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20.迫りくるあの男

国王即位1周年記念式典が行われている。

城下町は祝賀一色となり、平民もこの日はハレの日を楽しんだ。


国王の挨拶は宮殿のバルコニーから行われたため、バルコニーから一望できる広場にはたくさんの国民で賑わっていた。


高位貴族らはこのあとのパーティーに出席するため、パーティーホールに向かっていた。伯爵位から入場すると、侯爵位であるローゼンハイムの番になった。先に入場していたエミーリアを見つけると、マリアンネは挨拶をした。


「先日は足をお運びいただきありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。それに贈り物もありがとう。今日は薄手の物を身に付けさせていただきましたわ。とてもお腹が守られてる気がします」


マリアンネは腹巻きを作るとエミーリアに贈ったのだ。


辺りを見渡すと、貴族でごった返していた。


「こんなにいますと、招待客の把握は出来るのですか?警備も大丈夫なのでしょうか?」


「入り口で招待状を確認して入場させているから、持たないものは入れないし、玉座は守られてるから問題はないと思うよ」


マリアンネはなんといってもこれが侯爵夫人となって2回目の社交だ。2回目でこんなに緊張するのだから、デビュタントであるユリウスはさぞかし緊張しているだろう。


「フォルスター伯爵らはお見かけしましたか?」


「いえ、私もまだ顔を合わせておりません。既に入場しているはずですものね。挨拶をしないのもおかしいですが、会うのが怖いです」


エミーリアはお腹に手を当て、不安げな様子であった。


◇◇◇


しばらくするとパーティーが始まった。


玉座に両陛下が座ると、順に挨拶が始まった。


挨拶も折り返しとなった頃、フォルスター伯爵とハインツェル伯爵が挨拶を終えた。マリアンネらは遠くから様子を伺っていた。


「アレクシス様、ユリウスです。見違えました。あんなに立派になっているなんて」


「あれがユリウス様か?良かったな。待遇が悪かったりはしていなさそうだ」


「はい」


すると、フォルスター伯爵に近づく一人の男が見えた。


◇◇◇


「よお。兄上。お元気そうですね」


「!?」


声をかけられたランドルフは、かけられた言葉に驚くと共に、振り返って見た顔に愕然とした。


「クリストフ…」


それにはユリウスも唖然とした。


「隣にいるのは、ユリウスか?そろそろ15歳を迎えただろう?なかなか良い男に育ったじゃねぇか。伯爵だもんな。お前これから大変だぞ?その見目じゃ令嬢がほっとかないだろ」


ニヤニヤとユリウスを上から下まで観察した。


ユリウスは生身の父の姿を記憶していない為実感が湧かないでいたが、瞳の色に馴染みがあり、顔の造形がランドルフとも自分とも似ていることに納得せざるを得なかった。


「しかし、今まで出されていなかった不明人届けをこのタイミングで出すとはな。ユリウスを養子にまで迎えやがって。俺を消して継承順を上げる魂胆だろ?」


「くっ!」


ランドルフは歯を食い縛りクリストフを睨み付けた。


「だが、残念だったな。俺は生きてるし、こうやって多数の目撃がある状況で名乗り出てやったぞ。もちろん自ら役所にも申し出てるからな、そろそろハインツェル伯爵の元に不明人届け取下げの知らせが届くんじゃないか?」


「なぜ不明人届けが出ているとわかった?」


「俺はただ家を出たわけじゃねぇ。なんたって資金使い込んでるからな。悪いことしてる自覚はあるんだよ。とはいえ俺の家はハインツェル邸だからな。また裕福に暮らしてれば戻ろうと思ってたけど、戻ったって良いこと無さそうだったしな。俺がどんな扱いになってるか、定期的に戸籍の確認もしてたさ。だがここ5年くらいは確認も怠ってたんだよ。だけど神は俺を見捨てなかったね。俺が生活してたのはシュトラウス侯爵領でよ、侯爵家にエミーリアが嫁いできたことを知ることになったのさ。エミーリアは嫡子だぜ?フォルスターに動きがあるとわかったら調べずにはいられなかったんだよ。お陰で不明人届けのこともわかったし、ユリウスを養子にしたこともわかった。さらに言えばマリアンネまでハインツェルから追い出してるときた。悪いが俺が生きてる限り継承権1位は俺だ」


「ぐっ!」





「考えが甘いのですよ、あなた」


そこへ、これまで静観していたアウレリアが口を出した。


「ユリウスを養子に迎え、伯爵位を二つ持つことになる息子を設けると提案なさった時から甘いとは思っていたのですよ」


「甘いだと?」


アウレリアはランドルフの詰めの甘さを指摘し始めた。


「まずユリウスは継承権2位でしたから、1位であるクリストフ様をどうなさるおつもりなのだろうとは思っていましたわよ。そうしましたらハインツェルに籍があるうちにマリアンネ様に不明人届けを書かせて済ませるなんて、浅はかだわ。クリストフ様は資金を持ち逃げして生活なさってるのよ?逞しく生きてらっしゃるに決まってるじゃない。どこかで亡くなってる可能性の方が低いと思いましたわよ。となったら、除籍させるしかないじゃない」


「アウレリア?」


「ユリウスを養子に迎えたのですよ?私のかわいい息子ですわ。ユリウスが得られる権利は確実に得たいじゃないですか。不明人と認められるまで1年何もせずに待つなんて効率悪いですわ。自分の邸の資産を使うことは罪に問えませんけれど、十分悪い事ですわよ?先ほど言いましたわよね、逞しく生きてらっしゃるに決まってるって。更なる悪事を働いていてもおかしくないですわ。調べましたわよ。これまでに窃盗や傷害に詐欺をはたらいていたらしいじゃないですか。平民を装っていらっしゃったようですけど、誤魔化せませんでしたわね」


そこへアウレリアに呼ばれていた衛兵がやってきた。


「過去に罪を犯した人物は貴族籍を与えるに相応しくありません。除籍をお願いします」


クリストフは顔を青くし、その場に崩れ落ちた。


「ユリウス、貴方を守りますと申し上げましたでしょ?」


「…アウレリア様」


この状況に、はっはっはと声高らかにランドルフは笑った。


「なんてことだ、アウレリア。私は素晴らしい妻を持ったものだ」


するとアウレリアは睨みを効かせ言い放った。


「これで終わると思いましたか?」


「は?」


「衛兵もそのままお待ちになって。クリストフ様にはまだお話してもらわねばなりませんから」


「一体どういうことなのだ?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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