますから、確認したいことがあります」


「ああ。構わないよ」


「一緒に来てくださいますか?」


「もちろんだとも」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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