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22.断罪劇の裏側

辺りは騒然としていた。祝いの場での断罪劇に落ち着けるはずもなかった。


「静粛に!!」


国王の呼び掛けに、参加者らは反応した。


「お騒がせしたようだが、今回の断罪については私が事前に報告を受け許可したものだ。この国では爵位の継承は男子のみ、さらには長子を嫡男とし、逝去によるものとしている。今回は例外の国王の承認による生前贈与を適用したい。また私はこの断罪をこの場の皆の前で披露することで、一石を投じさせてもらった。これまでどれだけの損害があったであろうか。取り崩しになった爵位や廃爵になったものもどれだけあっただろうか。継承のあり方を見直したい。それは王室においても言えることだ。長子であれば女子でも良いのではないか、あるいは優秀であれば長男でなくても選択できるようにしても良いのではないかと考えた。次回の貴族院でこれらの議論ができればと思っている。是非とも、当主は女主人や子供たちとも話し合い意見を反映させて欲しい」


これには参加者らは賛否両論あるようであった。


「この度は、ランドルフ·フォルスター伯爵は殺人罪により除籍、さらにその弟クリストフ·ハインツェルは偽証罪により除籍とし、例外によりその嫡男ユリウス·ハインツェル伯爵がフォルスター伯爵の爵位を継承するものとする。身内の重罪を暴き断罪した功績を考慮し、フォルスター伯爵の存続を認め、アウレリア·フォルスター伯爵夫人には貴族籍の継続を認める。この件に関しては以上だ」


国王のお言葉により、これ以上騒ぎ立てることは無くなった。


「さて、本日は私の即位1周年を記念したものだ。ここでめでたいことをもう一つ。我が国母であるマルティナが第3子を懐妊した。妊婦としては高齢になるため今後公務を控えることを理解願いたい。またこの運びとなるよう助言をくれたマリアンネ·ローゼンハイム侯爵夫人には敬意を表したい」


マリアンネは国王から自分の名前が出たことに驚いた。すかさず深いカーテシーを披露した。


一同はなぜフォルスターが例外を認められたのか理解した。時の人が王族と繋がりを持っていることを国王自ら発言したからだ。国王の配慮によりフォルスター伯爵は良い意味で一目置かれるようになった。


「この後は宴の続きと参ろう」


こうして、パーティーは再開した。


◇◇◇


「クリストフ様は偽証罪なのですね?」


アレクシスが疑問を呈すると、ラインハルトとアウレリアは目配せた。


「実はクリストフ様は重罪を犯していないのだ。窃盗、傷害、詐欺のどれも犯していない。クリストフ様は身分を偽って15年生活し続けたということ、このパーティーホールに入場できたということで、偽証罪を適用させてもらった」


「そうでした。どのように入場されたのですか?」


「これだよ」


クリストフの手元には、ハインツェル伯爵への招待状が握られていた。


「私がお渡ししました。ユリウスはフォルスター伯爵の子息として帯同しましたので、ユリウス宛の招待状を使っていただきました。ある意味ハインツェルの者ですから使い方は間違ってはないと思いますの」


アウレリアはそう述べるとにっこりと微笑んだ。

クリストフはもう衛兵に拘束されていない。


「計画だったのですか?」


「私とアウレリア様が接触し、クリストフ様の過去と現在を知ることになった。現在はシュトラウス領の平民として生活している。5歳になる男子がいるそうだよ。そして夫人は今身籠っておられるそうだ。この子の為に再び自分の戸籍を確認したところまだハインツェルに籍があったが不明人届けが出されていた。それは構わなかったそうだが何よりユリウス様とマリアンネ様に動きがあったことが無視できなかったそうだ。私とアウレリア様は事情を配慮し、罪を犯したことによる貴族籍の除籍に協力してもらい、実際に除籍をすることで今後平民として生活してもらうことにしたんだ」


「ここまで大がかりな断罪劇にしたのは、クリストフ様の為でもあったのですね」


「まあ、何より、ユリウス様に不利の無い結末に持っていきたかったんだ。単純な当主の犯罪では、御家の取り崩しに成りかねない。アウレリア様にとってもそれは望まれていない。王命による爵位の維持が必要だった。私から国王にお願いしたところ、逆にこのことを利用させてくれと断罪の場としてこのパーティーが選ばれた。この国は側室を設けていないし貴族も一夫一妻制だ。それで男子のみの継承では無理も生じるよ。実際君たちに助けてもらったしな」


マリアンネに目を移すと、エミーリアに支えられ視線は下を向いたままだ。エミーリアの腕に力が込められたことにマリアンネは驚き顔を上げると、2人の目の前にアウレリアが近づいた。


「お母様…」


「エミーリア、貴女、身籠ってますのね。お身体を大事になさい」


「お母様、ご報告せずにすみません」


「良いのです。私がフォルスターには関わらないよう言ったのですから。貴女が幸せに暮らしていれば、それで良いのです」


「お母様はいつからお父様を疑っていらしたのですか?」


「はじめから信用などしていませんよ。でも私が生きていくためには仕方の無いこともございました。ただ、私とエミーリアに近づき始めたのは貴女もおかしいとお思いになりませんでしたか?」


「思いました。ですが、私はそれを利用しました」


「私も同じことです」


マリアンネは2人の様子に安堵した。


「誤解が解けたようで何よりです」


「「誤解?」」


「貴女がお受けになった母の愛は本物ですわよ、エミーリア様。羨ましい限りです」


「マリアンネ様は私が貴女を訪ねたときには母のことを解っていらしたのですね、ローゼンハイム侯爵様も」


突然自分も話の中に入れられ、様子を窺っていたアレクシスも輪の中に入った。


「ええ。アウレリア様はただ先見の明をお持ちだっただけですよ。不幸になるお相手を避けられるならば避けたかっただけのこと。実際、アウレリア様の婚約者候補に挙がったクレバー子爵は今女の尻を追いかけ回すだけの能無しですし、シュトラウス侯爵夫人の婚約者候補に挙がったベルネット伯爵次男は金遣いが荒く、先日闇オークションでの悪事が発覚し処罰されましたよ」


「新興貴族の場合次世代は大抵能無しなのです。長男が優秀過ぎる場合次男はひねくれてることが多いのですよ」


「でもそれならその様に断れば良いのではないですか?」


「次に繋がる断り方をしたのでしょう。実際、貴女はシュトラウス侯爵に嫁ぐことになりました」


「全ては計算の上ですか?」


「想い合っている者同士が結ばれた方が幸せに決まってるじゃないの。貴女はアードリアン様と密かに交流なさってたでしょ?」


クスッとアウレリアは笑った。


「輿入れの際の最後の言葉の意味は何だったのですか?」


「意味?そんなの侯爵夫人として幸せになりなさいと言ったつもりでしたけれど…、伝わりませんでしたか?」


「そんなのわからないわよ!遠回し過ぎよー!!」


腹の探りあいをしなければならない貴族淑女にとっては普通の発言であったのだろう。不器用なアウレリアの心の内を知れたエミーリアは呪縛から解かれたようであった。


「でも、それならばなぜお母様自身はフォルスターに?」


「こればかりはね、断れなかったのですよ。先代フォルスター伯爵に私の父は弱みを握られていたようで、私は人質のようなものでした。そんな先代に私の仕事振りを気に入ってもらえましたから、夫はクズでしたが、幸いなことに伯爵邸では悪い扱いにはなりませんでした」


アウレリアはエミーリア出産後の肥立ちが悪く、次の出産は望めなくなった。男子を産むことは出来なかったが優秀だったことがアウレリア自身の居場所を確保することに繋がったのだった。



「ではクリストフ様、あちらにお願いできますか?」


ラインハルトはクリストフに声をかけた。


「え?」


「貴方はもう平民ですから、この場には相応しくありません」


「ああ」


「除籍の手続の用意が出来てますので、ハインツェル伯爵もお願いできますか?」


「わかりました。あの、義母も同席してもよろしいでしょうか?」


「アウレリア様かい?構わないよ」


母と呼ばれたことにアウレリアは目頭を熱くした。

マリアンネはアウレリアに近づくと声をかけた。


「アウレリア様…、ユリウスのことをよろしくお願いします」


「はい。私が目を光らせてる内はあの方に悪さをさせません」


その答えに、一番信用できる人物だとマリアンネは確信した。


◇◇◇



ランドルフの犯行は、ただの猟奇的なものであった。そして全てはディアナへの愛の為であった。アレクシスの言う通り、爵位を継承するとすぐにディアナの元へ行き、支援をする代わりに自分のモノになるよう提案をした。そんなことをディアナが望むことなどあるわけもなく、拒まれたランドルフはディアナを無理矢理ものにし、気を失ったディアナを自殺に見せかけるよう吊し上げ、何か残したかったランドルフはディアナの髪の一部を持ち帰ったのだ。


後に殺害を自認したランドルフは婦女暴行の上の殺人罪の為に極刑である処刑となった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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